堕落的大学生の一日

ミコトバ

第1話

 ああ、暇だ。いや、厳密にいえば今から二十分後に大学での講義が控えているのだが、外を見れば今日の天気はあいにく土砂降りの雨である。こうなってしまうと外に出る気力というものがまるで出てこない。今日ある講義のうちすでに三回休んでいるものが二つあるけれど、五回までならばぎりぎり休めるし、そこまで必要な教科でもない。完全に独断だが、それくらいの自主性は大学生に与えられて然るべきだろう。

 高校生活でまるで自主性というものを感じなかった僕は、こんな風にタイムスケジュールを徹底的に自分で管理し、自分で破るということに一種の満足感を得ていた。罪悪感が無いと言えば嘘になるけれど、単位を落とすまで休むつもりもないし、試験にさえ出席して合格点を獲れば問題はないだろうと高を括っているのだ。

 全くもう少し自分を客観視できるなにかが内面にあるのならばこんな体たらくにはなっていないのであろうが、僕は昔からこうなのだ。

 妥協に妥協を重ね、言い訳に言い訳を重ねてきた人生。

すると18という年齢ながらにしてこんなにもどうしようもない人間が出来上がるという寸法だ。実はこんなことを一人考えている間に、とっくに講義には間に合わない時間になってしまっていた。

 まあ、そもそも出席する気は朝目覚めてから窓に取り付けてあるカーテンを開けて外が激しい雨で白んでいた時にはとっくに失せていたのだが。

 僕はようやくベッドから起き上がり、何も考えずに操作していたスマートフォンを枕元に放り投げ、それからのそのそとキッチンへ歩いて行く。冷蔵庫を開けて中にめんつゆがあるのを確認して、戸棚にしまってあったそうめんを取り出し、机に置いてあった電気ケトルに水を入れて沸騰したところに乾燥そうめんを突っ込んだ。徐々にふやけてケトルの中へ沈んでいくそうめんをぼうっと眺めながら、机の上のリモコンを手に取り、テレビの電源を入れた。

すでに午前十一時、どの局も主婦を対象にしたような特集を組んで放送していた。つまらない。適当にチャンネルを回し、そういえば今は八月だと気が付き、甲子園を放送していた局で止めた。しかし僕は野球が好きなわけでもないし、そもそも運動は嫌いで、ルールでさえ曖昧なのだが、甲子園を見るということは一般の大学生のよくある習性だと理解はしていたので、それに則ってルールのよくわからない関係のない県同士の球遊びを観ているのだ。なんにも面白くないけれど、なんにもしていないという自分を作りたくない。夏の甲子園には僕の自尊心の犠牲になってもらうとしよう。


 寝ていた。いつから寝てしまったのかも忘れてしまったが、目を覚ませば日が暮れ始めていた。絶望。いわゆる、絶起。ああ、また一日を無駄に過ごしてしまった。テレビはつけっぱなし、夕方のニュース番組が流れていた。子守歌としての重役を果たしたテレビの電源を落とし、ベッドから持って来てそれから床に放置したままだったスマートフォンを手に取る。もう午後五時か。机の上にはそうめんを盛りつけた大皿とめんつゆが半分残った器、そして乱雑に置かれた箸が一膳。朝食兼昼食を食べ終わり、ベッドに放ったスマートフォンを手に取ってポチポチいじっていると眠気に襲われた僕はそのまま倒れるように床に横になり、眠り込んだということだった。

 なんだ、このだらしなさ。呆れて物も言えない。

 しかし残念かな、これは僕のありふれた日常の風景なのである。毎日昼ぎりぎりの時間に起床して、朝食とも昼食とも位置づかない飯を食べ終わるとスマートフォンでネットの海を漁り、眠気に任せて寝落ちし、夕方に目を覚ます。なんと堕落したルーチンなのだ。本来ならば改善しようともがくことなのだろうが、生憎僕はそこまで人間ができていなかった。こうして夕方に目を覚ます僕は、毎日こう自分に言い聞かせるのである。

 明日こそ頑張ろう。


 けれども、その決意は果たされなかった。それはなぜか。答えは実にシンプルである。

僕にはこの日以降、明日が来なかったのだ。

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