宣言

 なんでこうなった?

 警察署長が出て行って暫く待たされたと思ったら、別の場所に移動する事になってそこで会う事になったのは総理大臣…………。

 魔物が国内のどこに現れるか分からず国中の問題になる事だろうから日本のトップに話をしないといけないというのは分かる、と言っても話をしたのは殆どティナで俺は相槌を打つ程度でしかなかったけど……だっていきなり総理と会って話せとか、普通ないだろ…………。

 総理と会っている間も、フィオは相変わらずべったり引っ付いたままで、総理や他の議員に怪訝な顔をされてジロジロと見られまくった。


 ティナの話をしっかりと聞いて信じてくれたのか、すぐに非常事態宣言が発令されて、至る所へ自衛隊や武装した警官が配備されて警邏する事となった。政治って対応が遅いイメージがあったけど、今回の事はかなり対応が早かったと思う。

 そして今その事を説明する会見が開かれているわけだが…………なんで俺たちまで出なきゃなんだろう? いや、当事者だから居なきゃ駄目なんだろうけど……怖いんですけど! ただでさえ追い回されたからマスコミ嫌いなのに、こんな注目されている所に出て行って俺が喋れると思ってんのか!? ティナだけでいいだろ、俺が行っても説明出来る事なんてたかが知れてるよ! 警察で話してた時も総理の時もほぼティナにまかせっきりだったんだし俺居なくてもいいじゃん、フィオはくっ付いて離れないし、こんな状態でカメラの前に出るの嫌だよ。

「――ですので、非常事態宣言を発令し、武装した警官と自衛隊を配備する事になります」

「その魔物というのはそれ程危険な物なのですか?」

「魔物についての説明は異世界人のティナ・クオリアさんと異世界に行った経験のある如月君にしてもらう事になっていますので、この後の二人にお尋ねください」

 あぁ…………出なきゃダメ、だよなぁ。無性に逃げたい。


 そして会場へ…………入っただけなのに滅茶苦茶撮られてる。

「うぅ」

「ワタルどうしたの? 気分でも悪い?」

 悪いも悪い、最悪です。もうティナだけで行ってくれ。

「だ、大丈夫…………」

 当事者なんだ、逃げちゃいけない、逃げちゃいけない。

「声が震えてるわよ? 何をそんなに脅えてるの? 光ってて鬱陶しいけど、何の害もないじゃない。堂々としてなさい」

 ティナは堂々とし過ぎだ。姫だから人前に出る事に慣れてるとしても、ここは自分の世界じゃなくて、その上嫌ってる人間に囲まれてるってのに……図太いというかなんというか、ちょっとかっこいい。俺もあんな風にいられたらいいんだろうけど、他人の目が怖くてしょうがない。

 そして用意された椅子に座ったわけだが――。

「何故俺に座る? フィオの席もちゃんとあるだろう?」

「一緒」

 うぅ、その顔で見上げるな。涙目でそんな事言われたらもう何も言えない。フィオは俺の膝に横向きに座って俺に抱き付く様な形になってる。これが全国に晒されているのか…………とんでもないな。

「ズルいわフィオ、こんな大勢の前でまで……それなら私も!」

 間隔を空けて置いてあった椅子をすぐ隣に持ってきて、右肩に撓垂れ掛かってきた。お前らは俺をどうしたいんだよ!? また滅茶苦茶撮られてるし、周りには白い目で見られてる。当然だ、非常事態宣言なんて出てるのに、その原因についての説明に出て来たのがこんな事してたら白い目で見られるわ…………。

「ティナ、勘弁して、状況を弁えてくれ」

「だって、フィオだってしてるじゃない!」

 それを言われると困るんだけど……フィオは今普段の状態じゃないから、引き剥がすのは躊躇われる。

「ティナは大人なんだし、姫だろ? ちょんと振る舞おう?」

「…………分かったわ。でも、あとでしっかり甘えさせてもらうから!」

 全国放送で何を宣言してんだ!? この宣言は後に非常恥態宣言と揶揄された。


「――」

「――」

 ティナと記者の問答が繰り返されてるけど、頭に入って来ない。ホント……なんでこうなった? フィオは相変わらず離れる気配もないし、記者たちの俺に向けられる白い目も相変わらず、この息の詰まる様な場所からすぐにでも逃げ出したい。魔物の相手をしている方が気が楽だ…………魔物より同じ人間が怖いなんておかしな話だよなぁ。

「ですが、他局の放送で魔物と言われている存在が言葉を話しているのを多くの方が見ているのですよ? 言葉が話せるのなら和解する事も可能だったのではないですか?」

 あぁ、またこの話か…………平和で、命が危険に晒された事が無いからこその意見だな。人間相手ならその考え方でもいいんだろうけど、相手は人間じゃない。それどころか俺たちを害する存在だ、抵抗しないと、殺られる前に殺らないと駄目なんだ。少なくともあの現場に居て、直に魔物を見た人たちはそう思うんじゃないだろうか?

