開催
「暇だ…………天明ー魔物はー?」
「ルイズ家が捕まってからは報告がぱたりと止んでる。警戒はもちろん続けているけど、報告があって騎士団の人間が魔物を確認出来た事が殆どないから……民の不安を煽ってソフィアや騎士団へ批判を向ける為の誤報だった可能性もある」
「なんだよそりゃ……そんな事したって王位に就ける訳じゃないだろ」
「そうでもない。王位に就く条件は王家の血を引いている事、臣下の信頼を得ている事、民に慕われている事、あとは先王からの指名だけど、他の条件を満たしていないと異議を唱えられて指名は無効になったりする。だからソフィアを王位に就けたくない者たちがソフィアとソフィアに類するものを貶める事はあり得るよ。魔物の件ではこちらにミスは無くても異常なほど悪評が広まったりしてるしね」
「…………面倒なんだな。普通は世襲制で長子とかじゃないのか。今までそれで問題が起こったりしなかったのか?」
「より良い王をって事でこういう条件らしいんだけどね。今までも多少問題はあったらしいけど、結果的には王位に就いた人に周りが満足出来てるみたいで条件が変わる事はなかったみたいだ」
「ふ~ん……やる事ないなら他の国に行こうかな」
最近ごろごろしてばかりで引きこもりに逆戻りしそうだし、そろそろ何かしないと本当にダメ人間に戻ってしまいそうだ。
「日本帰還の第二陣はどうなってるんだ? そろそろ準備が整ったりするんじゃないの? 帰るには航が居ないと駄目なんだろ?」
「俺も一回戻らないといけないかと思ってさっき通信士の人に聞いてもらったらまだ準備中だってよ。覚醒者に成ってない混血者は資質を失くす事に躊躇いはないみたいだけど、身体能力高い方と覚醒者は使い慣れたものが無くなるって事で踏ん切りがつかないって人が多いんだと、あと日本側から普通の人間の状態に戻れるのならそのようにしてから帰還してくれって言われてるらしい。第一陣の中に居た覚醒者の一人が酔って能力を使って問題を起こしたとかで騒ぎになってるんだと。混血者は普通の状態になれるなら一応国籍取得して日本で暮らせるらしいけど、ヴァーンシア人が制限されるのは変わってないから片親になるって問題があるから結局帰る事を決断する人はあんまり増えてないみたいだ」
「日本と連絡が取れるようになったのか!?」
「あぁうん、こっち側からしか無理だけど、通信士と能力強化の覚醒者十五人でどうにか途切れ途切れで話しが出来るようになったらしい。あぁそうだ、第二陣が出発する時はシズネとシズナも連れて行って第一陣帰還者たちの覚醒者の能力と目覚めるかもしれない覚醒者としての資質も抜く事になったって」
「あの二人は真面目に仕事してるんだ?」
「姉の方はそれなりに……妹の方は文句が多いらしいけど」
「そうか」
「そうだ、そういえば天明は帰らないのか?」
「俺? 俺は…………そうだな、この世界に来たばかりの頃は帰りたいって思いも強かったけど、こっちの生活にも慣れたし、今は心配事もあるから帰れないかな。基本的に日本に帰ったらこっちに来る事は出来なくなるんだろ?」
「まぁ、そうだな。自衛隊とかこっちでする事がある人だけだな。第一陣の中にこっちに戻りたいって人とか、あとは異世界を調査させろって連中も多かったけど余計な混乱を招かないようにってティナが全部拒否してたしな。お前ならこっちでの立場もあるし行き来は許してもらえるんじゃないか?」
「そうかな……そうなら一度帰ってはみたいな。第一陣の帰還時に手紙を任せたけど、自分がどうするのかちゃんと家族に話しておきたいし」
「そうしてくれると助かるな、手紙を渡しに行った時『どうして連れ戻してくれなかったんだ』っておばさんに泣かれたんだぞ」
「それは何回も聞いたって、悪かったよ。そ、それより次の帰還はいつになるんだろうな」
「まだ時間が掛かるって感じだったな、そんなわけで暇だ…………本当に他所に行こうかな」
「でも他の国は陣があるのはまだ王都だけだろう? それにそんなに暇なら一つ頼まれてくれ」
「ん?」
なんでこうなった…………ここはドラウトの西隣の国マーシュとの国境にある町で、闘技大会が盛んに行われていて戦士が集まる町の闘技場。
「さあ今回も始まりました。闘技大会! 毎度の事ながら凄い歓声だね。何と今回は大物が出場しているよ。誰だと思う? モモちゃん」
「ん~、大物というかぁ~、怪しい人が居ますよね。端っこに居るあの真っ黒の人とか――あっ、こっち見たこわ~い」
真っ黒って俺か? 今司会者の女の方と目が合った気がするし……これだけ人が居るのに俺を指してくるって事は変に目立ってるのか?
