異世界で買い物した

「なんでわざわざそんなチョイスを…………」

「ワタルのに似ているでしょ?」

 姫はワタルが着てるのと似た感じの服を買って機嫌が良さそう。

 さっきも服を選びながらこれはワタルの為って言ってて意味が分からなかった。


「フィオ、フィオ、あなたもちゃんと買うのよ? 自分で選ぶのが難しかったらワタルを頼りなさい。男って女に自分の好みの格好をしてもらえると喜ぶものよ。そうじゃなくても可愛かったり綺麗だったり、着飾って魅力的になってあげればそれだけで元気が出るんだから、特に下着は重要よ? 選ばせてあげたらきっと喜ぶわ」

 ワタルに聞こえないように顔を寄せてきた姫がそんな事を言う……私には姫が何を言ってるのか意味が分からない。どうして服を着ただけで喜ぶの?

 姫の考え方はやっぱりよく分からない。

 そんなことよりももっと何か――美味しいものとか食べた方がいい、グミとか――っ! そう、ここはワタルの世界、グミ、売ってる。

 お金いっぱいあるならグミ買う方がいい。


「次はフィオのだな」

「いらない」

「まぁまぁ、行ってみたら気に入る物があるかもしれないだろ? それに暑いんだから汗掻くし、着替えがあった方がいいんだ」

 着替え……ワタルもリオもいつも綺麗にしてなさいって言う。なら……ちょっとだけ、買う。

「待ちなさいワタル、まだ私のが終わってないわ」

「え? でも、もう買ったんじゃ?」

「下着がまだよ、一緒に選びなさい。ワタルの好みの物を着てあげるから、その方がワタルも嬉しいでしょ?」

「…………一人で選んでください。俺はフィオの服買いに行くんで」

 困ったように視線をさまよわせて私と目が合うと慌てて逸らした。やっぱり姫の言うとおり?

「フィオのを選ぶなら私にも選びなさいよ~」

「んじゃあ白か黒系で」

 ちょっと困った顔で、それでも少しだけ嬉しそうに答えた……やっぱり選ばせてあげるといいんだ。


「結局そんな感じか…………」

 選んでって言ったけど私が選ぶのが一番だって言って選んでくれなかった。

 だからとりあえず戦いやすい服を選んでいく、そしたら今のとあまり変わらないのになった。

「これが動き易い」

 他には…………っ! これ、これすごい……さらさらしてて気持ちいい。それなのに生地が薄くて涼しそう……これ、ほしい。獣みたいな耳も付いてて着たらもさみたいに可愛い――可愛かったら、ワタルも喜ぶ?

「どうした? なんかあったか? ……それが要るのか?」

「…………ぅん」

 買っていいかな……値札? らしきものに0が多めに付いてるけど、この世界の物価なんて知らないし……。

「んじゃレジに……って全部買うのか!?」

 ワタルがいいって言うから売り場のを全部取ったら驚かれた。

「色と長さが違う」

 着替えがあった方が良いって言ったのはワタル、それに色んな色があるし、袖が長いのと短いのもある……大きいのは帰ったらリオにあげてもいいし……一緒なの着るの…………いい。


「着替えがあった方が良いって言った」

 黙ったまま何も言ってくれないワタルに少し我が儘を言ってみる。

「…………はぁ、分かった。下着はどうするんだ? ちゃんと買っておけよ」

「ん」

 下着……よく分からないけどこれはワタルに選ばせるのが良いって姫が言ってたから絶対に選ばせる。

「って、なんだ? 引っ張るな……げっ!?」

「選んで」

 喜ぶと思ったのに……売り場まで連れてきたら顔をひきつらせてる。どうして?

「い、いや、自分で決めろ。選んでる間俺はあっちで待ってるか――放せよ?」

 なんで姫の時だけっ……なんだか私より姫が特別扱いされてるみたいでむかむかしてきた。


「選んで」

 大切って言うくせに、なんで姫の方が特別? 逃げようとするワタルの手を強く掴んで放さない。

「どうしてもか? こういうのは自分で選んで買う方がいいと思うぞ? さっきだって自分で気に入った服を選んだだろう? 気に入った物を買って着る方が気分もいいぞ?」

 さっきはさっき、これはこれ、姫だけ特別は嫌。

「…………」

 言い訳して逃げようとしてる。絶対選ばせる、同じ扱いにしてもらう。ワタル喜ばせる。

「ねぇ? あの人って…………」

「だよね、やっぱり…………」

「やっぱりそういう趣味…………」

 他の客がまたワタルの事を悪く言ってる。

 それとなく睨むと少し距離を取ったけどまだこっちを見てる。ワタルも顔を曇らせてく……絶対選ばせて喜ばせないと――。

「どれ?」

「本当に自分で決めないのか? 自分で決める方が良いぞ?」

「ティナもワタルに選んでって言ってた」

 それでワタルも嬉しそうにしてた。

 なら私だってそうしたい、ワタルの傷治したい。

「選んで」

「なら…………縞々?」

 周囲に視線を向けるのをやめて商品に目を向けると一瞬難しそうな顔をした後水色の縞々を指差した。

「ワタルは縞々が好きなの?」

 姫には白か黒って言ってたけど、姫のを適当に選んだ……? それとも私の方が適当……?

「好き?」

 嘘を言ってないか見極める為にワタルの表情、動きを注意深く観察する。

「好き、かもしれない…………」

 何かを観念したようにそう言った。嘘は……言ってない――困ったようにちょっと笑ってる。喜んだ?

「分かった」

 もっと喜ばせる為に色んな縞々を買う事にした。

 これだけあったらワタルがもっと好きな縞々もあるかもしれない。

 そしたらもっと元気出て能力も戻る。

 そんな感じで私と姫の異世界での初めての買い物は終わった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る