属性付与?

『…………』

 みんな固まって、女性陣はジト目なんですが……俺は悪くねぇ! 飲み過ぎたのは自分の過失だけどこの状況は俺悪くない。

「なにやってんだミーニィ、ナハトが知ったらブチ切れ――ぐほっ!?」

 ライルさんがミーニィさんを止めようとした瞬間フィオが回し蹴りをかまして吹っ飛ばした。壁突き破って飛んでったんですけど…………ライルさんは優夜を背負ってた、あれ大丈夫か?

「フィオ! いきなりなにやってんだ!? せっかく安全を約束してもらえたのにこっちから吹っ掛けてどうすんだ!?」

 それに約束どこいった!? 俺は許可してないぞ。

「だってあのエルフが嘘吐いた、だからお仕置――」

「リオ?」

 リオが無言でスタスタと近付いて来る。なんか、顔が怒ってる感じ…………。

「あ~、マズいかも、退散たいさんっと」

 ミーニィさんはひょいと俺から離れて距離を取った。あんたのせいなんだからなんとかしろよ! リオにちょろっと怒られた事はあるけど、睨み付けられたのは初めてだ。

「あの、リオ落ち着いて――」

「ふんっ!」

「がはっ!?」

 思いっ切り引っ叩かれて床に転げ落ちた。あぁ、なんか意識がぼやける。

「私たちがどれだけ心配したと思ってるんですか! それなのにこんな…………」

 リオの声が遠くなる、酒飲んでたせいかな、目の前も暗くなっていく。ビンタされて気絶とかかっこ悪い…………。




「うぅ~、あったまいてぇ~」

 これが二日酔いってやつか? それとも引っ叩かれた後遺症か?

 ふにゅん? なんの気なしに伸ばした手にふにゅんとした感触、なんだこれ? 柔らか。

「一体なに、が…………」

 フリーズ、何ナニなに! なんでナハトさんが裸で隣に寝てんの!? なに? 俺酔って何かした? いやいやいや! リオに引っ叩かれた後は記憶がない、寝てたはずだ!

「それにしてもなん――」

 俺上を着てないんですが!? え? マジ? いや、ズボンは穿いてる。してない、俺は何もしてないぞ! 特にベタベタした感じもないし、大丈夫!

「んんん、なんだ、起きたのかワタル、おはよ、う!」

「うわっ、ちょ、抱き付かないで」

 見ない様に引き剥がそうとするが力じゃ勝てない。

「つれない事を言うな、私はお前の妻だぞ? それに昨日はあんなに激しかったじゃないか」

 激しかったってなにが!? してない、してないしてない、俺がそんな簡単に流されるわけない! 昨日初めて会った相手だぞ? それにろくな会話だってしてない、そんな相手とそんな事するはずない!

「激しかったってなんですか? 俺は何もしてないですよ?」

 してないはずだ! そうであってくれ! 既成事実でなし崩し的に結婚とか絶対に嫌だ! もし結婚なんて選択をする様な事があったとしても、相手をよく知ってから自分の意志で決めたい。


「なにを言っている、あんなに激しく戦ったじゃないか、あんな攻撃を受けたのは初めてだったんだぞ?」

 …………よかった、昨日の戦闘の事かよ。滅茶苦茶ビビったわ!

