第3話

「使い魔とは何だ。面妖な術を使いやがって。俺は捕虜として捕まった訳ではないのか」


「捕虜だと。何を言っている。妾は先程から繰り返し申していたではないか。『ラ、クルナラクルク-サヘイノ?あなたの隷属用の名前はなんですか』と。お主はそれで名乗ったのでは無いか。ええと、大日本帝国海軍神風特別突撃隊曹長の神童典行?随分と長い名前ね。名乗ったらにはお主は今より妾の使い魔ぞ」


何を言っているのだこの女は。知らない言葉で話しかけてきて、一応名乗ったら使い魔になるだと。これではまるっきり詐欺ではないか。そもそも所属と階級と名前が混じっていやがる。こんな適当な事でも名前とされるのか。

この女、こちらが唖然としていると、ニヤついた口角を更に上げやがった。何とはしたない女だ。


「さあ、さあ、使い魔大日本帝国海軍神風特別突撃隊曹長の神童典行よ。最初の命令を下す。隷属の印として妾の靴にキスをするのだ」


……は?


この女、俺に命令をするだと。隷属の印とは、つまり使い魔とは奴隷の事か。靴にキス。キスとは何か、接吻の事か。靴にだと。


「貴様!俺を愚弄する気か!俺に命令を下せるのは上官、ひいては帝都におはす天皇陛下のみであるぞ!この国がブリテンかメリケンかは知らんが帝国軍人に向かって靴を舐めろとはどういう了見だ!国際法も守らん屑共よ、剣はどこだ!この女、この場で叩き斬ってくれるわ!」


怒髪天とはこの事よ。怒りに呼応するかの如く右手の甲の光が強くなる。

ギロリと周りを睨み剣を探す。すると周りの甲冑共が一斉に槍の先をこちらに向ける。

おお、こいつらもこの女に怒っていた訳だな。全員己が槍で殺してくれと言わんばかりだ。槍の先を向けるとは不躾だが、どれ、どれかを借りてこの女を一思いに……


「ひ、ひぃ!も、者共!捕えよ!この者を早う捕えよ!」


どうやら俺は勘違いしていたらしい。周りの甲冑共は俺を包囲していた様だ。完全に女にしか敵意を向けていなかった為、あっさりと組み伏せられてしまった訳だ。

糞、糞糞糞。しかし糞。あの女、隙を見て必ず殺す……程ではないかもしれんが思い知らせてやる。

辛うじて動く首を女に向け、怨みのこもった視線を向ける。ふん、あの女目を合わせるとビクッとしやがる。


「なんと野蛮な。しかし妾に触れるという名誉を怒るとは、こ奴は何なのだ。折角苦労して異世界より呼び寄せたのに……ええい、とにかく下牢に入れよ。隷属の印の儀はまた後日としよう。父上もそれで良いな」


「ポウ、ポウ、デ-ロウクイエ。マナル、コウシ-イエハイイエ。ポウ、クルナラクルク-ジュマン、ロウク、ヒンラ、ドーメンイエ」


ずっと置物の様に動かなかった短躯肥満がようやく口を開けた。しかし何を言っているのかてんで分からん。どうやらあの女と契約を結ぶ事により、取り敢えずあの女の言葉だけはわかる仕掛けの様だ。


幸い、殺されない様だ。何分分からない事が多すぎる。一旦その地下牢にでも入って頭を冷やそう。

上官殿も申しておった。戦場では冷静さが命を繋ぐと。情報を制せよと。とにかく、何らかの因果で命を繋いだのだ。死ぬはずだったのにだ。今度は死ぬ目に会いたくない。あんな強い思いはもう嫌だ。


しかし、女の言葉が気になる。異世界だと。連合国軍の隠語か何かか、果たして……。

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