クラッキークラッカー
@ramoramo
第1話 クラッキーの娘
第1話 クラッキーの娘(1)
「嫌! 嫌! 嫌だったら、絶っっっ対に嫌!!!!」
パームという村にある小さなバー。
そこはシューター(射撃手)のクラッキー(名手)と言われたジェクター・ブルーが経営している店だった。
村人だけを相手にしている店なので、テーブル席が三つにカウンター席が五つとこじんまりとしたつくりになっている。
店の裏側が自宅になっていて、その玄関先に一台のモービッター(車輪のない車。地上スレスレを浮遊して移動するマシン)が横付けされていた。モービッターは主に貴族が使う乗り物であるため、こんな辺鄙な村で見る事は滅多にない。そのため、ジェクター家の周囲には野次馬が集まり、どんな貴人の来客だろうかと噂し合っていたのである。
ジェクターは娘と二人暮らしである。
妻とは十年も前に死別していた。そのためかジェクターは娘を溺愛しており、そして娘も父を尊敬していた。娘が特に敬意を払っていたのは、父のシューターとしての腕前であった。娘は父の武勇伝を聞くのが何よりも好きだった。特に『クレイジー・レイ』ことレイ・バーンズというハイライダーと共に活躍していた時代の話は大好きだった。その影響か娘も自らシューターとして訓練を重ね、父に教えを乞う事も度々であった。父ジェクターは妻の死別後は銃を置き、すでに引退していたが、それでも娘の父に対する尊敬は変わらなかった。
そんな仲むつまじい父娘の家から娘の拒絶する声が響いたのである。
村人は何事だろうと聞き耳を立てていた。
ジェクター・ブルーは座っていたソファから立ち上がると、娘をたしなめた。
「こらっ! チェルシィ! おまえ、エルドラさんが居る前で! ちゃんと話ぐらい聞くもんだ!」
ジェクターの娘チェルシィも負けじと立ち上がって拒絶を繰り返す。
「だって嫌なものは嫌なの! 誰がなんと言おうと私は絶対に嫌っ!!!!」
ジェクターは顔を真っ赤にして怒った。
二人の言い合いが続く。
それを上座に座っていた若い紳士が制止して言った。
「チッチッ、ブルーさん。娘さんが驚かれるのも無理はありませんよ……。ここはひとつこの私にお任せください」
若い男はソファから立ち上がると、キザったらしく一回転してチェルシィに言った。
「ヘロー! チェルシィ。改めて自己紹介させてくれ。ハッハー! 僕は高級貴族のエルドラ・ド・ホーク。あのホーク家の一人息子だよ。ハッハー!」
どうだ、と言わんばかりの高笑いを、チェルシィは微動だにせず眺めている。『高級貴族』という肩書きに全く怯む様子もない。
エルドラは続けた。
「ノンノン、そんなに驚かなくてもいいんだよ、ベイビー! 驚いて声もでないのはわかる。でも大丈夫だよ、ベイビー! 用件を率直に言おう! チェルシィ、僕は君に一目惚れした! 君は僕のマイエンジェルだ、チェルシィ!」
エルドラは止まらない。
「その若くてピチピチした肌ァ! バランスの取れた肢体ィ! スラリと伸びたおみ足ィ! そして、誰もが羨むそのプリティフェイスゥゥゥゥゥウウウ!!!! うぅーん、プリティ! そして何よりも、僕が気に入ったのは、そのプリティ、プリティフェイスにして、その年齢からは想像もできない、圧倒的な胸のふくらみィィイイイイ!!!! うーん最高だぁー! あ、これは失礼。コホン。まぁ、それはさておき、僕は君に一目惚れしたのさ、ベイビー! オーマイエンジェル! チェルシィ! 君は将来とてつもない美人になるだろう! 僕は君を花嫁にしてやろうと思った! 君は平民だが、僕には関係ない! 僕は階級に縛られない平等な思想を持った高貴な最先端の貴族なんだ! どうだい? こんな僕に求愛されて、震えるだろう? 嬉しいだろう? うーん、わかるなぁ、ハッハー!」
チェルシィは呆れた。
この男は頭がおかしいのかもしれない、とさえ考えた。
ところが父、ジェクターはエルドラの手を取り、感激した様子で熱弁をふるいだした。
「素晴らしい! 是非、この話を成立させましょう!」
冗談ではない。
チェルシィはいい加減ウンザリしている。さっきからこの繰り返しなのである。
「バッカじゃないのぉおお!!!! だぁーかぁーらぁー!!!! 私は結婚なんかしないんだってばぁ!!!! 何度言えば伝わるの? もう、絶っっっっっ対に嫌!!!!」
「こら! チェルシィ! 言葉を慎め! 高級貴族のホークさんの前でなんだお前! 話ぐらい最後まで聞け!」
「まぁまぁお父さん、マイエンジェルのチェルシィが驚くのも無理はないですよ……」
こうしてチェルシィとジェクター、エルドラの言い合いが続いていたのであった。
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