戦闘の果てに
フィオと女エルフは周囲の者が動きを止める程の剣戟の音を響かせて何度も打ち合う、二人の距離が近いのと、女エルフの邪魔をするなという言葉で矢の雨は止んでいるが、俺の左手はフィオの右手に握られたままで、フィオが動く度に振り回されて目が回る…………。
「小娘のくせにそんな荷物を持ったまま私についてくるとは恐れ入る」
余計な事言うなよ! さっきより握ってる手に力が入ったよ! こりゃ放してくれそうにない、フィオもそんなに怒らなくてもいいじゃんか、エルフは長寿なはずだからこのエルフだって見た目通りの年齢じゃないはず、見た感じだと二十代位? 長い銀髪をポニーテールにしていて紅い瞳、褐色肌、紅マフラー(長いからマントみたいに見える)そして黒いビキニアーマー(白い意匠が入ってる)肩に掛けたベルト…………なんて言うんだっけ? ショルダーハーネス? の左右にナイフシース、黒ホットパンツ、ベルトに剣の鞘、右太ももにもベルトを巻いていてここにもナイフシース、灰色のロングブーツ、手には指先の開いたグローブ…………なんかフィオと恰好が似ている。
「何を見ている!」
「うおっ!?」
観察してたのが気に入らなかった様で、狙いを俺に変えて打ち込んで来たのをフィオが既の所で弾き返してくれた。ヤバいんですけど、死にかけたんですけど! 放そうよフィオ! この状態だと絶対に俺がお荷物だし、巻き添え食うって!
「そんな何の役にも立たなそうなもの捨ててしまえ、私とまともに打ち合え!」
ほら! あっちもそう言ってるんだから、放せという意思表示で握られた手を揺すってみたが更に力を込められた…………なにをムキになってんだよ!?
「ちょ――っ!」
また打ち合いを始めてブンブン振り回される。これだけ振り回されても相手の攻撃は当たったりしてないから注意はしてくれてるんだろうけど、無茶苦茶に振り回されてるから如何せん目が回る、それに気持ち悪い、たぶん遊園地の絶叫マシンの方が何倍もマシ。うぅ、吐き気が…………。
「チッ、この小娘は狙わずに引っ付いてる男を射殺せ!」
うわぁ、面倒な指示出しやがった。
「フィオ、放し――ぃいいいいいいい」
弓矢が構えられたのに反応してその場を猛ダッシュで離れてそのままのスピードで女エルフに斬りかかる。相手も反応して防ぐがフィオの方が速い様で、防がれても瞬時に後ろへ回り込んで次の攻撃へ繋いでいる。
フィオに危険と評価されたエルフはフィオに圧倒され翻弄されている、のはいいけど…………もう速すぎてなにが起こってるのかよく分からん、ひたすらに目が回って気持ち悪い。
「こんな人間が居るとは驚きだな、この私が圧倒されている…………なら、これならどうだ!」
「っ!?」
「えぇえええええええええー!」
エルフが喋り終わる前にフィオに海の方へとブン投げられた。直後さっきまで居た場所で炎が燃え盛る。
ま、丸焼きにされるところだった。フィオも俺を投げた後ちゃんと回避してた様だ。あいつの勘は凄まじいな、あのエルフはたぶん任意の場所に炎を起こしたり、爆発を発生させられるんだろうけど、それを察知して避けれるフィオって凄すぎだろ…………。
「へぶっ――げほっげほっ、少し水飲んだ…………」
あ~、くそ、身体いてぇ~特に左腕、傷がまだちゃんと治ってないのに海水に浸かるわ、振り回されて負荷が滅茶苦茶掛かるわで滅茶苦茶痛い。
「ワタル! 矢!」
「っ!? あ゛あ゛ぁぁぁあああ!」
また矢が降り注いできてた。電撃で撃ち落としてどうにか回避。
フィオが教えてくれなかったら刺さりまくって生け花で使うスポンジみたいになるところだった。あ~、もうやだなぁ――。
「って今度はなんだぁああああ」
「止まったらダメ、あいつの攻撃は見えない」
やっと放してもらえたと思ったらすぐに回収された。そしてさっきまで俺の居た場所の海面が一瞬割れた。さっき怒られてたエルフは見えない斬撃でも飛ばしてんのかよ!?
