第11話 母からのメール

 自室に戻って壁掛け時計をみると十時だったので風呂に入ることにした。

 この自室は風呂場付きという贅沢な部屋なのだ。

 風呂場に行こうとしたらスマホが鳴り出した。この音はメールの受信音だ。

 開くとお袋からのメールだった。

『連絡くらい入れなさい! あれから二週間ずっと連絡入れないから心配だったのよ! ピアノの練習中、アルトは一小節ずつ、私は一音ずつ弾くたびに心配しました! これからはちゃんと連絡を入れなさい! 必ずメールで。電話は聞かれるとマズイから。無事で帰って来る事を二人で祈っています』

 怒りまくりのメールだった。

 うん、これは俺が悪いな。言い訳させてもらうと、忙しかったんだよ。先生って。

 俺はすぐに返事を書いた。

『連絡を入れなかったのは謝る。色々忙しかったんだ。これからは連絡を入れるようにする。無事だからピアノの練習は集中してやってくれ』

 送信ボタンを押し、スマホを洗面所に置いて風呂場へ向かった。また返事が返ってきたらすぐに返信できるようにするためだ。

 服を脱いで風呂に入り、頭と体を洗っているときにずっと考えていることがあった。

 親父も復讐の為に燕家に潜入した。

 仕返しではなく親友が殺された事件の真相を探るため。

 しかし殺されてしまった。

 十七年間も追っていた真実を知ってしまったから。

「親父……そこまでして知りたかったのか?」

 天井を見上げて聞いてみた。

 もちろん返事は無い。

 何やってんだろうな、俺。

 ピリリリリッ

 そんな事を考えていたらメール受信音が流れてきた。

 風呂場から出て洗面所に掛けてあるタオルで手を拭いてスマホを手に取った。

 調べてみるとお袋からだった。さっきの返信だろう。

『練習はこれからはちゃんと集中してやるわ。それから、お父さんの秘書の架谷崎(かやざき)さんが「小夜君。事件のことについて知りたいの? なら今度事務所に来て」って言っていたわ。聞きに行く?」

 もちろんだ。

 俺はメールに『是非聞きたい。連絡してくれ』と返信した。

 架谷崎さんは27歳の『エリート美人秘書』と呼ばれている女性だ。何度か会っているので信用できる人だ。

 計画は狂ったが俺の復讐は少まだ始まったばかりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る