「話す度にこれを言われるのね。この国がそうなのか、それともこの世界全体がこういう考え方なのかしら? 命を脅かす存在じゃないのならその考え方は平和的で良いものなんでしょうけど……相手は魔物で、こちらを食糧か繁殖の道具にしか思っていない連中よ。そんな相手と貴方は話し合いが出来るのかしら? 話している間にも人は死ぬし女性は犯されるわよ? それでも話がしたいならやってみたらいいわ。命の保証はしないけれど」

『…………』

「で、ですがあまりにも一方的に殺害してしまうのは――」

「だから、話がしたいなら貴方たちがすればいいじゃない。どうしてもしたいと言うなら私は止めないわよ? その代わり助けもしないけれど」

「な、なぜですか!?」

「当然でしょう、自ら危険を冒すのに誰かに助けてもらえるなんて虫のいい話があるはずないじゃない。それに貴方たちとはなんの関わりも無いもの、わざわざ死にに行こうとしているのに付いて行って護衛してあげるなんて意味が分からないわ」

 被害は出したくないけど、俺もわざわざ死地に飛び込む奴を護るのは……面倒だな。それでも目の前で殺されそうになってたら動かざるを得ないだろうけど、極力そういうのは無しにしてもらいたい。


「魔物のお話以外も伺ってよろしいでしょうか? 異世界の事への関心は今や誰もが持っているもので、当然異世界人であるお二人と異世界に行っておられた如月さんにも関心を持つ方が多く居ます。ですのでその事についての質問もよろしいですか?」

 良い予感はしないから遠慮したい。というか魔物についての説明会見だったんだから、魔物についての質問が終わったなら帰らせてください!

「ええ、いいわよ」

 いいわよって言っちゃった!?

「では先ず、ティナさんはエルフの王女という噂があるのですが本当なのでしょうか? もしそうならそちらの少女も特別な立場の方なんでしょうか?」

 噂……俺はこの世界の人間だから簡単に調べ上げられて晒されてるだろうけど、二人についての情報ってどの程度出回ってるんだ?

「ええ、そうね。国王の娘だから王女という立場に間違いはないわ。フィオは……異界者との混血なのだから特別といえば特別なのかしら?」

 フィオの立場…………なんだろう? 元軍人? 元盗賊? どれも元でしかないし、混血ってのは特別だろうか? あっちで結構見てるから特別って感じはしないんだけど。

「あの、すいません。異界者と言うのは?」

「この世界の人間の事よ。私たちの世界にとってはこちらの世界が異世界で、そこの存在だから異界者」

「! つまりそちらの少女にはこの世界の血が流れているんですか!?」

「そうなるわね」

 会場がどよめいてフィオに注目が集まってるけど、フィオは我関せずで顔を俺の胸で隠して見向きもせずに俺の服を握りしめている。フィオが一緒に居るから自然と俺も見られてるわけで……落ち着かない。

「如月さんにお聞きしたいのですが、お二人とはどのようなご関係なのですか?」

 うわぁ~、すんごいニヤニヤしている。いいゴシップのネタを見つけたって感じなんだろうな。今までは逃げ回ってたけど、今は逃げられないだろうからって、ここぞとばかりにこの質問…………。

「どのようなって言われても――」

「恋人よ」

 なに勝手に言っとんじゃー!? 恋人になるってのを俺はこれっぽっちも承諾してないでしょうが!

「恋人…………王女であるティナさんとそちらの、フィオさんのお二人ともがですか?」

「ええ!」

 なんでドヤ顔……記者たちは生き生きとした表情をしている。マスコミってスキャンダル好きだよなぁ、芸能人の浮気がどうのとか、結婚離婚がどうのとか、あんなのの何が面白いんだろう?

「王女様は二股を容認されているのですか? もしくは異世界ではそれが普通なのですか?」

「普通ではないわね。でも誰かに取られちゃって自分のものにならないくらいなら共有にしちゃった方がいいじゃない? それに二股じゃないわ、ヴァーンシアにはまだ居るもの」

 飢えた獣に餌を与えるかの如く、マスコミに次の爆弾発言をしやがった。まだ居るってなに? ……ナハトの事か。

「ま、まだというのは他にも恋人が居るという事ですか!?」

「少なくともあと二人ね。私の幼馴染とワタルと旅してた娘が一人、他にも一緒に居た娘は居るけど、あの態度だとたぶん違うでしょうから二人ね」

 ナハトはともかく、旅してた娘ってリオか? リオは違うよ、仕方なく付いて来てただけだってば! 本当なら町で平穏に暮らしてたはずなんだ。

「二股ではなく四股ですか…………」

 全員呆れ顔なんですけど、俺は何もしてないぞ? 手ぇ出してないんだからそんな目で見んな! こんなのが全国に流れてるなんて……最悪だ。鬱過ぎる。

「フィオさんにも少しよろしいですか? 先ほどから如月さんに引っ付いた状態ですが、普段からそのような感じなのですか?」

「いや、これは――」

「ワタルはすぐに危ない目に遭うから護る為に一緒に居る。あなたたちもワタルに酷い事するなら、殺すから」

 涙目涙声で全く凄みの無い状態で顔を半分だけ記者たちに向けてそう言った。こんな状態の娘がそんな事を言っても信じる人が居るわけもなく、微笑ましいものを見るような目をしてる人が多くなった。


 ? 慌てた様子の人が入ってきて近付いてきた。

「如月さん、魔物が現れました。警官隊が応戦していますが、念のためにあなた方にも向かった頂きたいのですが――」

「行きます」

 フィオが服を握る力が増した気がした。わざわざ危ない事はするなって事なんだろうけど……でも、やれる事はやらないと、後悔はしたくない。早く片付けてヴァーンシアに戻るんだ!

「フィオ、魔物を片付けに行く、手伝ってくれるか?」

「絶対にワタルを護る」

 こんな事言われちゃうんだから情けないよなぁ、いつかフィオにも認めてもらえるくらい強くなりたい。

「ちょっとワタル、私には言ってくれないの?」

「ティナ、手伝っ――」

「ええ、いいわよ!」

 俺言い切ってなかったんだけど…………まぁいいか。知らせに来た人はこんなので大丈夫かと不安そうな顔をしてる。この状況だけ見てればそんな顔にもなるか、まぁやるときゃやりますから大丈夫ですよ……たぶん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る