解凍しました
「あれって……オーク? なんでオークが?」
「あ~、だって私たちと同じ裂け目に吸い込まれてたじゃない?」
そりゃそうだけど、吸い込まれてたのは凍らされて氷像状態になってた奴だ。
「だって吸い込まれてたのは凍って死んだ奴だろ、それになんで今更? 俺たちより先に吸い込まれてたんだから俺たちより先にこっちに出て来てるか、同時くらいじゃないのか? 俺たちがこっちに来てからもう二十二日目だぞ?」
「ん~、私たちがあの空間からすぐに出られたのがもさのおかげだったとしたら、あれは今まであの空間を漂ってて漸く出て来たのかも、それとあれは凍ってたけど死んではいなかったと思うわよ? オークって異常に生命力と性力が強いから、この暑さで解凍されて復活したんじゃないかしら?」
めんどくせぇ、豚めんどくせぇ。あんなもん解凍しても食べられないんだからそのまま凍っておけよ…………ん?
「あのさぁティナ」
「なぁに?」
抱き付くな、顔を寄せるな。
「吸い込まれてた氷像って結構な数だったよな? オーク以外のもあったし」
「そうねぇ、オークにハイオーク、それにオーガとゴブリン、コボルトにラミアだったかしらね。でも、解凍されて復活してるのはオーク系とオーガだけじゃないかしら? オークとオーガはしぶといから簡単には死なないけど、他はそうでもないはずだから……絶対とは言い切れないけど」
オーガってオークより更に巨体だった奴だよな? それにハイオークってのはエルフと混血……クソめんどくさそうなのが来ちゃってるんですけど…………。
「ちなみにまだあの空間を漂ってるのが居てこの先こっちに出てくる可能性は?」
「う~ん、どうかしら……無くはないでしょうけど、流石にもう殆どこっちに出て来てるんじゃないかしら? もしくは別の世界に出た、ってのもあるわね」
さいで…………これって俺が悪いんだろうか? 悪いんだろうなぁ……はぁ、とりあえずあれ、片付けるか。無闇に抜くと逮捕するって言われてるけど、今は緊急事態だからOKだよな?
「んん? でもさ、変じゃないか? こっちに出て来てるならなんで今まで騒ぎが起きなかったんだ?」
「そんなの私に分かるわけないでしょ……大方この世界の存在の様子見でもしてたんじゃないかしら? ヴァーンシアとは全く違う世界なのだし、ハイオークが居るからそのくらいは考えたのかも?」
「そして脅威になりそうな存在が居ないと分かったから行動に出た、と…………」
「まぁ、そんなところでしょうね」
ダル…………全部他所の世界に行ってくれればよかったのに。
「はぁ、やるか」
「がんばってねワタル。応援してるわ」
「え? 手伝ってくれないの?」
まぁ居るのは一体だから一人で充分だけど、ちょっと意外だ。誰が先に倒すか競争よ! くらい言うかと思ってたんだけど。
「私は手伝う」
「ダメよフィオ、ワタル一人の方が良いわ」
なんで? 紋様の強化があるからたぶん問題は無いとは思うけど、俺は今能力を喪失してるんだぞ?
「なんで?」
「よく考えて、今ワタルの事を酷い人って思ってる人が多いのよ? そのワタルが大勢の見ている前で魔物を倒せば周りの目も変わると思わない? 一緒に戦うのもいいけど、好きな男を立ててあげるのも女として大事よ?」
そんな単純なものじゃないと思うんだけど、それにあれと共存出来ない以上殺す必要ありだ。大勢の前で、化け物とはいえ生き物を殺すんだ。現代の日本人には刺激が強過ぎる気がする。
「思わない、酷い人間は最初から酷い……立てるって何? アレ?」
「う~ん、それも一理あるわね。アレを立てるなら二人っきりか、私との三人でベッドの中じゃないと駄目よ?」
まさかの下ネタが展開されいく…………状況分かってますか? フィオは意味が分かんなくて素で聞いたんだろうけど、ティナのその返しは要らない。というか、フィオに変な事吹き込むな!
「とか言ってる間にあっちが大変な事になってるわよ。ワタル、頑張って!」
「きゃぁああああっ! 嫌ぁああああっ! 来ないでぇっ!」
っ!? オークが女の子相手に図太い、斬るではなく、圧し潰すのに使うような大きな剣を振り上げていた。
「ちょっ! はよ言えぇええええっ! おいこら! 避けろっ! チッ!」
女の子に向かって走り出して叫ぶが、恐怖で固まって動かない、俺の声にも反応しない。間に合えっ!
