第11話
相変わらずポノラを背負いながら川沿いを駆け抜ける。崖沿いを流れる川の幅はそんなに広く無いが、崖側の水深はかなり深いように見える。何より流れが速い。ウネウネと弧を描くこの川の水は澄んでいるのに、ほとんどの箇所に白波がたっている。
さて、もう随分と走っているがまあ息が切れない。登っている時は結構疲れたが、肉を食ったからか活力が満ち満ちている。全速力で無いにしろこの体力は我ながら恐ろしく感じる。
ところで道は合っているのか。いや、道という道など無いのだが。獣道のような所を身体能力に任せて無理矢理通っている次第だ。まあ道が無いという事は追手もそうそうついてこれないって言う訳だ。
だが肝心のポノラは俺の背中で寝てやがる。間違いない。さっきから背中で寝息が聞こえる。はしゃぎ過ぎて疲れたのか。しかし出会って間も無い男の背中でよくもまあ寝られるものだ。
起こした方が良いのか?だが寝た子を起こすなとも言うしなあ。
……ん?川の流れる音の他に、何か違う水音がする。大きく曲がった川の流れの先からだ。ここからだと崖の陰になって見えないな。少し速度を落としながら意識を集中させる。
「……ンー。ラ、パンイノ?」
お、ポノラも起きたか。
川原では遮蔽物が少ない為、一旦茂みへと身を移す。音のする場所までもう少し。一旦ポノラを降ろし、身を屈め、忍び足で近付く。ポノラも異変を感じたのか、俺の後ろを気配を殺しついて来る。
茂みの先、枝の隙間を注視する。何かがいる。何だ。鱗?いやまさか。鱗だとしたらどれ程デカイんだ。鱗だけで拳ほどはあるんじゃないか?いや、まだ距離があるから見間違えているに違いない。
ようやくハッキリと確認できる場所まで来た。ああ、ハッキリと確認しなければ良かった。
「ロロロ、ロ、ロブロジャーラ……」
ロブロジャーラと呼ばれたそいつは、まさに化け物だった。
とにかくデカイ。造形は藍色のマムシにナマズのようなヒゲを付けたようなものだが、起こしている体だけで20mはある。尻尾まで含めると40mは優に超える。鱗なんかは本当に拳ほどはある。見間違いでは無かった。
そして太い。胴廻りは目測4m以上。顔に至ってはもっとデカイ。牛だって悠々丸呑みにできるだろう。実際何か口に咥えている。羽が舞っているから鳥か?その鳥自体かなりデカイ。体だけでも牛ぐらいありそうだ。
成る程、先程の音はあの鳥を捕まえる時にどちらかが暴れた音か。
ロブロジャーラのいる場所はいくつかの川の水が流れ込みダムのようになっている所だ。岸沿いにはそこかしこに木のトンネルが出来ており、おそらくロブロジャーラの通った跡だろう。
「ル、ポウポウ、デ、フロラウルイエ。ノリユキ、モア-ソタットイエ」
ポノラが俺の袖を引っ張る。怯えた表情だ。
確か蛇は優秀な狩人だ。夜だろうが隠れていようと獲物を探し出すと聞く。しかもマムシに似ている。おそらく毒持ちだ。
今は鳥を飲み込んでいる為にこちらに意識を向けていない。逃げるなら今だろう。
とにかくそっと今来た道を引き返す。……何だ、嫌な予感がする。寒気が凄まじい。
引き返す先を目を凝らして見る。何かいる気がする。いや、何かいる。枝葉に遮られているが間違いなくいやがる。
「ロブロジャーラ……」
ポノラが呟く。背丈の関係で俺とは視点が違うため見えたのだろう。いるのか、もう一匹。
その場でさらに屈みポノラと同じ視点にする。うん、見えた。流石にダムにいる個体よりは大分小さいが、それでも十分にデカイ。人なんて問題なく一飲みにできる大きさだ。
いくら俺でもあれに巻き付かれたらどうなるか、尻尾で払われたらどうなるか、試したくもない。
前門の蛇、後門の蛇。何だここは蛇地獄か。
さらに悪いことに、小さい方は俺達に気付いていやがる。糞。舌を出して、明らかにこちらを狙ってやがる。
「ノリユキ!コイ!コイ!」
いつの間にかポノラはダムの方に向かっていた。成る程、腹を空かせた奴に立ち向かうより、腹一杯の奴の方がこちらを見逃すかもしれない。
ポノラについて藪を抜ける。小さい方は……糞、やはり追いかけてくるか。
一方の大きい方はこちらを見てるだけで何もしてこない。喉の辺りが膨らんでいるから、先程の鳥を飲み込んだばかりなのだろう。賭けには勝てたか?
急ぎポノラを背負う。小さい方はすぐ後ろまで来ていた。岸辺を走るが、やはりまだ追ってくる。速い。馬並みに速い。足元がぬかるんでいる為に速度を出し切れない俺に対し、奴は全く問題なさそうに滑るように追いかけてくる。差が徐々に詰まる。
「アイーーーーーー!」
突然ポノラが叫んだ。それと共に影ができた。うん。影?
ズドンという轟音と共に大地が揺れ、目の前に突如壁が出現した。いや壁じゃない、尻尾か!
「捕まってろよ!」
ええいままよ!尻尾なんぞ跳び越せばいい!
両足に力を入れ、思いっきり跳ぶ。だがぬかるみのせいで力がうまく伝わらない。届くか?いや届かせる。
「うおおおおおぉぉぉぉぉおおお!」
叫びに呼応し手の甲の紋様が光る。力が溢れる!
忍者刀を尻尾に突き立て、それを支点に跳躍を加速させる。武器は惜しいが、そうも言ってられない。
ギリギリ届いた。なんとか尻尾の上に立つことができた。チラリと後ろを見れば小さい方は後ずさって……後ずさって?
気付いた時には空中に投げ飛ばされていた。大きい方が思い切り尻尾を振ったのだ。そりゃそうだ。いきなり刺されたのだ。ビックリしたのだろう。
いや、そんなこと考えてる場合ではない。着地を……
地面がない。
ダムの流れの出口は滝になっていた。そう、滝の上に放り出されたのだ。
「アイーーーーーー!」
「うわあああぁぁぁぁあ!」
高い!やばい!まずい!
ここで、ここで死ぬのか!?嫌だ、死にたくない。死なせたくない!なんとか、なんとかしなければ!
なんとか……
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