「ワタル、許可、能力無しなら私の方が強いけど、見えない攻撃も炎も厄介」
「駄目だ! 今はそれで凌げても後がもっと面倒になる」
言うばっかりで役に立ってない俺がこんな事を決めてフィオの邪魔をするより、フィオの言う通りにした方が良いのかもしれない。
「…………どうしても?」
「無理を言ってるのは分かってるけど、どうしてもだ」
それでも、殺したくない、フィオに殺しをさせたくない。
ここは日本じゃない、甘い事を言ってたら殺されるかもしれない世界だ。紅月の様に割り切って考える方が利口なんだろう、それでも極力殺したくない、殺すなら相手が絶対的な悪だと思える理由が欲しい…………理由が欲しい、か、言い訳がないと決断出来ないのか俺は…………。
「…………分かった、ならどうにかあいつの後ろに回り込むから気絶させて、炎と見えない攻撃、二つあると面倒」
「出来るのか?」
「ワタルがどうしてもって言った」
そりゃ言ったけど……さっきも避けるので手一杯で近付けなかったのに。
「ワタルは雷を地面にいっぱい撃って、砂煙に紛れて後ろを取る」
そうか、相手に当てることが出来なくても目眩ましに使ってフィオが動くための補助くらいには役立つか、なら電撃の閃光も使えるかもしれない。
「フィオは見えなくても大丈夫なのか?」
「気配くらい読める」
心外だと言わんばかりに睨まれた。本当に、凄いちびっ子だよお前は。
「分かった、あと電撃の閃光も使う、閃光で一時的に失明するだろうから撃つ前に握ってる手に力を込めるからその時だけ目を瞑れ」
「ん」
「じゃあ、反撃だ!」
威力を押さえた電撃を砂浜に撃って砂を巻き上げて砂煙を作っていく。
うへぇ、これこっちも目を開けてられなくないか? 口にも入ってじゃりじゃりだ。
「目眩ましか、こんなもの!」
あ、あの女エルフの能力って炎…………粉塵爆発!?
「フィオ、砂煙から出ろ! すぐに」
俺の声に反応してフィオと俺が砂煙から抜け出そうとした瞬間砂煙の中を炎が通過していった。
あれ? 爆発は? 粉塵爆発の条件ってたしか…………空中の粉塵が燃焼してそれが伝播する事で発生…………砂って燃えるっけ?
「あっつ!」
爆発は起こらなかったけど熱せられた砂粒が当たって熱いし痛いしで最悪だ。
フィオの恰好は肌の露出部分が多いからこれは堪らなかった様ですぐに砂塵から抜け出した。
「ワタル、閃光!」
「は、はい…………」
滅茶苦茶怒ってらっしゃる…………。
全力の電撃をエルフや獣人たちに当てないように数発空に向かって撃つと、閃光に目が眩んで相手の動きが止まった。
「っ! ワタル!」
フィオは相手の動きが止まってるのを見るや瞬時にエレッフェラと呼ばれていたエルフの後ろを取った。
「寝てろ!」
エルフの背中に手を当てて電気を流し込む。
「がぁああああああああああああああ!」
「次」
エルフが倒れたのも確認せずに今度は女エルフへと間合いを詰める。
「っ!? 人間ごときが調子に乗るな!」
「チッ、もうちょっとだったのに…………」
あぁ、フィオも舌打ちとかするのな…………。
女エルフの後ろに回って近付こうとしたら爆炎に遮られた。フィオの反射速度じゃなかったら丸焼きだった、炎使い怖い…………。
「うわっ!?」
女エルフが自分の周囲で爆炎を発生させ始めた。
「静かにして、声で気付かれる」
怒られた…………情けねぇ、こんなちびっ子に。
「あいつ無茶苦茶やってるな」
「違う、ちゃんと気配を探ってる」
え゛!? そんな無茶苦茶やれるのお前だけで充分だよ!