「おぉ~、モモちゃん良い所に目を付けたね。でも怪しいなんて言ったら失礼だ。なんと彼は、過去の大会の優勝者でイザ・ディータ騎士団のタカアキ団長と共にクロイツに現れた化け物、惨劇のディアボロスを打ち倒した黒雷の騎士だよ。ソフィア様が我が国にお招きになって特別に今大会に参加してくれているんだ」
そんな紹介要らないし、なんか二つ名で呼ばれるの恥ずかしいぞ。滅茶苦茶目立ってるし、観客席の観客だけじゃなく周りの参加者も不躾にジロジロ見てきて気分が悪い。目立つ事はそれなりに経験したけど、やっぱり慣れない。背中がぞわぞわして体が熱い。
「へぇ~、でもあんまり強そうには見えないね。私は断然タカアキ様がいいなぁ。今回の大会に参加していらっしゃるんですよね?」
「モモちゃん贔屓発言は駄目だよ……でも黒雷の騎士もだけど、一番の注目はタカアキ団長が久々にこの大会に参加してくださってる事だよね。まぁ彼はシード選手だから予選には参加しないけどね」
天明の名前を聞いたやつら数人が戦意喪失してるみたいなんだが……というか特別に参加って事になってるなら俺もシードでいいじゃんかよ。
「天明のやつ騎士のくせにこんなのに参加した事があったのかよ」
「いくらソフィアを救ったとはいえ、いきなり現れた者を騎士団長とするのは無理がある。だから実力を示して他の者を納得させる必要があったんだ」
「…………なんでアルアが居るんだよ」
「僕も参加しているのだから当然だろう。今まで通り騎士団長を目指す方向で頑張れと君が言ったんじゃないか。ならば先ずタカアキと同じく大会優勝者の称号を得るまでだ!」
なんでまた俺や天明、フィオまで参加してる時に参加したんだ……悪いがアルアが優勝している光景が全く見えないぞ。こんなの面白半分で承諾するんじゃなかった。姫さんと他国の関係が良好である事を示すのにも丁度いいから客分の俺も参加しろって言われたとはいえ……天明は天明で悪評を晴らす為にって参加してるし。
「初参加じゃない人は知ってるだろうけど使える武器はこちらが用意した物に限られるので悪しからず。世の中には特殊な力を持った得物もあるからね。みんな平等に自分の実力で戦ってくれ」
公平を期す為に武器は大会側が用意した物しか使えない事になってるのってフィオと天明に有利過ぎないか? それなりに戦えるようにはなってるはずだけど……ゲームでレベル上げ足りてないのに不相応なランクに出場した気分だ。
「王家筋のブラン家の方々もお越しになってて良い成績を残した者は取り立てて頂ける可能性もあるみたいだよぉ。モモちゃんが応援してあげるからみなさんがんばってね~」
司会者のモモって人の方、本人にその気があるのかは分からないが声を聞いてると妙にイライラする、ぶりっ子というかなんというか……自分をちゃん付けしてる時点でぶりっ子確定か。
「予選は十人ずつの五組に分かれてのバトルロワイヤル! 他の参加者を自らどんどん蹴落とすも良し、逃げ回って力を温存するも良し、武舞台上に立っているのが二名になるまで戦ってもらいます。そして残った二名が本選出場の権利を獲得します! 今大会はノーマルなものと違って覚醒者、混血者も出場している――というよりは覚醒者や混血者の為の大会だから一般の人はほぼ参加していないね。そんな訳で驚異的な身体能力も不思議な能力も何でもありだ。会場を沸かせる戦いを期待してるよ」
