第16話 ~鈴蘭の気持ち~
「叔母様、私の考えは変わりません。それに許婚の方はとても頭が良い方だとお父様からお聞きしました。何も心配はいりません」
お袋のアドバイスに鈴蘭はすんなりと断った。
お袋はそれから黙ってしまったので今度は私が気になった言葉を聞く事にした。
「さっき鈴蘭が言った言葉からすると、なんだか『高学歴で家柄がいいから』って理由だけで決めてるような感じがするけど?」
「お父様がお決めになさった方です。性格も良い方に違いありません」
まあ確かに、その可能性は高い。
雪壱さんは鈴蘭を溺愛している。そんな大切な一人娘に紹介する男なのだから、さぞかし立派な人だろう。
私はある質問をする為に鈴蘭の耳元に近づいてささやいた。
「本当にいいの? 鈴蘭くらいの歳になれば好きな人とかいるんじゃ……」
「……いませんよ」
な、何だ?
何となく聞いたつもりだけど少し黙って答えたぞ。今まで即答だったのに。
「何か気に障った?」
「いえ、何も……」
「……」
あの様子じゃ聞いても答えなさそうだな。
仕方が無い。ここは一旦引いておこう。
無理に聞こうとする気持ちは無い。
「……わかった。鈴蘭がそう言うなら私は応援する」
「え!」
「朱火ちゃん!?」
私が答えると紫陽花さんとお袋は驚いていた。
どうやら一緒に反対してくれるんじゃないかと思っていたらしい。
まあ、私も反対の気持ちが無くは無いが。
「朱火! アンタ鈴蘭が見ず知らずの男に嫁ぐ事に賛成なの!?」
紫陽花さんが半分怒りながら聞いてきた。
「まあまあ。鈴蘭が自分から嫁ぐって言ってるんだし、応援したいなって思って」
「私もできれば応援したいけど……なんせ雪壱が決めた事だし」
「お姉様。お義理兄様の事が信じられないのですか?」
そういえば、さっきからそんな感じのしゃべり方をしている。
お袋の言葉で改めて思った。
「……最近、雪壱は私の意見なんか聞いてくれなくなった。私が何かに反対すると『元キャバ嬢のお前に口出しをする権利があると思うか?』だって。そのキャバ嬢と結婚して愛娘を産ませたのは誰よ!」
うわ~。そんな事言われたのか。
「酷いです、お義理兄様!」
優しいお袋もさすがに怒っている。
「もしかしたら浮気しているかもしれないわね」
「「えっ!?」」
私とお袋は驚いた。
「馴れ初めだってキャバクラだったし、そもそもキャバ嬢と結婚するっていう事についても周囲からの反対は散々だったわ。結婚した後も喧嘩している時とかにキャバクラ時代の事を悪く言われる事とかあったし」
「お母様……」
どうやら鈴蘭は初めて知ったらしい。
紫陽花さんがキャバ嬢だった事は知っていた。しかしそのような職種の人と結婚することがいかに大変な事であるかは初めて知った。
それでも結婚して喧嘩はあっても幸せな家庭を築いているのだと思っていたのだが、どうやらそうでもないみたいだ。
「でも私は雪壱を愛してる。鈴蘭はもちろん、屋敷の人達もみんな大切な家族よ」
「お母様……」
「お姉様……」
「紫陽花さん……」
私は紫陽花さんの芯が強いところが好きだ。
「鈴蘭。周りが何と言おうと自分の将来は自分で決めなきゃ意味が無いの! ずっと周りの意見ばかり聞いていると、いざという時に自分で決断することができなくなってしまうわ!」
「……私はまだ12歳です。世の中の事なんて知っているようでも知らない事ばかりです。自分で決めても間違っている事が多いと思います。それに結婚となると親の意見を取り入れてこそ幸せな未来が掴めると思うんです」
「……」
そう鈴蘭は言い放つと私も含めて全員が黙り込んでしまった。
「……鈴蘭ちゃん。私と二人で話しましょう。朱火ちゃんとお姉様は少し外して貰えませんか?」
「撫子!? 話すって何を?」
「後でお話します。……主に若くして結婚する事についてです」
「……わかったわ」
お袋に言われ、紫陽花さんと私は一緒にリビングのドアを開けた。
「朱火。アンタ撫子がいくつの時に結婚したか知ってる?」
「確か高校卒業してすぐだって言ってました。19の時に私を産んでいるので」
「そうよ。未成年で結婚するって事に共感したのかもね」
「ところで正式に結婚するのって、やっぱり16になってからですか?」
「まあ、そうかもね。16の誕生日を迎えないと結婚できないから」
16といえば、ちょうど私が今年迎える年齢だ。
結婚か……。
遠い未来の話に聞えるが、私も誕生日を迎えたらできるようになるんだよなぁ……。
「はぁ……鈴蘭、本当にこのまま婚約してしまいそうな勢いだわ」
「何だか乗り気でしたね」
「本当よ! どうしてそんなに乗り気なのか聞いてみたけど、返事はさっきと一緒。何とか説得してるんだけどね……」
鈴蘭が母親の言う事を聞かないとは。
小学生が親の言う事を聞かないのは珍しい事では無い。
しかし。
「鈴蘭が紫陽花さんの言う事を聞かないなんて珍しいですね」
「そうなのよ。いつもはあの歳じゃありえないくらい素直に聞いているのに。それに……。」
「それに?」
「あの様子……何だか訳ありな様子だったわ」
「心当たりは?」
「わかってたらこんなに悩んだりしないわ」
まあそうだろう。だがいい情報を貰った。
鈴蘭が婚約に賛成している理由。これを突き止めれば紫陽花さんが納得してくれるようになるかもしれない。
それに、私が好きな男がいるか聞いたときに言葉を濁した理由もわかるかもしれない。
「紫陽花さん。外に出ていいですか?」
「何で?」
「なんとなくです」
「随分曖昧ね。まあいいわ」
紫陽花さんにそう伝えると私は玄関で靴を履き替え、外に出た。
さてと。
「ビリニュスー? どこー?」
私は今まで忘れていた執事を呼んだ。
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