黒の瞳の覚醒者

一条光

一章~気が付けば異世界~

目が覚めた 改稿

 まぶしい……。

 寝る前にカーテン閉めなかったっけ? 

 いや、閉めたはずだ。

 少しでも明るいと眠れないからいつも絶対に閉めて寝ている。

 誰が開けたんだよ。


 母さん…………はもういないんだっけ。


 薬のせいで頭が重い。


 あれからもう四年も経つのに、未だに母さんが生きていると錯覚を起こすことがある。

 俺が小学六年生になった頃から父さんが帰って来なくなった。

 母さんに何度聞いてみても答えてはくれず、その態度から聞いてはいけないのだと父さんのことを聞かなくなった。


 それからしばらく経った頃に、母さんが引っ越しをすると言い出した。

 引っ越しなんてすれば今いる友達をなくしてしまう。一度引っ越しをして友達をなくした経験がある俺は猛反発して理由を聞いた。

「お父さんと離婚することになったの」

 そんなのは嫌だと反抗したけど。

 母さんには「離婚なんてよくあることだし、仕方がないの」と言われてしまった。

 納得なんてできなかったがどうしようもなかった。


 父さんが一方的に離婚届けを出して蒸発したのだ。

 それで家業を継ぐために一緒に住んでいた父方の祖父母に出ていくように言われたそうだ。

 祖父母にとって俺と母さんは家業を継がせる父さんの付属品でしかなかったみたいだ。

 肉親に裏切られたことで俺は人と関わる事が怖くなった。


 それでも引っ越した先で頑張ろうとしたが、度々いじめをしていたクラスメートを止めに入ったことでクラスで浮いてしまう。


 人間は家族ですら裏切って、切り捨てる。他人は他者を平気で傷つける。

 ――次第に学校を休むようになり、とうとう引きこもる様になった。


 母さんは怒らなかった。

「航には心の休憩が必要なのね」

 そう言って自分の殻に閉じこもる俺を許してくれた。

 だが、自分の子供がそんな状態になったら心配しない訳がない。

 そうやって心労をかけ続けたせいで、俺が十八歳になった頃に母さんが倒れた。


 ガンだった。


 二年間闘病生活を続けたが最後はあっけなく逝ってしまった。

 母方のじいちゃんもばあちゃんも泣いていた。


 俺は――泣けなかった。


 たぶん心が壊れていたんだ。

 母さんを自分のせいで死なせてしてしまったと思った俺は更に自分の殻に閉じこもるようになった。


 葬儀から二年が過ぎた頃、母さんが病院に行ってみたらどうかと言っていたのを思い出した。

 母さんの言葉を思い出したのをきっかけに通院し始めて二年、副作用のせいでよく薬が変わっているせいか寝起きの気怠さに未だに慣れない。

 

 ダメだ、全然寝た気がしない……。

 気怠いし、まだ眠っていたい衝動があるが、瞼越しでも感じる日の光のせいで嫌でも目が覚めてくる。

 ぼんやりとした頭で、重い瞼をゆっくりと開けた。

 まぶしい光に一瞬目が眩む。


 視界がはっきりしてくる。

 空が見えた。

 空……? なんで空? 家はぼろい借家だが天井くらいある。

「――はぁ?!」

 ぼんやりとしていた意識が一気に覚醒して起き上がる。

 周りを見回して言葉を失う。

 

 俺は一面草原の中にいた。

 うん。意味が分からない。

 なんでこんな場所にいるんだ? どこなんだよここは。

 ――動悸がして息苦しい。

 昨日は自室の布団で寝たはず…………。


 寝ぼけてるのか?

 そういえば昨日病院で副作用の話をしたら、寝る前に飲む薬が別の物に変更になったっけ。それでおかしな夢でもみてるんじゃ……?

 そんなことを考えていたら、一陣の風が吹き抜けていった。

 むせかえるような緑の匂いがした。

 夢じゃない…………。


 どうなってる?! 動悸がひどくなった。

 パニックになりながらも、もう一度辺りを見回す。


 足元には布団が敷いてある……布団?

「これ俺の布団だ」

 よく見ると辺りには見覚えのある物が散乱している。

 どれも俺の部屋にあった物ばかりだ。

 見覚えのある物を見つけて少し落ち着いてきた。


 それにしてもどうしてこんな所に居るんだろう? 

 誰かに連れて来られた? なんの為に? 

 俺なんか攫ってもなんのメリットもないだろ。いたずらとかドッキリ? 

 引きこもりの俺にそんなことを仕掛ける知り合いなんていない。


 そもそも寝ている時に誰かに連れて来られたなんてのは無理があるな。人の気配に過敏な俺が気づかないわけがない。

 ならなんでこんな場所に? 

 こんな一面草原なんて景色は日本じゃ北海道とかくらいじゃないのか?

 北海道だとしたら絶対ありえないな、俺が住んでるのは中国地方だし。


 考えてもわからない。

 はぁ、とりあえず有る物を確認しよう。

 黒のジーンズが二本、黒のタンクトップ二着、黒の長袖のシャツ、黒の半袖のジャケット……俺の服黒ばっかだな。


 他にはパンツ三枚、使いかけのティッシュ一箱とリュックサック、買ったけど履かずに投げっぱなしにしていた箱入りスニーカーと、あとは…………なんだ? あの袋、スーパーの買い物袋みたいだけど。

 パンパンに膨れた袋を手繰り寄せる。


「あぁ~」


 そうだった、昨日は二週間ぶりに外に出たからって食料と菓子を買い溜めしたんだった。んでこの袋は菓子を詰めた方の袋だ。

 結構買ってるな……。グミ多いし。


 あとはスマホと充電器か。


 スマホ!? スマホのGPS機能でここがどこかわかるじゃん。

 俺はスマホを操作し始めたが、すぐに落胆する。

 アンテナが全く立っていないのだ。

 やっぱり辺りを少し歩いてみるしかないか。

 人には会いたくないんだけど、仕方ないか。


 ジャージのままじゃ人に会った時恥ずかしいし着替えておこう。

 日差しが結構強いし、上はタンクトップだけでいいか。

 着替えて、辺りに散らかっていた物をリュックに詰める。

 有ったのは布団の周りに散らかしてた物だけか。

 

 さて今日中に人のいる場所にたどり着けるといいんだけど。

「はぁ、行くか」

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