第3話眞王様村に着く。

はあぁぁぁ。眠いぃぃぃ。怠いぃぃぃ。


俺は深い溜め息を吐きながら、先導しているゴブリン達の後を付いてこの広い草原の中をとぼとぼ歩いていた。


かれこれこの世界に転移してから1時間以上はたっている。


本当何なんだよ一体。地球にいたときは真夜中の0時ですよ?

なのに何で転移したら太陽が燦々と輝く日中な訳?普通そこは夜で良くね?


俺は自慢の電波ソーラーの腕時計で時間を確認した。この世界で電波があるかは不明だが、時間は午後1時30分を示していた。


ガァーッ!!!マジ眠い!つーかーれーたー。


布団の中に入りたーい。てか家に帰りたーい。


はいっ!無理っ!


独り自問自答終了。


「おーい。後どの位で着くんだ~?」


俺は先頭を歩いているゴブリンに話し掛けた。


「もう少々お待ち下さい魔王様。もう暫くで村が見えて来ますから。」


「本当かよ~?全然そんな感じ無さそうだけど?道にすら出ないじゃん?」


「魔王様!街道なんかに出て人間にでも遭遇したらどうするんですか?安全の為に態々草原の中を歩いているのですよ。魔王様のお力を持ってすればそんな必要も無いのでしょうけど。」


「いえ!このままでお願いします!」


この世界に転移してイキナリ物騒な事に巻き込まれるのは御免だ!とは言ってもこんな異様な集団が草原の中を歩いても目立つけどな。


それにしても人間て眠気と疲労感で口数減るよな~。俺も同様だけど。


暫く会話も無くただ黙々と歩いていると先導していたゴブリンが、此方に聞こえる様に何かを叫んでいた。


「魔王様~!村が見えて来ました~!」


「マジか!?でかしたっ!やっと休める~!」


俺は今までの眠気は何処へやら?と言わんばかりに落ちかけた瞼を見開き村へと向かって一目散に駆けていった。その様子を見たゴブリン達は慌てて俺の後を追い掛けていった。


はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。


村へと走って息を切らせながらも着いた俺は村を見て呆然とした。


ゴブリン達は確かに言っていた。村は前の大戦で戦火に巻き込まれたと。


村は所々家などが焼け落ちていて微かに焦げ臭さが残っていた。


村人は?何処かに避難したのか?俺はゴブリン達を待たずに村の中を散策した。


それにしてもひでぇなぁ。あちこち家が焼けて焦げ臭いし、空き家となった家の中等は荒らされた形跡があり、中はぐちゃぐちゃだった。


俺的に唯一救いだった事は今の所死体を見ていないという事だった。


「魔王様~!先に行ってしまわれては困ります。何かあってからでは遅いのですから!探索は我等にお任せ下さい。」


ゴブリンに叱られた。


「お、おぉ。すまん。じゃあ取り合えず飲み水と何処か休める家を探して来てくれ。」


「畏まりました。少々お待ち下さい。」


ゴブリン達はそう言って俺の傍に2体程残し後は散々になって村の中の探索を始めた。


俺は適当な所に腰掛け一息ついた。

俺の傍にいる2体のゴブリンは辺りを警戒している。


う~ん。見た目どっちが雄でどっちが雌か分からんな。皆同じに見えるし。


「なぁ?お前ら雄雌どっちだ?それともこの場合男女って言った方が良いのかな?」


「どちらでお呼び下さっても構いません。因みに魔王様から右に見て私が雄で左が雌でございます。」


「ふ~ん。そっか。(全く分からねー!)」


「所で何でお前らが俺の護衛に選ばれたんだ?普通雄2人じゃね?何か理由でもあるの?ゴブリン基準みたいな?」


「いえ特には。ただ我等2人が種族の代表として魔王様のお側をお守りしているだけです。」


「うん?何か今、さらりと凄い事言ってない?何?君達ゴブリンって種族の代表なの?」


「はい。左様でございます。」


「まーじーでー!?何俺!?1発目の召喚でゴブリンの代表とか召喚しちゃった訳?一体どんなヒキだよっ!怖っ!」


スゲーな!召喚。毎回種族の代表とか召喚しちゃうかな?


「ゴブリンの代表かぁ。流石においっ!とかお前っ!とか呼ぶ訳にはいきませんよね?因みに君達に名前があるんですか?」


ってつい代表って言われて敬語で話しちゃったよ。俺、小心者だ~権力に弱っ!


「魔王様、我等に名前等はありません。それと我等は魔王様の僕なのですから、その様な畏まった言い方は不要でございます。」


「ですよね~。でも名前が無いとこの先呼ぶ時に色々と不便だよな~。良しっ!じゃあ俺が呼びやすい様にお前達2人に名前を付けよう!うん!そうしよう!」


「そ、それは誠でございますか!?魔王様直々に我等に名前をお与え下さるのですか!?」


「う、うん。(何?この食い付き方。)」


「魔王様から直に名前を戴けるとは我等種族の名誉の極みでございます。」


どうしよう。ゴブリンめっちゃ喜んでるんだけど。ただ名前決めるだけなのに、ちょっと引くわー。これでやっぱやーめたって言ったら、きっとこのゴブリン2人はショック死しちゃう勢いだよ。


「そんなに名前を付けるだけで喜んで貰えるなら俺も付け甲斐があるってもんだな!良しっ!決めたっ!雄のお前は今日から【タロウ】で、雌のお前は今日から【ハナコ】だ!」


うん。我ながら安直な名前を付けてやったぜ!だってしょうがないじゃん!浮かばなかったんだから!眠すぎて思考回路はショート寸前ですよ?場合によっては月に代わってお仕置きされちゃうレベルですよ?


俺はゴブリン2人に【タロウ】【ハナコ】と名前を付けた瞬間、途端に体の虚脱感に襲われた。


「魔王様有り難き幸せ。我等2人は魔王様に終生の忠誠を誓いまする。」


「あ~良かったね~それよりも急に怠さが増したんだけど、これってどういう事?」


「それは魔王様自らが魔王様のマナを用いて我等2人に真名をお与え下さったからでございます。これより我等2人は魔王様の眷属となりました。」


「マナ?何それ?」


「はい。マナとは所謂【命】でございます。マナを全て消費すると死にます。」


「へーそうなんだー。っておいっ!何か?俺は自分の【命】を削ってお前らに名前を付けたって事か!?」


「はい。簡単に要約するとそんな感じです。」


「おいぃぃ!そういう大事な事は付ける前に言ってくれーーーっ!!!」


俺の叫びは村全体にエコーとなって響き渡った。


拝啓。

父上様母上様。不肖な息子はこの世界に来て、2時間程で自分の命を削りました。人生というなの険しい山で早速遭難しました。

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