第7話 変人現る

「面白かったですね。最後に主人公の願いが叶って嬉しさのあまり上に舞い上がるのには感動して私の心も舞い上がってしまいました」

「私もです。この劇団にはいつも感動させられます」

「先生は何か印象に残っているシーンはありましたか?」

「はい。今まで真実だと思っていた事が実は違っていた事が判明したシーンです。しかしそれで主人公達がハッピーエンドになったので逆に良かったんじゃないかなって思いましたね」

「わたくしもです!」

 ミュージカルが終わり、俺達は劇場の外に出て立ち話をしていた。

「練習している曲のイメージは掴めましたか?」

「はい! これで私も主人公になりきって歌うことができます!」

「楽しみにしていますよ」

「はい! 忘れないうちに帰ったら自分の部屋で練習します!」

 相当気に入ったみたいだな。かなり張り切っている。

「では、そろそろ帰りましょうか」

「はい」

 

 ぼ~くの~婚約者~。


「ん?」

「誰か歌っていますね。でもこのような歌はありませんでしたよ」


 そのお~とこはだ~れだい~?


「隣の劇場で公演している歌ですか?」

 哀來に言われ俺は電灯にぶら下がっている広告を見て確認した。

「いや、公演している作品は全部俺が前に観たものですが、あんなは歌ありませんでしたよ」

「じゃあ何でしょうね? あの歌」


 答え~てくれ~。


「オリジナルじゃないですか? ミュージカル観た後に自分の気持ちを歌にして伝えたい人っているんですよ」

「そうなのですか? わからなくはありませんが」


 聞こえ~ないのか~い~?


「あのように歌っていれば婚約者も聞えていると思いますが」

「恥ずかしいのであえて無視しているのでしょう。わたくしでもあのような事されたら婚約者でも知らないふりをして帰りますよ」


 帰らない~でくれ~哀~來~。


「な!」

 哀來!?

「わ、わたくし!? そんな……婚約者なんてわたくし知りませんわ!」

「違うアイラさんですよ。このまま帰りましょう」


 そこにいるのはわか~っている~。


 ふりむ~いて~くれ~。


 燕~哀~來~。


「やっぱりわたくしですわ! 一体誰が」

「振り向かないでください! 早く帰りましょう!」

 哀來の婚約者に会うのはいいがあんな状態で関わるのは嫌だ。周りから同類と思われそうだ。

 階段を走ると危ないので早歩きでこの場を立ち去った。

 しばらく歩いていると歌が聞えなくなった。

「聞えなくなりましたね」

「全く! 誰なのですかあの人は! わたくしの事を婚約者だなんて!」

 さすがに哀來はご立腹だ。

「柏野さんに聞けばわかるじゃありませんか?」

「そうですね。聞いてみます」

 哀來はバックからスマホを取り出そうとした。

 ピリリリリリリリリリリリリ

 取り出す前に哀來のスマホが鳴り出した。哀來は急いでスマホを取り出した。

「丁度良かった。柏野からだわ。もしもし」

 柏野さんから?

「……わかったわ。先生に代わって欲しいそうです」

「わかりました」

 スマホを手渡されると耳元に近づけた。

「もしもし。代わりました」

「先生! ミュージカルが終わった後、何かありましたか?」

「ありましたよ。歌っている人がいるなと思ったら歌いながら哀來さんの婚約者だって言っていたんですよ。知らないふりをして逃げ切りましたけど」

「そうでしたか……」

「何か知ってるんですか!」

「はい。詳しくは屋敷に帰ってから説明します。すみません」

 通話が切れた。

「柏野は何か知っているのですか!?」

「そうみたいです。帰ってから詳しく話すみたいです」

「一体……何が起こっているというの?」

 まさか昨日頼まれた事と関係があるのか?

 俺達は謎を抱えたまま電車に乗って燕家へ帰って行った。

 しかし……哀來の婚約者の頭の中はどうかしてるんじゃないか?

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