辿り着いた先で 改稿
走ってるなんて言えない様な速さで走って、ようやく町の側に来た。
だけど今、俺の心は喜びより絶望感がほとんどを占めていた。
昨日目が覚めた時から違和感があったし、その可能性も考えたけど馬鹿々々しいと心が受けつけなかった。
でも草原、森、街道ときて、そしてこのファンタジーを扱ったゲームでよく見る中世の様な町を見て確信になる。
ここはやっぱり日本じゃないんだ……。
なら外国の田舎とかだろうか? ここが外国なら日本語なんて通じないだろう。
英語は全く分からない、学校に行ってなかったし、家で勉強しようなんて気にもならなかったから、からっきしダメだ。だがそれでも外国ながまだいい、日本語の分かる人を探せばいいのだから。でももし本当に異世界だったらどうなるんだ?
人に会えても意思疎通が出来ないのなら何の意味もない。
どうにもならない現実を前に途方に暮れる。
「どうすりゃいいんだよ……」
俺の焦りや不安などお構いなしに日が暮れ始めていた。
「はぁ……」
こんな所でずっと突っ立っていても仕方がない。覚悟を決めて町に入ってみるしかないんだ。
それに田舎だとしても警察くらい居るだろう。
言葉の通じない奴がいきなり町に訪れるんだから最初は不審者扱いかもだけど、日本人だって事を上手く伝えられたら日本語のわかる人を連れて来てくれるかもしれない。
まだ希望はある。外国なのであれば――。
町の入り口に向かって歩き出すがやっぱり足取りは重い。動悸がひどくて息苦しいし、鈍い頭痛までし始めた。
ただでさえ人と接することが難しいのに相手は外国人なのだ。
緊張か恐怖なのか、手の震えが止まらない。
入り口が近づいてくると門の上に人が居るのが見えた。警備の人だろうか?
んん?! あの人変じゃないか? 兜は被ってないけどプレートアーマーを装着しているのだ。警察とか警備員ってもっとわかりやすい、それらしい恰好をしてるものじゃないか? まさか町の趣に合わせてあの格好なんて事もないだろ。
ありえないと思っていた妄想じみた考えが頭を擡げてくる。ここは俺が居た時代じゃないのかもしれない、それどころか同じ世界ですらないのかもしれない。
門番の人に見られはしたけど、無視してさっさと町に入った。
町に入って俺は現実に打ちのめされて固まった。
町の人達の頭髪がアニメやゲームみたいに色んな色をしている。よく見ると瞳の色もだ。服装も現代人っぽくない。
それに街灯とか車みたいな文明の利器が見当たらない。
マジで異世界? コスプレ集団の特殊な町とかじゃなく? 現実逃避をしつつも目の前の現実を凝視する。
「今日飲みに行こうぜ」
「最近飲み過ぎだって女房に怒られてるから今日は無理だわ」
仕事帰りらしい中年が連れ立って盛り場の方へ通り過ぎていく。
「今日の晩御は飯何がいい?」
「僕シチューがいい!」
買い物途中の親子が夕食の相談をしながら俺を一瞥して歩き去る。
行き交う誰も彼もが話す内容が理解出来る。明らかに日本人じゃない顔立ちの町の人が喋っている言葉が分かる。どうして? ここが異世界だとしたらご都合主義ってやつ?
