紅蓮
ガタガタという音と揺れの不快感で目が覚めた。
どこだここ? これ檻? 俺は木製手枷を付けられて檻の中に入れられて荷馬車で運ばれている最中の様だ。あれからどうなった? リオは? フィオは?
「やっと起きた」
声に振り返ると、隣の檻の中にフィオが居た。
「フィオ! 無事なのか!? 怪我は? どこも怪我してないか?」
「怪我はしてないけど無事じゃない、捕まってる」
そりゃ見りゃ分かる、俺も捕まってるし、でもよかった、怪我はないのか。ならリオは? 荷台には檻が二つ、俺たちしか乗ってない。
「フィオ、リオはどうなった?」
「知らない」
…………最悪だ、俺が巻き込んだ。能力を得て、誰かを助けられると思いあがった結果がこれか、恩人を巻き込んで奴隷に貶めた。なにやってんだよ俺は! なんとか逃げ出して助けに行かないと、能力は…………使える気配はない、前と後ろにも馬車が居る、どちらかにキクチと呼ばれてたキノコ頭が乗ってるんだろう、あいつの能力の範囲内じゃ俺はただの人か。
「なぁフィオ、この檻蹴破れないか?」
「ワタルの入ってる檻と同じなら出来たけど、私が入ってるのは無理、それに私は足も自由じゃない」
よく見るとフィオは手枷だけじゃなく足枷も付けられている。でも、あれ俺のと違わないか? 俺の枷と違って、フィオの枷はオレンジがかった金色の金属で出来てるようだった。檻の色もそれと同じ色をしている。
「暢気だなぁ、お前ら。お前らを捕えてる奴がすぐ近くに居るのに暢気に逃げる相談か? こっちはまる一日働き詰めなのにいい気なもんだぜ。ったく何時まで走り続ける気だよ隊長は」
俺とフィオの会話を聞いて御者が話しかけてきた。
「新しい玩具が手に入ったから早く収容所に戻って遊びたいんだろ、どうせもうすぐ着くんだ、我慢しろ」
「っ!? 玩具ってリオの事か! リオは無事なんだろうな!? もし何かしてたら――」
「あ~、確かそんな名前だったなあの女、まぁ今はまだ無事なんじゃないか? 馬車の中じゃ犯らんだろ、隊長は落ち着ける状態じゃないと犯らんと言ってたし、収容所に戻ったあとにどうなるかは知らんがな」
もう一人の御者がそう言ってきたが信じられるか? でも無事であってほしいという思いから、信じたいと思ってしまう。まだ無事なら今すぐここを抜け出して助ければ、まだ間に合う。
「おい、そんな事教えていいのか?」
「問題ないだろ、力を使えない覚醒者なんてなんの役にも立たないんだから、混ざり者の方もしっかり拘束してあるんだし」
やっぱりフィオに付けられた拘束具は特殊な物なのか?
「フィオ、どうしても壊せないか?」
「む――」
「あひゃひゃひゃひゃひゃ、無理むり、いくら混ざり者が身体能力に優れてようがオリハルコンはこの世界で一番硬い金属だ。それを道具無し、それも拘束された状態で壊せる奴なんて居ねぇよ!」
フィオが答える前に、最初に話しかけてきた品のなさそうな方の御者が答えた。変な笑い方…………。
オリハルコンも存在してるのか、ゲームではお馴染みの物が実在してるって変な感じだな。
脱出は無理なのか…………一体どうせすればいいんだよ! どうしたらリオを助けてやれる? 少しは変われたと思ってたのに、結局俺は何も出来ないクズのままなのか?
