実験は成功?

 さて、今日から午前はレールガンの実験である。午前と言っても時間が分からないから適当ではあるが、美緒が昼食頃に呼びに来てくれる事になっている。ちなみに今日は美緒たちは来ていない、昨日俺を気絶させたのが気まずいらしい。今朝美緒に昨日味方をしなかった事を謝られ、美空たちから代わりに謝ってほしいと言われたという事を伝えられたが、正直虫ごときで気絶した俺が悪い、二十四歳の大人が虫で気絶…………。

 美空の親父さんの言っていた通りこの話は村に広まっている様で、廃坑に向かう途中ですれ違った人に何度か笑われた。まぁしょうがない、俺も他人事なら笑ったかもしれない。

 思い出すと鬱になるのでさっさと実験を開始しよう。廃坑内の実験だし射程はとりあえず必要ないので短剣で試す事にする、右手で短剣を構えて…………どうしよう? 両手が使えるなら左手で二叉になってる部分に玉を置けるけど…………しまったなぁ、何も考えてなかった。少し位なら動かしても平気か?

「っ!」

 まだ痛い、当然か。でも早く試してみたい、魔物が封印されていて殆ど存在してないのだから、戦う事になっても対人戦だろうからレールガンなんて使えたとしても威力過剰だし電撃の方が便利だと思う、が! 威力過剰な武器や派手な攻撃はロマンだ。ゲームなんかで雑魚一掃とか爽快だし、出来ても人に向けては使わないけどな。

 ここは痛みに耐えてでもやってみたい! 通路の奥へ短剣を構えて、痛みを我慢し左手を動かして、玉をセットして電気を流す。


「…………ショボ」

 ビビッて電圧をかなり抑えたせいで発射はされたけど飛んだのは一メートル程度だと思う。たぶん威力なんてまるで無い、無いが火花と音が結構凄かった。これ電圧上げたらどうなるんだ? 思っていた以上の音と飛び散った火花に尻込みする。

「いや、発射出来るのが分かったんだからやるしかない!」

 もう一度構えて、今度は全力で電気を流した。

「うわっ!」

 物凄い音共に短剣がスパークした。成功か? 撃った方へ確認に行ったけど奥の行き止まりに着いても何も無い、壁にも穴が開いている様子もない。どうなってんだ? 確かに全力でやったし、短剣を向けていた方向に火花も飛び散った。もう少し壁までの距離を縮めてみるか? さっきは発射位置から奥の壁までかなり距離を取ってたし、さっきが百メートル位かな? 小学校でやった百メートル走位の距離だと思う。今度は奥の壁までの距離をさっきの半分位まで詰める。

「これで、どうだ!」

 先ほどと同じように全力でやった。二度目だけど短剣がスパークするのには結構ビビるな、今度はどうだろう? 奥の壁に確認に行くがまたも変化なし。

「発射されてるよな?」

 分かんない、やっぱりうろ覚えの知識じゃダメなのか? 更に距離を縮めて試す事にする。これでダメなら俺には出来ない事と諦めるしかないかもしれない。


 再度全力で電気を流したら、ゴッという音が聞こえた。壁に当たったか? 急いで確認に向かう、壁に異常は…………。

「あった!」

 壁にさっきは無かった穴が開いている。やった! 成功した、でもなんで最初と二度目の時は変化がなかったんだ? 壁の穴をランタンで照らして覗き込む。結構奥までめり込んでるな、穴に指を突っ込もうとしたがびっくりして手を引いた。

「あっつ!」

 かなり熱い、当たり前かあれだけ全力で電気を流したんだから撃った玉が電熱でかなりの高温になってるはずなんだから、もう一度穴を照らして覗く。

「ん~」

 なんか穴の途中が少し光ってる気がする。もしかして鉄が溶けて付着した? 電熱は鉄が溶けだす程の高温になっている? だとしたら、最初と二度目のは壁に当たるまでに溶解した!? 高速で飛ばしているんだから空気との摩擦熱もあるだろうし、それで溶けて確認出来なかった、って事でいいんだろうか? 学校に行って勉強してれば分かる事なのかもしれないけど、行ってなかったから全く分かんないな、分かった事はかなり近距離じゃないと効果がないって事か。

「びみょ~…………」

 レールガンって兵器なわけだし、もっと長距離から撃てるものを考えてたんだけど…………撃てただけマシか? ろくな知識もなく発射まで出来たんだから良い方か、実用性はないよなぁ。電圧をもっとちゃんと制御出来たら変わるんだろうか? 結局加減の練習が必要ってところに戻るのな…………。