「あの、あれはフィオの不意打ちがあったからこそであって、俺の実力ってわけじゃ――」

「そんな事は関係ないな、私を気絶させたのはお前なのだから、あんなに刺激的な攻撃は初めてだったぞ」

 刺激的って、気絶する程の電気刺激ですからね、そりゃ刺激的でしょうよ。

「とりあえず、服を着てください。なんで裸なんですか…………まったく」

「夫婦とはそういうものではないのか? 母様が言っていたぞ、寝所ではいつでも夫を受け入れられる様にしていろと」

 絶対にナハト両親待つ気ないな、娘を嗾けて既成事実を作る気だ。結婚は失敗しても孫が出来ればいい、って考えだろう。

「エルフの習慣は俺には分かりませんよ。それと俺は結婚する気はないですから」

 まずこれをはっきり言っておかないといけなかった。流されてはいけない。

「今はなくとも私がその気にさせてみせるから大丈夫だ。それより人間の場合はどうなんだ? 私はワタルに合わせるぞ」

「それも知らないですよ。結婚なんかしたことないんですから」

「そうか、そうだな! 私が初めてなのだから仕方ないな。でも両親の様子で少しは分かるのではないか?」

 すんごいニコニコしてる…………まぁ好きな相手がフリーなら嬉しいものなのかもしれない。

「両親いないんで知りませんよ」

 これで謝ってくれたら苦手な相手として嫌う理由が出来ていいんだけどなぁ、なんの理由も無しに一方的に人を嫌うのは難しい、些細でも理由があればまた違う。

「そうか…………だが気にするな、私と結婚すれば私の父様と母様がお前の父と母にもなる。母様はワタルを気に入っていたし、父様も問題ないはずだ」

 俺の話を聞いとらんな、結婚しないって言ってるのに。


「さっきも言いましたけど、引っ付いてないで服着てください」

「…………他人行儀だな、敬語を止めてくれ、私たちは夫婦になるんだぞ? 他人行儀なのはおかしいだろう?」

 だって他人だもの! それに絶対に年上だろ、敬語は普通だ。

「何歳か知らないですけどナハトさんは年上でしょう? 敬語は普通ですよ」

「むっ、その『さん』というのもやめてくれ、それに歳など私は気にしない、普通にナハトと呼び捨ててくれ」

 歳など気にしないって…………そうだ! そうだよ、歳だよ! 長寿のエルフに老いは関係ないものかもしれないけど俺は違う。

「俺と結婚しても俺はすぐに老いて死にますよ? そんなのよりナハトさんは同じエルフの方と結婚した方がいいんじゃないですか?」

 これはいい理由になるだろ、信じられない事だが、俺が好かれている、そしてそんな相手との死別は辛いはず、エルフは長寿だから死別後もその辛さが付き纏う、それは苦しく避けたいモノなはず。

「ふむ、確かに人間や獣人の寿命は私たちとは違うのだったな、だが問題ない、触れたものからそのものの過ごした時間を吸い出す能力というのがある、それを使えばワタルは永遠に若いままだ。私が好きになったこの姿のまま…………」

 触れたものの過ごした時間を吸い出す? そんな簡単に永遠の命が手に入るのかこの世界は…………触れたものの時間を吸い出す、過去の状態に戻す? っ!? あの少女を生き返らせることが出来るんじゃないのか!?

「な、ナハトさん! その能力者は? 今どこに居るんですか? 試したい事、頼みたいことがあるんです!」

「そんなに急に顔を近づけて……ドキドキするではないか…………」

「あ、いやごめんなさい」

 頬を染めて顔を背けられた。突飛なこともしてるが、確かに純情なのかもしれない。


「そ、その能力を持っている者は今は居ない、そういう能力があったという記録があるだけだ。だが安心しろ、私たちの子供がその能力を持つ可能性もある、だからしっかり子作りしよう、私はワタルの子なら何人でも産みたいからな」

 …………結局そこに行き着くのか!? 親と同じでハードワークを要求してきたよ!?

 くそっ、あの娘を生き返らせることが出来るかと思ったのに、生き返らせれれば今は安全を確保出来てるし多少の危険からなら守る力だってあるのに…………。

「どうした? 浮かない顔をしてるぞ、何か問題があるなら私に相談してくれ、ワタルの為なら何でも力になるぞ」

「時間を吸い出す能力で、人を生き返らせられると思ったんです…………」

「誰か死んだのか?」

「異界者の女の子が、奴隷にされて……酷い殺され方で…………っ」

「ワタルの知っている者か?」

「いえ」

「そうか、お前は優しいのだな、益々気に入ったぞ! だが今言った能力は生き物にのみ有効だ。だから死者の再生など出来ない」

 そう言って抱き締められるが、優しいなんてとんでもない、俺が見殺しにした苦しみから逃れたかっただけだ。自分勝手な弱虫だ…………そうか、どちらにしても叶わない事だったのか…………。

「というか放してくださいナハトさん」

「いやだ。愛しい者を抱きしめたいのは当然だろう? そうだな、敬語をやめて私を呼び捨てたら放してやろう」

「早く放せナハト」

 速攻で流された。だって裸の女の人に抱き付かれるとか気が狂う!

「は、早いな…………迷うワタルを見るのが楽しみだったの――」

「ワタル~、起きてます、か…………」

 部屋の仕切りの布をめくって現れたリオがこの状況を見てフリーズ。

「り、リオ…………お、おはよ――」

「きゃあああああー!」

 やっぱりそうなりますよね。


 また力いっぱい引っ叩かれた。両頬に手形、こんなにくっきり付くものなんだなぁ……はぁ~。

 俺が寝ていた場所は俺たちの為に仮設された巨大なテントを仕切りで七部屋に分けた一室だったらしい。仕切りは少し厚手の布、厚手と言っても所詮布喋っていればほぼ筒抜けである、それで俺が起きたと判断したリオが部屋に来たらしかった。

 今は食事場所として割り振られた誰の部屋でもないスペースで女性陣にジト目で見られている。

「昨日の今日であんな……不潔です!」

「ワタルは女に興味ないって言ったのに」

 前にも言ったが興味が無いわけじゃないってば。

「そんなのどうせこいつの嘘でしょ、うつ病引きこもりがこれ幸いにと手を出したんでしょ、最低ね」

 あぁ、紅月のやつバラしやがった。言った俺も迂闊だったかもしれないけど、この状況でうつ病引きこもりを暴露しなくても…………。

「うつ病引きこもりで女に興味ないって事はホモ? もしくは両刀? 優夜危ないんじゃない?」

 瑞原は完全に楽しんどるな、顔がニヤついてる。

「え゛!? わ、航、僕は普通に女の子が好きだからそういうのはちょっと……」

 航は『ホモ疑惑』と『両刀』の称号を手に入れた。って、そんなもの手に入れても嬉しくないわ!

 ドン引きして距離を取ろうとする優夜、なにを真に受けてるんだよ! 俺だって女の子が好きだわ! ホモとかBLなんて理解出来ん!

 なんかどんどん変な属性が付加されていく…………。

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