「なにしてる?」
突然フィオが枷を付けられた足で器用に檻をガンガン蹴り始めた。
「逃げたいんでしょ、逃げる努力」
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ! 何が努力だよ、壊せるわけねぇっつの」
男の言う通りだろう、万全の状態で道具でもあれば、フィオなら遣って退けそうだけど。
「…………」
フィオは男の言葉を無視してひたすらに檻を蹴り続ける。
「チッ、ガンガンガンガンうっせぇぞ! 静かにしてろクソガキ!」
「…………クソ、ガキ?」
フィオの目がヤバい、目が合っただけで人が殺せそうな感じだ。
「ワタル、許可」
許可? 許可って、もしかして暴力の許可? 許可しても今の状態じゃどうにもならんだろ、諦めろ。
フィオがダメなら俺の手枷はどうにかならないか? ガチャガチャと手を抜こうとしてみるが、どうにもなりそうにない、そうする為の物なんだから当然だけど。
「やっと収容所が見えてきたな、これでこのガンガンガンガンうっさい音から解放されるのか」
日は疾うに暮れ、辺りは暗い。
あれからフィオは攻撃の代わりなのか、より一層檻を蹴る事に力を入れてガンガンやり続けた。御者の二人は心なしかやつれて見える。かくいう俺もこの音には少しうんざりして、ぐったりとしている。あぁ、これからどうなるんだろう? リオを助けたい、なのに俺は無力だ。こんな奴が誰かを助けられるなんて思いあがったからバチでも当たったのか? 勘弁してほしい、バチなら俺に当てろよ! リオ達を巻き込まないでほしい。
「やーっと着いたな、いい加減に止めねぇか! うっせぇっつてんだろクソガキ! ずっとガンガンガンガンガンガンガンガン頭おかしいんじゃねぇのか」
「ふんっ!」
「っ!? いっぅう! このクソガキやりやがったな! クソいってぇー、これ骨が折れてんじゃないのか!?」
フィオの檻を掴んだ御者の指を思いっ切り踏みつけたようだ。あんたが怒らせる様な事言うから…………。
「何を騒いでいる、さっさとそいつらを地下牢へ連れて行け! 絶対に普通の牢へは入れるなよ、覚醒者は覚醒者用の牢へ、混ざり者はオリハルコンの牢へ入れろ」
後ろの馬車から出てきた兵士が指示を出していく。
あっちにはリオは乗ってないのか、なら前の馬車か――!
「リオ! リオ! 無事か! 何もされてないか!?」
「ワタル! ――」
「お喋りは無しだ、お嬢さん。すぐにでも私の私室に行こう」
赤髪眼鏡が邪魔だ。俺と話させないようにして、リオの肩を抱き建物の中へ入っていく。
「リオ! 待ってろ! 絶対に助けに行く! 絶対にだ! だから諦めるな!」
「くっくっくくはっははははは、何が絶対に助けに行く! だ、この檻からも抜け出せない奴がどうやってあの女を助けるんだ?」
うるさい、黙ってろ! 今それを考えてるんだ。俺の檻を掴んだ指を踏みつけてやる。
「がっ、つぅ~、このやろ――」
「相手にするな、さっさと牢に運んで仕事を終わらせて酒でも飲もう、何時までもこいつらの相手なんか俺は御免だ」
「チッ、分かったよ、ならそっちの異界者は任せたぜ」
「ああ、キクチ! 一緒に来てくれ」
兵士の呼び掛けでキノコがやって来る。このキノコのせいで俺は…………。
睨んでみたが全くの無反応、こんな奴に!
檻ごと台車に乗せられて地下牢へ連れて来られた。
「入れ、ここがお前の部屋だ」
檻の入り口と牢の入り口をくっつけて、開かれる。
「行け!」
「うわっ!?」
いつまでも入ろうとしない俺を檻の隙間に棒を突っ込み牢へと押し込んだ。
「やっと終わったな、キクチ、もういいぞ」
その言葉と同時に能力を使う時の感覚が戻ってきた。今しかない!
「出ぁあせぇええええええええええ!」
周囲の物を壊し、薙ぎ払うつもりで電撃を放った。のに、天井、壁、床、鉄格子のどこに当たっても跳ね返り牢の中を電撃が暴れ回る。どうなって…………?
「あ~、びっくりした。凄い音と光だな、これがクラーケンを倒した能力ってわけだ。だが、なにをやっても無駄だぞ、そんな力を持ってる奴を普通の牢に入れるはずないだろ? この牢は覚醒者の能力で作ってあって中からは何も出さない、それがどんなものでもだ。出る為には鍵を開けてここから出るしかない、分かったらさっさと諦めな」
ふざけんな! 絶対に出るんだ。全力で電撃を放ち続けるが、どこも壊れる様子はない。本当に駄目なのか?
「頭の悪い奴だな、まぁ好きにすればいいさ」
兵士とキノコは出て行ってしまう。
「おい! 出せ! ここから出せ! 助けないといけないんだ。出せぇええええええええええええ!」
鉄格子越しに叫ぶが反応なんて返ってこない。何か、なにか考えないと、早くここから出ないとリオが…………。
この牢は覚醒者の能力で作ったって言っていた。なら俺の能力で壊せてもいいじゃないか、能力に優位性があるのか? それとも俺の力不足か。キノコに能力を奪われ、知らない奴の能力に閉じ込められる。なんだよこれ?