「どうしたもんかなぁ~」

 まぁ普通に考えたらこんな実験してないで、実用性のある電撃の加減の練習をするべきなんだよなぁ、でも強力な攻撃手段というものに惹かれてしまう。人に向けて使わなくても、高威力なら脅しに使えるかもだし…………いや、それなら電撃の方が派手で効果があるか。

「ああ~、玉が溶けなきゃなぁ」


「航さん、そろそろお昼ご飯です」

 レールガンへの未練でぼんやりしてたら、いつの間にか美緒が傍に居た。もうお昼か、時計ないから分かんないけど結構時間が経ってたのか。

「呼びに来てくれてありがとな」

 美緒の頭をぽんぽんと撫でる。髪綺麗だよな、触り心地いいし頭の高さも丁度いい高さで撫でやすい。

「あの、怒ってない、ですか?」

 美緒がおっかなびっくりって感じで聞いてくる。怒る? 昨日の事だろうか? 朝に気にしなくていいって伝えたのに。

「昨日の事なら別に怒ってはないよ。美緒がなにかしたわけじゃないんだから気にしなくていいって、というか昨日の事は忘れてくれ、虫で気絶したとかかなり恥ずかしい、すれ違う人には笑われるし…………」

「苦手なんだからしょうがないって思います。あんなに嫌がってたのに、私美空ちゃんたち止められなくて――」

「だから気にしなくていいってば、この話題続けられる方が辛いって」

 美緒がどんどん落ち込みそうな感じだし、本当にこの話題が続くのも嫌なのでそう言って切り上げる。

「あの、航さん、美空ちゃんたちも悪気はなかったと思います。航さん覚醒者の力の練習ばっかりだったから、一緒に遊びたかっただけ、だと思います」 

 俺と遊びたい? わざわざ俺なんかと? そんなに懐かれてる自覚はない。

「なんでそう思うの? 俺無愛想だし一緒に居て楽しい部類の人間じゃないと思うけど」

「えっと…………私たち三人とも兄弟が居ないから、お兄ちゃんができたみたいで嬉しかったので、その…………」

 兄弟ね、俺ならこんな無愛想でうつ病引きこもりの兄弟なんて要らんが…………一緒に遊びたい、か、この村に居られる時間が限られていて、村を出たあとの目的もある以上暢気に遊んでる場合じゃないんだけど、どうしよう?

「ああ~…………とりあえず戻って飯食おうか」

 こんな風に言ってくれてるんだから、「なら少し遊ぼうか?」位言えればよかったんだろうけど、妙に照れくさくて言葉に出来なかった。こんな年下相手に、俺って本当にヘタレだな…………。



「ごちそうさまでした」

「おそまつさま」

 そう言って明里さんが後片付けを始めて美緒もそれを手伝っている。片付け位手伝えたらなぁ。

「どうしたんじゃ? ぼーっとして、明里の飯が美味すぎて放心かの?」

 確かに美味しいし、日本食で嬉しいけどそれで放心したりなんかしない。

「いや、お世話になってばっかりで申し訳ないなって」

「なんじゃ、そんなことか。最近はお前さんのおかげで食事が豪勢になって儂も村の者も皆感謝しておるぞ」

 猪鹿の事だろうか、あれだって練習に失敗して絶命させたのをわざわざ村の人に運んでもらってるんだから役に立ってるって感じじゃない気がするんだけど。

「猪鹿だって運んでるの村の人だし、俺が料理してるわけじゃないですから」

「お前さんは少し卑屈じゃの、もう少し自分に自信を持ってもいいと思うがの」

 自信…………卑屈なのは自覚してるけど、この世界に来るまでろくに外にもでず勉強だってしてなかった、そんなやつにどんな自信を持てっていうんだろう?


 昼食も済ませたし、今度は山に行って力の加減の練習をするか。

「今から山に行くのか? 今日はやめておけ、曇ってきておるからそろそろ降り出すぞ」

 縁側から空を見ると確かに曇ってきている。戻ってくる時は晴れてたのに、今日はもう練習出来ないのか。引きこもりたいと思ってたけど、いざそうなってやる事がなくなるとどうしていいか困る。他人の家だし、漫画やゲームがあるわけでもない。


『こんにちは~』

 することがなくて途方に暮れているところに美空と愛衣がやって来た。

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