第21話 ~若宮家~
私とビリニュスは今、電車の中にいる。……メイド姿で。
「……本当に誰も見えてないよな?」
「大丈夫ですよ。僕も気付かれていないですし」
こんな人ごみの中でメイドの格好をするのは見えていなくとも恥ずかしい。
しかしメイド姿を解かないのには理由がある。
「仕方ないですよ。朱火さんがタダ乗りできる方法はこれしかありませんから」
そうなのだ。
私は産まれて初めて電車のタダ乗りをしてしまった。
まぁその方法が「普通の人から見えなくなる」なので誰にも真似できるようなものではないが。
「どの駅で降りるのですか?」
「次の駅で降りて乗換えだ」
スマホで調べたが、かなり乗換えをしなくてはいけない。
今までは家族と車で行っていたので電車で行くのは初めてだ。
はぁ……。今日一日中この格好でいなくちゃいけないのか……。
着いても鈴蘭にバレないようにする為、変身を解く事はできない。
計画を立てたのは自分だが嫌な気分だ。
だが鈴蘭を助ける為だと思い、我慢する。
……あと一時間以上電車で移動しないといけないのか。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「わぁ……お金持ちだとは聞きましたが、とっても大きい家ですね」
「そうだろ。中に入るともっと広いぞ」
鈴蘭の家に着くとビリニュスは驚いていた。
高級住宅にふさわしく、入り口は二メートルほどのオシャレな黒の鉄格子が閉まっており、そこからは芝生が広がっている。
芝生の奥には白くて高級感が漂うオシャレな家が建っている。
「門を超えて入らなければいけないのですか?」
「ああ。侵入者を防ぐ為に屋敷の入り口は一つにしているんだ」
「さすがに助走をつけてジャンプしないといけませんね。飛べても着地地点が門の上になってしまうかもしれません」
「そうだな。よし、行くぞ!」
私とビリニュスは門から二メートルほど離れて助走をしてジャンプした!
以前よりも高く飛べた!
門を超えると勢いよく着地した。
「ふ~……こんなに高くジャンプしたの初めてですよ」
「私もだ。できればこんなに高いジャンプはあまりしたくない」
超えるだけで精神力も削られているみたいだ。
「ところで、どうやって入るのですか?」
「インターホンは門のところにあるから押せない。だからドアを開けさせる」
「あの……インターホンを使えばよかったんじゃ……」
「私達の姿は見えないだろ。インターホン鳴らしてもピンポンダッシュだと思って開けてくれないぞ」
「なるほど。でも、どうやってドアを開けさせるのですか」
「来い」
私とビリニュスは玄関のドアの前まで来た。
「ビリニュスは離れていて」
「はい」
ビリニュスをドアから離れさせ、私はドアの目の前に立ち、大きく右足を上げた。
「な、何をす」
ドガアァァァァン!!
勢いよくドアを蹴った。
「な! 何で蹴ったのですか!?」
「ドアに異常が起きたらあっちから開けてくれると思って」
「だからといってあんなに勢いよく蹴ったら本当に壊れますよ!」
バン!!
「い、一体何事だ!?」
扉が勢いよく開き、雪壱さんがすごく驚いた顔で出てきた。
「開いたぞ! 早く入れ!」
「は、はい!」
私とビリニュスは家の中に入ることに成功し、そのまま鈴蘭の部屋に向かった。
部屋の前のドアをちょっと開けて中を見渡すと、誰もいなかったのでそのまま入ることにした。
部屋の中は半年前に来た時よりも女の子らしくなっている気がする。
「正に『女の子』って感じですね。僕、女の子の部屋を見るのは初めてです」
「……本当は鈴蘭の部屋へ男なんか入れたくないがな。お前は別だ」
「あ、ありがとうございます。ところで鈴蘭さんは何処にいるのでしょうか?」
「ここでずっと待っていれば来るんじゃないか?」
家にいないんじゃ探しようが無いぞ。
ガチャ
ドアが開くと暗い顔の鈴蘭が入ってきた。
「鈴蘭?」
聞えるはずがないが、つい声をかけてしまった。
鈴蘭は机の前にある椅子に座り、上を見上げた。
「……葛葉(くずは)」
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