第16話  心変わり

 哀來もシャワーを浴び終わり、さっきと同じピンクのイブニングドレスを着て出てきた。

「ドレス着替えないんですか?」

「いえ、これからわたくしの部屋に行って着替えに行きたいのですが」

「いいですよ。扉の前で待っていますから」

 俺はスマホを持って哀來と一緒に哀來の部屋にかった。

 部屋の前に着くと哀來だけ入って俺は約束通り外で待っていた。

 しばらくするとちょっと意外な人物がやって来た。

「……綾峰さん」

「哀來ちゃんはその部屋の中にいるのか?」

「はい。哀來さんに何か用ですか?」

「用も何も義理の父親になる方が狙撃されたんだぞ! 婚約者の僕が駆けつけてくるのは当然だろ!」

 そうでした。

「失礼しました。哀來さんは今着替えているので入ることはできません」

「どうして着替えているんだ?」

 そこまで聞くのか。

「さっきシャワーを浴びたので」

『小夜様? 誰かとお話なさっているのですか?』

 ドアの向こうから哀來の声が聞えた。

「哀來ちゃん! 僕だ。針斗だ!」

 ドアの向こうに聞えるようにしている為か声が大きい。

 するといきなりドアが開き、赤いイブニングドレス姿の哀來が現れた。

「針斗様! もしかしてお父様の事を聞いてこちらにいらっしゃったのですか? わざわざありがとうございます」

「いいんだ。義理父さんのことは本当に恐ろしい事件だと思ったよ」

「はい。あまりにもショックです」

「このままでは燕家は危険だ。君の命が狙われるかもしれない。そこでさっき考えたんだ」

 どうするつもりだ?


「来月までに式を挙げようと思う」


『ええぇ!!』

 いきなりかよ!

「そんな……急に言われても困ります」

 さすがに哀來も困惑している。

「大学卒業まで待つつもりだったがこんな事が起こってしまった。哀來は誰にも殺させはしない。夫の僕が守る!」

「気持ちは嬉しいですが……間に合うのですか?」

「任せてくれ! 最高の式を用意するよ! ところで今日は冷たくないね」

「あの時は申し訳ありませんでした。わがままなわたくしをお許しください」

「い、いや、いいんだ。ところで君は僕と結婚する気があるという事なのかい?」

「はい」

「ええっ! 君はそこの家庭教師が好きじゃなかったのかい?」

「今でも小夜様は大好きです」

 ドキッとした。

 今まで何度か言われたような言葉なのに、すごく胸に刺さる。いい意味で。

「ですがさっきほど振られてしまいました。ですから針斗様と結婚します」

 っ!

 歯を食いしばるような思いだ!

 なんでだよ! これで復讐成功だろ!

「本当かい!? 嬉しいな! でも哀來ちゃんって僕の事好き?」

「今はよく知りませんが、これから知って好きになります。なんせ夫婦になるのですから」

「そうこなくっちゃ!」

 会話がとても弾んでいる。シャワーを浴びている時までの俺にとっては幸せそうなカップルに見えただろう。

 しかし今の俺には別の感情が生まれていた。

「そうだ! 結婚式では青龍先生にピアノを弾いてもらいたいんだけどいいかな?」

「とてもいい提案です! 小夜様お願いします!」

 哀來に頭を下げられた。

 本当は断りたいが仕えているような身なので断ると後が面倒だ。

「わかりました。そのような形でお祝いできるのなら」

「ありがとうございます!」

「青龍先生。これからそれについてのお話をしたいので応接室に来てもらいたいんだけどいいかな?」

「はい?」

 応接室? それって普通、客は案内する側じゃなくてされる側なんじゃ……。

「ちょっと2人で話したいことがあるんだ」

「えっ!……でも哀來さんが1人に……」

「大丈夫です。柏野に連絡してわたくしの部屋の前にボディーガードを配備しますから」

「そうだね。ささ、先生。行きましょう」

 そう言われて俺は綾峰さんに連れて行かれた。

 応接室は一階の玄関の近くにあり、入ってみると十人くらい入れるほど広かった。

 俺は綾峰さんに言われてテーブル越しに向かい合うようにソファに座らされた。

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