「こんなの納得出来るかぁあああ! ――!?」
もう一度電撃を放とうとした時、上の方で爆発音が聞こえた。なんだ? また聞こえた。爆発音が続く、襲撃されてるのか? 誰に? というかこの世界に爆発物なんてあるのか? ――!? 音が近付いて来てる気がする、兵士達の火を消せという怒号が飛び交ってる。一体何が起こってるんだ?
「貴様! ここでなに――」
地下牢の入り口の方から聞こえてた声が爆発音で掻き消えた。今の爆発はすぐ近くだった。――!? 足音がする、こっちに近づいて来ている。何が来るんだよ、早くリオを助けに行かないといけないのに、これ以上面倒事なんて起こるなよ!
「あやのぉー! 居るー? 居たら返事しなさーい!」
女の声? 誰かを捜しているのか? あやの…………? 日本人の名前? なら捜しに来た奴も日本人か、だとしたら爆発もこいつの仕業、覚醒者? 襲撃してるって事はこいつは敵じゃない。
「おいあんた! 頼む! ここから出してくれ! どうしても助けたい人が居るんだ! 頼む!!」
鉄格子の間から手を出そうとしたが手を出す事が出来なかったので鉄格子を蹴って場所を知らせる。
「あたしは人を捜しに来ただけで、人助けに来たわけじゃないんだけど、それにわざわざこの国の人間なんか助けたくないし」
そう言いながらも俺の入ってる牢に近づいて来てくれる。出られる、リオとフィオを助けに行ける!
「おれはこの世界の人間じゃない、あんたと同じ日本――!?」
同じ日本人だ、と言おうとしたが女の姿を見た瞬間言葉が止まった。
紅かった。
紅い、燃える様な紅蓮の髪と瞳、日本人じゃない…………混血者が覚醒者になったのか?
「あんた日本人な――っ!? なん、で?」
ん? なんで、ってなにが? 今度は女の方が言葉を止めた。いや、今はそんな事どうでもいい、時間がないんだ。
「俺は如月航、異界者で日本人だ。どうしても助けたい人たちが居るんだ、頼む! ここから出してくれ」
その場で土下座した。日本人じゃなかったら意味が分からないだろうけど、これが一番いいと思った。
「きさらぎ、わたる? 他人の空似…………」
俺が知り合いと似てたのか? 女はそれきり黙って牢の前に佇む。早くしてくれよ、本当に時間がないんだ!
「その人とはどういう関係?」
「恩人! と旅仲間?」
「なんで疑問形なのよ」
いや、俺にもよく分からんし、これからずっと一人だと思ってたのに、急に付いて来るって話になったし。
「恩人は分かるけど、そんなよく分からない関係の人も助けたいの?」
確かによく分からんやつだけど、良いやつだと思うし、フィオにも二度救われてる。
「訂正、二人とも恩人だ。だから何がなんでも助けたい! 手伝ってくれとは言わない、出してくれるだけでいい、だからどうかお願いします」
「はぁ~、土下座までされちゃぁ放っておくのも可哀想か……いいわ、出してあげる。鉄格子から離れてなさい」
爆発させて壊す気か? というか、覚醒者の能力じゃこの牢破れないんじゃ?
「おい、ちょっと――っ!? あっつ!」
止めて鍵を探してもらおうとしたら、鉄格子が一気に炎に包まれた。これがこいつの能力か…………? なんで弾かれない? さっき俺が電撃を当てた時はなんの効果もなかったのに…………とりあえず、滅茶苦茶熱い!
「熱い! 熱いって! 死ぬ! 焼け死ぬ!」
「男のくせに大袈裟ねぇ、ま、そろそろいいかな」
そう言って炎を消した。焼死体か水分なくなってミイラになるところだった。
「離れてないと危ないわよ」
俺が鉄格子から離れるのを待つ事もなく鉄格子を蹴り倒した。
「うわっ!?」
蹴られた鉄格子がこちらに向かって倒れて来て、危うく下敷きになるところだった。蹴って壊せるって一体どんな…………よく見ると壁とのつなぎ目の部分が真っ赤になっている、鉄格子が溶ける程の熱量…………俺本当に焼け死ぬところだったんじゃ?
「ほら、開いたわよ、出ないの?」
「! 出るよ!」
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