なんでもありとか全然平等じゃないよな。フィオと同じ組になりたくねぇ……いや、同じ組になってフィオが蹴散らすのを眺めているって手も…………。
「なぁ、そういえばブラン家ってのは?」
「ルイズ家と同じで先王の兄弟の家系でこちらも王位を主張している。それと……よくない噂のある家系だ」
「よくない噂?」
「こんなに人の多い場所では言えない。そういう噂だ」
アルアが苦虫を噛み潰したような顔をしている。人の多い場所では口に出来ないような事か……ブラン家も姫さんの敵って事でいいんだろうか? 天明にあとで確認しておく方が良いかもしれない。
「さぁ、お待ちかねの予選一組目の戦いの開始だー! 武舞台から落ちるか気絶すると失格です。棄権する場合は速やかに武舞台から退場してください」
フィオともアルアとも同じ組にはならなかったな。にしても、まさかいきなり戦う事になるとは……この組ごつくてデカいのばっかりだなぁ。剣もいつも使ってるのと違って重いし……やっぱり良い剣を持たせてもらってたんだなぁ。
「ワタルー、頑張ってくださーい!」
「勝ったらご褒美あげるわよ~」
「絶対優勝なのじゃー」
「ワタル、負けるのは許さないぞ!」
「お兄様がんばってー」
応援は嬉しいけどものっそいプレッシャー。
「おおっと、黒雷の騎士になんとも羨ましい声援が送られているぞ――って!? なんとエルフや獣人の女性も居るぞ。というか声援は女性だけですね。どんな女性関係をしているのか、僕は興味がありますが他の選手からは殺気のこもった視線を送られているぞ」
それ今どうでもいいだろ!? あんたが煽る様な事言うから本当に殺気をむけられてるんですけど!
「うわぁ……騎士なのにいやらしい。騎士はやっぱりタカアキ様のように清廉潔白じゃないと駄目だよねぇ~」
「こんなひょろっちいのが騎士とはお笑いだぜ。こんなので騎士なら俺だって騎士になれるぜ。クロイツの騎士の称号ってのは随分安売りしてるんだな」
二メートル位ありそうなマッチョが俺を見下ろしている。はぁ……情けないところを見せたらクロイツの悪評にも繋がるのか。気を引き締めて行かないとだな。
「おーい、お姉ちゃんたち、こんなひょろっちいのは捨てて俺に乗り換えなよ」
「おー、そうだそうだ。俺たちの方が強いぜー!」
俺を馬鹿にしていたかと思えばナンパに切り替えやがった。
「ワタルに勝てるものなら相手してあげてもいいわよ。勝てるものならね」
おいおい…………そこはスパッと断ってほしかったよティナ。負けないって信じてくれてるからこそなんだろうけど。
「妾は旦那様以外など願い下げなのじゃ」
うんうん、スパッと言うミシャは偉い。
「おい聞いたかお前ら、こいつを潰せば金髪エルフが相手してくれるってよ」
『おおーっ!』
なにこの殺る気!?
「じゃあな優男、あの美女たちは俺たちが可愛がってやるから安心して寝てろ」
「っ! 悪いけどな、全員俺のって事になってるから、俺は他人に何か奪われるのが大嫌いなんだ。だからあんたが寝てろ」
「ぐっ、がぁぁぁあああああ!?」
俺の立っていた場所をモーニングスターが穿つのを尻目に、大男の後ろへ回り込んで背中に手を当て感電させた。妙な事になった、剣が重いとか文句を言ってられない。
「こ、こいつ今なにした!? 覚醒者にしては動きも速かったぞ、能力はなんなんだ!?」
「来いよ、一撃で眠らせてやる」
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