「ワタル、矢」
「え? あ、もう、めんどくせぇ」
閃光を躱した者も居たようで女エルフから俺たちを引き離すように矢が放たれて来る。電撃でいくらかは撃ち落として回避はフィオにお任せ。
この浮遊感にも慣れてきたな、こんな状況じゃなかったら面白いかもしれないのに。
「あれ? 全然違う方向にも飛んでるぞ」
「え? っ! リオ達が出て来てる」
「はぁ!?」
船の方を見ると確かに甲板にリオ達の姿が見える。
なんで出てきた? せっかく見つかってなかったのに、最悪この状況をどうにも出来なくてもフィオは一人で脱出出来るし、見つかってないリオ達もどうにか逃げる事が出来ると思ってたのに。
「お~い! 航ー! 僕も覚醒者に成れたから手伝うよー!」
はぁ!? なんでいきなり? 大体手伝うって、成りたてだと能力のコントロールが上手く出来ないんじゃ? それに能力ってどんなのだよ? もし殺傷能力の高い力で制御が出来なかったりしたら…………。
「いらねぇー! なんで出てきたんだあのバカ! フィオ船に――」
「矢くらいなら大丈夫、紅月が燃やす」
そりゃ、そうかもしれないけど…………不安の方がデカいんですが――。
「なっ!?」
船に向かっていた矢が凍った様に止まって、海へ落下した。
あれが優夜の能力か? 冷気を扱えるのか?
「僕だって手伝えるよー! ほらー!」
『!?』
「はあ!?」
「っ!? ワタル、ここは危ない」
俺もエルフも獣人も優夜が引き起こした現象に唖然として固まった、そんな中フィオだけが反応した。
空を埋め尽くす様に現れた無数の氷の槍、無茶苦茶だ、こんなのが成りたてのやつの扱える規模か? 練度が上がったらどうなるんだよ? あんな物降らせたら確実に死人が出る…………。
「ワタ――」
「こぉーづきー! 溶かせぇぇぇええええええ!」
言い放ったと同時に空に手を上げて電撃を全力で放つ。
普段撃ってる細い線の様なのじゃ駄目だ。もっと広い範囲に行き渡る様に面で放たないと壊しきれない!
「くそぉおおおおお! 溶けろぉおおおおお!」
空を埋め尽くしていた氷の槍を電撃と炎が覆うが槍の出現した範囲が広すぎて俺と紅月だけじゃ溶かし切れない。
「っ!?」
傍から炎が空へ噴き上がった。
女エルフがやったのか、これならどうにか溶かし切れ――。
「ぐあっ!? なにが!?」
氷の槍を炎雷が完全に覆って溶かし切れると思った瞬間、大きな音が響き空が爆発した。
なんでいきなり!? 紅月も女エルフも炎を発生させてはいたけど爆発は起こしてなかった、なのになんで? 爆発の衝撃で巻き上げられた砂と煙で視界が悪いし息苦しい、煙? 燃える物なんてなかったはず、煙も白っぽい気がする、水蒸気? …………水蒸気爆発? 溶かすだけじゃなくて一気に蒸発させたのか!? それでこの惨状か、でも爆風以外はなんともなかった、と思うしみんな無事なはず。
「フィオー、大丈夫かー?」
「この状況で暢気なものだな」
声のした方へ振り向くと女エルフが煙を切り裂き現れて俺に斬りかかろうとしていた。そしてその後ろに鬼の形相で剣を振り下ろそうとしているフィオが居た。
「止めろ!」
「命乞いか? そんなものは聞か――なっ!? あっぁぁぁあああああああああああああ!」
俺の声に反応したフィオが咄嗟に身体を捻って攻撃を回し蹴りに変えて、エルフをこちらに蹴飛ばしてきた。急に間合いが詰まった事に驚いているエルフに体当たりをして、そのまま電気を流した。
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