第45話
巨木なれど枝葉は遥か上空。真っ直ぐに生えた幹のみが遮蔽物となり、処女飛行とは思えぬ程に自由自在に動ける蟲の甲冑のお陰で徐々に速度を上げながら移動が出来ている。
既に速度は体感で27ノット(※約50km/h)程出ているが、むしろこの程度の速度で飛行できている方に驚いてしまう。背中で高速駆動している薄羽のお陰だろうし、何より設計が良い。試していないが、空中で姿勢保持もできるのではないか。見た目はカブトムシだが、性能的にはトンボに近いかもしれん。
時折相見える巨大な空飛ぶムカデだとか、群れなし飛んでる羽蟻の化け物だとかは全てダ・ブーンを避けるようにして道を開けてくれる。また普通なら同じような景色ばかりで迷いそうなのもも、頭に浮かぶ俯瞰図と念話で正してくれているから本当に助かる。
だが、楽なこともそれまでであった。
(緊急事態だ。マレスティ・ブーンと貴様の連れ供とが遭遇した)
いつの間にか肩から外套の中へと移動していたダ・ブーンより念話が飛んできた。抑揚のない口調のくせして焦りの感情が伝わる。
(だが妙だ、マレスティ・ブーンが全く動いていない。それに貴様の連れ供に対し奴の眷属の蟲が密集しすぎている。細かく把握できない。これでは無事か分からん)
蟲の集まる理由とは何か。考えなくてもわかる。餌を食うか、外敵を倒すためだ。それがポノラとメイに集まっているだと。本当に緊急事態ではないか!糞!
(貴様の考えも分かるが、だからこそ妙なのだ。把握し切れない程の蟲が集まれば、例え巨大な獣でも数秒で骨も無くなる。そうすれば必然的に集まりは解消されるはずだ。しかしながら今をもってしても密集したままである。第一、人間のような極上の餌を前にしてマレスティ・ブーンが何もしないでいるとは考え難い)
人間が極上の餌か。そんな事を思いながらやけに増えてきた蟲を回避しつつ飛行する。距離を進むにつれ、俺達を回避して飛んでいた蟲達とぶつかりそうになる場面が増えてきた。先程から何かから逃げるように飛んでいやがるうになる。何なのだ。
この状況のおかしさも相まっての今の話であろう。状況を紐解け。蟲が今をもって集まったままとは、間違いなくポノラの結界の力であろう。呪詛結晶体とかいう訳の分からん物すら防御できるポノラなら可能なはずだ。それにメイも魔法使いだ。何かしらしている事であろう。ではその結界を眷属に破らせているのか。うむ、その可能性は充分高い。
だが、何か引っかかる。蠱毒の坩堝とも言えるこの森において、人間を率先して食べに向かわない理由とは何だ。そもそもなぜ人間が極上の餌となり得るのか。動かないのではなく、動けないとしたら……
「ダ・ブーンよ。仮にだ、仮に森の蟲が人間を食べたらどうなる」
(普通の人間を普通の蟲が食う分には、単なる栄養価の高い餌としかならん。しかしマレスティ・ブーンが食べた場合話は別だ。アイツは食べた生物の特徴を加えて変態する。現にアイツの
「食べた。間違いない。街道警備をしていた二人組の兵士を串刺しにして食べた」
馬鹿な。平坦であったダ・ブーンの声が確かにそう荒げた。だが間違いなく人間を食べたのだ。それも俺の目の前で。
(人間の兵士なんていつ森に入ってきた。マレスティ・ブーンめ、さては知らぬ間に索敵の能力を得たな。それだけではない。眷属の虫を使って
かなりの怒りと焦りが念話越しに伝わる。しかし言ってしまえば、
(気をつけろ。もう直ぐ遭遇するが、恐らく今マレスティ・ブーンは人間を食ったことによる変態を行なっている。何がどうなるか分からん。もしその兵士が魔法を使えた場合、奴も魔法を使ってくるかもしれん。覚悟せよ)
魔法と聞いて、俺はゼッパランドを思い出していた。あれ程の魔法使いなどそうそういないであろうが、蟲の力に魔法まで使うとなると苦戦必至だ。心してかからねば。
大木ひしめく
果たしてそこにいたのは、無数の蟲が重なり合った巨大な球体と、ヒビの入った馬鹿にデカい繭であった。
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