第32話 ~ついに登場~

「はぁ……はぁ……」

 さすがに疲れた。

 私は逃げる事に夢中になり、人気の無い公園に来た。

「お、お姉様。そろそろ降ろしてください」

「ああ、そうだな」

 私はお姫様抱っこしていた鈴蘭を降ろした。

「鈴らーん!」

「葛葉!」

 葛葉が走って鈴蘭の元へ来た。

「朱火さんでしたっけ? 速いですよ! 途中で見失いそうでしたよ!」

「ゴ、ゴメンなさい」

 怒られてしまった。

「でも、ありがとうございました。おかげで鈴蘭に本当の気持ちを伝える事ができました」

「いや、いいんだ。私は鈴蘭の幸せを願っているだけだから」

「お姉様、ありがとうございました」

 鈴蘭は笑顔で礼を言ってくれた。

「うーん。これからどうするか……」

 葛葉の言う通りだ。鈴蘭を何処へ連れて行くべきか。

「私……葛葉の家に行きたい」

「!?」

 葛葉は驚いていた。まぁ、当然だろう。

「い、いいのか? 俺の家で?」

「うん。せっかく葛葉とカレカノになったし……ダメかな?」

 す、鈴蘭が甘えている!?

「い、いいぜ。母さんには何とか言っておくから」

「それがいい。紫陽花さんには私が伝えておくよ」

「だ、大丈夫でしょうか」

「お見合いには反対だったし、大丈夫だと思う。今日は私の家にいるし」

 実は今日、家に紫陽花さんが来ているのだ。家にいても自分一人なので今日は泊りに来ている。

「ありがとうございます」

「では、オレ達はこれで失礼します」

「お姉様おやすみなさい」

「おやすみー」

 そう言って私と鈴蘭、葛葉と別れた。

 紫陽花さんに電話し、切るとビリニュスがやって来た。

「はぁ……はぁ……やっと見つけました」

「遅いじゃないか」

「途中で道を間違えてしまって。そういえば鈴蘭さんと葛葉さんは?」

「帰ったぞ。鈴蘭は今日、葛葉の家に泊る」

「だ、大丈夫なのですか?」

「さっき母親の紫陽花さんに電話したらすごく喜んでいたぞ『やっと娘に彼氏ができた!』って」

「そ、そうですか。良かったですね」

「さて、私達も帰るか」


待て、ビリニュス


「朱火さん呼びました?」

「違う、私じゃない」

 だ、誰だ? 私じゃなくてビリニュスを呼んでいる?


 私だ。わからないのか。


「えっと……どちら様ですか?」


 ……まぁ、いい。そういえばお前の前で声を出すのは初めてだったからな。


 誰だ? 一体どこから話しかけている?

「あ、朱火さん! 後ろ!」

「な!?」

 振り向いてみると黒い渦のようなものが巻いていた。

 つむじ風とはまた違う。なんだか禍々しい。

 渦が巻き終わった途端、人の姿が現れた。

「はじめまして、だったな。如月椿姫(きさらぎ つばき)だ」

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