「ぬぁああああ!」
女の子を押し倒す様にしてどうにか回避した。ヤバかった、かなりギリギリだった。足の裏のすぐ近くを、オークの剣が通過していくのが空気を切る感じで伝わってきた。あと少しで足持って行かれるところだった…………。
「おい、大丈――」
「ひっ、人殺し変質者」
あぁ、こんな状況でもこんな事言われるのね。さっき会えた女子高生がレアだったんだと思えてくる。やっぱ世間なんてこんなもんだ。やってようがやってなかろうが、一度疑いを掛けられたら大多数の人間はそいつを犯罪者だって見る。テレビ報道までされてれば尚更だろう。
『グヒッー!』
凍ってたんだから一生冷凍保存されてろよ。
「大体……ぐひーってなんだよっ! 豚ならぶひーだろう、が!」
イライラをぶつける様にオークの懐に入り込み、武器を持つ腕を斬り落とした。
『グヒャー』
今度はぐひゃーかよ……最初に見た奴は片言だったけど喋れてたと思ったんだけど、こいつは喋らないタイプ? 知能格差でもあるんだろうか?
「ひぃぃっ!」
あぁ、やらかした。返り血が女の子に飛び散ってる。頭から化け物の血を被ったせいで放心状態になってる。これって俺はどういう目で見られるんだろう? 女の子を助けたやつ? それともPTSDを与えた酷い奴?
「ワータールー、がんばりなさいとは言ったけど、女の子に抱き付いていいなんて言ってないでしょ~」
「ふぃにゃがひうのおひょいかりゃだりょうが」
頬をぐにぐにされる。これお気に入りだな、でも弄るならフィオの頬をおススメしたい。絶対にあっちの方が良い。
「それ、に! 対処が甘いわ。さっきオークは生命力が強いって言ったでしょう? しっかり首を落とさないと駄目よ」
そう言って斬首して落ちたその頭も二つに割った。おえぇぇ、多少、ほんのちょっとだけこういうのに慣れた気でいたけど、気持ち悪い! すんごい気持ち悪い! 女の子なんてもう完全にどこ見てんのか分かんないくらいに、視点が定まってない。周りの人間も唖然として声を発する者も居ない。こんなので世間の俺への態度が改善されるとは到底思えない。寧ろ悪化しそう、化け物とはいえあんなにあっさり躊躇無く斬ったぞ! 本当にあいつが犯人に違いない! みたいな……っ!?
「まだ続くのか!?」
「そうみたいね、やっぱり暑いからかしら? 随分と解凍されてるのね」
屋根を破壊して豚が、五、十、十五……二十三匹…………はぁ、ここは養豚場ですか? オークって食えるんだろうか? ……たとえ食えても食いたくはないな、そもそもこいつらすんごい臭いんですけどっ!
「ティナ、ワタル一人じゃ無理」
いつの間にかフィオも傍に来てた。にしてもそれは酷くない? 確かに少し数が多いけど、動きも遅いしこの位なら紋様の強化だけで対処出来る、詰めが甘かったのは認めるけど、そんな風に言われるのは心外だ。
「そうねぇ、ワタルに活躍してもらいたかったんだけど、こんなのが居たらしょうがないわね」
? そう言って剣で自分の後ろを突き刺すような動作をしたら何も無い場所から血が噴き出した。
「うわっ!? どうなってんだ? ティナ、怪我は?」
「あら、心配してくれるの? でも、平気よ。私の血じゃ――あぁああああっ!」
「ど、どうした!?」
っ!? 血を噴き出した空間からハイオークが現れた。どうなってるんだ? 姿を消せるのか? こういうのが居るから俺一人では対処が出来ないって事なのか。
「……かっく、せっかくワタルに買って貰った服なのにぃ~、ハイオークの血なんかで穢されたぁああああ! もう! 何してくれてるのよっ! このっ!」
『ぎゃぁぁぁああああっ! クソ、アマがぁ…………何故、分か、った?』
あぁ、痛そう……ティナの必殺の一撃でハイオークの人の玉が弾けた。股間から凄い量の出血が……同情は無いけど、男としては見てるだけで痛い光景だった。まさか踏み潰すなんて……怖くて夢に見そうだ。
「嫌な気配がプンプンするのよっ! それに臭いし、姿を消していても殺気でバレバレよ。そんな事よりどうしてくれるのよっ! ワタルが買ってくれたのに、台無しじゃない!」
もう動けそうにない奴をゲシゲシ蹴ってる…………。
「ティナ、落ち着け、服ならまた一緒に買いに行こう? それならいいだろ?」
「本当に?」
うっ……可愛い、年上にこの表現はどうかと思うけど、少し涙を浮かべて上目づかいで見られたら結構くるものが…………自分で美人とか言ってるし、理解してやってるんだろうなぁ。
「う、うん」
「よ~し! それならここをすぐに片付けるわよ。私とフィオでハイオークを狩るからワタルはオークを担当して、能力が使えなくてもオークならちゃんと対処出来るでしょう?」
「まぁ、さっきくらいの動きならどうにか出来ると思う」
「そう、じゃあお願いね。早く終わらせて買い物に行きましょ」
そんなに行きたいのか……どんな世界でも女性は買い物が好きなんだろうか? フィオは例外な気がするけど。
「了解~」
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