ファーレスの魔剣

白雨 蒼

序章

空が割れた日


 最初に――。

 最初にそのことに気付いたのは誰だったのだろうか。

 亀裂が走った。

 何処に? と問われると、答えに詰まる。だって、あれはその場で見た人間でなければ、到底信じることの出来ない光景だったからだ。

 それでも、それでも答えるならば、たった一つ。その場所を示す言葉がある。


 ――空に。


 そう。

 空に、亀裂が走ったのだ。

 ぴしり――と、まるで硝子が罅割れるような、空虚な響きと共に。

 誰もが――それこそその情景を見た者たちですら、自分の目を疑ったくらいだ。話として聞く人間ものにとっては、それこそ想像の埒外のような光景。だけど、それは確かにその場に起きた事象であり、現象だった。

 しかし、問題はそこではない。

 空中に。何もない空間に亀裂が走った――ああ、確かにそれは可笑しな、とびっきり常識外れおかしな話だろう。ただ、それだけで終わったのならば。

 罅割れた空。その亀裂は徐々に、しかし確実に大きくなっていった。

 少しずつ広がる亀裂。


 ぴしり……ぴしり……――ぎちり。


 音が、変わった。

 それは空が罅割れる音ではなくて。

 それは軋轢の音。

 それは世界の軋む音。

 此方と其方が擦れ合い、ぶつかり合い、存在を訴える――そういうもの

 やがて、広がった亀裂の一部が剥がれるように零れ落ちる。

 そして――











 そして、それ、、は姿を現したのだ。










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