呆然としている俺を訝しんで足を止める人が何人かいる。
「ちょっと君ぃ」
さっきの門番がこちらにやって来ようとしていた。
その時強い風が吹いて顔の半分位を隠していた前髪が後ろに流される。
門番に呼び止められた俺に視線を向けていた女性と目が合った。
「キャァァァァァァー、イカイシャよ! 早く捕まえて! 無理ならすぐに殺して!!」
唐突なヒステリックな女の叫び声と俺を嫌悪する狂気じみた瞳と周りの人の様子が変わったことが現状がヤバい方向に向かっているのを嫌でもわからせてくれた。
「本当だ! こいつの目黒いぞ!」
小太りのおっさんが周りに警戒を呼び掛け。
「こんなひょろい奴、俺たちで捕えちまおうぜ!」
それを受けた喧嘩っ早そうな青年が周りを煽り取り囲むように呼び掛ける。
「止せ! もしカクセイシャになったらどうするんだ! 兵士に任せておけ!」
気の弱そうな男が酷く怯えて制止しながら遠ざかる。
「奴隷人種が、勝手にこの町に入ってくるな!」
周囲の質素な服装の人々とは違い、上等な装いの裕福そうな男が汚らわしい物を見るような目をして不快感を露わにして言い放つ。
「ウィル、早く殺っちまえよ!」
ガタイのいいおっさんが兵士に発破を掛け俺に石を投げつける。
煽られた門番が槍を構えて躊躇なく突進してくる。
本当に殺される!? 門番の目を見て理解する。純粋な殺意――本気で殺すつもりだ。
父さんを恨んで呪って殺したくて仕方がなかった頃の俺の目と同じ、殺すことをなんとも思ってない人間の目だ。
門番の槍を既の所で右前方に倒れこみながら躱した。少しの動作で心臓が早鐘を打つ、理不尽な殺意に頭が追いつかない。
門番のほうを見ると既に次の一撃のために動き出していた。
二撃目も倒れたまま横に転がりどうにか躱せた。
視線をずらすとさっきまで俺の頭が在った場所に槍が突き刺さっている。
門番が槍を引き抜く間に立ち上がり、逃げるにはどうすればいいか必死に考える。
そんな中三撃目が来る、今度もギリギリで躱せた。と思ったが左腕にジクジクとした痛みが走り熱が広がる。
槍の穂先が掠ったようだ。門番がニヤリと笑った。
「おいおい、殺していいのかよ? ウィル」
小太りのおっさんが不安を滲ませて門番へと問い掛ける。
「手足の一二本なら別にいいさ!それに死んだら死んだで問題ない、暴走したカクセイシャって事にすれば討伐ボーナスが付く!」
最悪だ! せっかく人が居る場所を見つけたのに、なんでこんなことになってんだ! 理不尽な殺意と嫌悪に総毛立つ。
このままだと本当に殺されてしまう、早く――早くここから逃げないと!
形振り構わず俺は遠巻きにこの状況を見ていた女性の後ろに回り込み、盾代わりにして門番に突っ込む。
「いやあぁぁぁぁぁ! やめて! 離して!」
金切り声を上げる女性を前に流石に門番は面食らったようで構えていた槍を下ろした。それに合わせて女性を門番に向かって突き飛ばす。
二人が倒れこんだ隙に一目散に町の外へ逃げる。
「馬を用意しろー! 絶対に逃がすな!」
後ろから怒号が聞こえて振り返った瞬間頬を矢が掠めていく。痛いと感じる余裕もなくただただ駆ける。探していた人里から遠ざかる為に――。
「くっそッ!」
なんであれだけの殺意を向けられなきゃいけないんだ! 俺が何をした? 俺が悪いなら教えてほしい。見知らぬ土地に放り出されて殺されかける……なんて理不尽!
「ああぁぁ! 最悪だぁぁぁー!」
街を出てからは一心不乱に走った。どこをどう走ったのかなんて全然覚えていない。
ただ気が付くと日は完全に落ちて、辺りは暗くなっていた。
周りを見た感じだと木が結構生えてるし森か山だろうか?
でも昼間の大樹の森とは生えてる木の大きさが全然違う。この辺りのは普通の? 見慣れたサイズの樹木だ。
周囲に人の気配はないし追手は振り切れたようだ。よくもまぁ、現役の兵士相手にうつ引きニートが逃げられたものだ。
今日は今まで動いてこなかった分を全部まとめて動いた気分だ。
とにかく疲れた。危機を逃れた事を理解して足はガクガクし始めたし緊張が切れた事で疲れが一気に吹き出して今日はこれ以上動けそうにない。
近くの木にもたれ掛かるとそのまま座り込む。疲れ過ぎて頭も上手く働かないのか考える事を放棄してしまう。
過酷すぎだろ異世界、魔物より人間のほうが恐いってどうなんだ?
あぁ……周囲に明かりもないし人の気配も無い。今日はもうここでいいや、寝てしまおう。そう思って瞼を閉じると疲労に呑まれてあっと言う間に眠りに落ちた。
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