ドクダミを摘んで
白地トオル
零片
茎を折られた花が、そこに横たわっていた。
自らの体が既に生を失ったことを知る彼女は、ただ自分の体が朽ちていくのを待っていた。
人生を謳歌していたあの頃、あの頃の自分を知る人物がこんな無残な姿を見たらどう思うのだろうか。敢えて謙遜を恐れずに言えば、泣きじゃくって赤目を腫らし、きっと私の顔を覗き込んで「まるで生きているみたい」と言うのだろう。
彼女にとってそうした者達から浴びる賛歌こそが生きがいだった。
だからこそ「まるで生きているみたい」、そんな恵まれた死者にかけるような言葉が欲しかった。動かぬ心臓から腕を抜き差してでも、そんな言葉が欲しかったに違いない。
だけど、それはもう叶わない。
なぜならその花から花弁がちぎられていたから。
――――――私はその花の前に一人立ち尽くし、詩的な情緒を巡らせていた。しかし、考えてみれば私にはそんな余裕もないはずなのだ。
「どうしてっ……どうして、こんなことにっ……」
私は嗚咽を漏らしながら、茎だけの花に涙を落とす。
口をついて出た言葉は部屋の中をウロウロと徘徊し、逃げ場のないことを知ってどんよりと床下に溜まっていく。
どうして?どうしてじゃない。
心の中で自問と自答が私の弱い心を少しずつ削っていく。
お前がやったんだ。花を根から積んで、茎を折り、最後に花弁をちぎったんだ。違う、私じゃない。いや、お前だ。違う。いや。違う。いやオマエダ。
私の言い逃れは「場」が全て一掃した。
誰も来るはずのない部屋、目の前に横たわる花弁をちぎられた花の姿、そして自分の手を赤く染める摘み取った跡。私の反自然的な行動が全ての犯行を証明していた。考えれば考えるほどに自分の愚かな行動が、はっきりと、鮮明に、目に映った。
「こんなはずじゃなかったんだ……」
思い返せば、事の始まりは、この花との出会いに遡る。
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