第三話・「人生ソロプレイをするために異世界から来たわけじゃないんだけど?!」

身近な兄弟姉妹(きょうだい)(になった人たち)から疑われまくっていることなど知る由もないマキナは今・・・・・・


        超打ちひしがれていた。



人通りの少ない廊下の端っこで三角座りをするという‘ザ・落ち込んでますオーラ’を放つメンドクサイ子に、ルーレは話しかける。このメイド、実に健気である。


「えっと、その、あんまり気に病まない方がよろしいかと・・・。王城の人たちに避けられるのはいつものことなので・・・」


微妙に毒を吐いているようなルーレの言葉だったが、つまりはそういうことだった。

貴族らしき人々はいるのだが、マキナを見るとそそくさとその場を離れてしまうのである。

それどころか・・・


「いくらなんでもメイドさんとか執事さんとかにすら避けられるってのはどういうことなんだよ・・・。人望なさすぎだろマキナさんよ」


一応マキナが話しかけることに成功した人たちは、しっかりとした礼節を持って接しては来ていた。

少なくともどこかのピンク色の妹(仮)よりは。

しかし彼ら彼女らは、マキナに話しかけられるとものっすごく驚いた顔をし、少し経つとそわそわしはじめ、話の切れ目を見計らって逃げるようにして去ってしまうのだ。


始めは「こうなったら足が折れるまで歩き回ってまともにしゃべれるやつ探してやる!!!」

と言ってルーレを半泣きにさせていたのだが、15人ほど話しかけたあたりでマキナの心が先に折れた。


(普段話さないマキナに話しかけられて驚くのは分かる。けどなんで皆逃げるんだよ・・・っ!やっぱり服装かなにかがおかしいのか?)


少し前、シャルから逃げてルーレと着替え室に行ったのだがそこからはそこからで修羅場だった。

ルーレが「ご主人様の御着替えを致します!」といって聞かなくなったのだ。

自分と同じくらいの年であろうメイド服の女の子に「ばんざいしてくださいね」などと言われて、正気を保てるほどマキナは聖人ではなかったため追い出そうとしたのだが、なぜかルーレもルーレで必死だった。

言い合いの中で分かったことによると、‘メイドとしてこのくらいはやらなければいけないと教わっている’‘メイド失格になったらもう仕事のツテがないから役に立つところを見せたい’

まぁそんなところだった。実に生々しい話である。

メイドといっても仕事だし大変なんだな・・・と思いつつ、ルーレを何とかなだめ部屋から追い出したのだが、服のセンスなど無いマキナは無数にある服の中から適当に選び出すほか無かった。

そういうわけで自分の服装が正しいのか自信がなかったのである。

もうやめにして騎士たちに会いに行くか・・・と思いつつ、ルーレの慰めにならない慰めを聞いていると


「あのぉ・・・先ほどはすみませんでした」


赤い目が特徴的な橙色の髪をしたメイドさんがこちらをうかがうように見ていた。


「えーっと・・・フィリア、だっけ?」


先ほど話しかけてすぐに去ってしまったメイドの一人だった。


「!そう、ですがどうして私なんかの名前をお知りになっていたんでしょう?」

「ああ、ルーレに教えてもらってね」

「なるほど・・・流石はルーレメイド長。まさか新入りの私まで把握していらっしゃったとは」


・・・・・・・・・・・・・・・メイド長?え?あの、ルーレが?


「いえ、管理することくらいしか私にはできないですから」

「ルーレ、メイド長っていうのは何?」

「はい、メイド長というのはこの王宮にいる約300のメイドをまとめている者が就く役職でして、今のメイド長は私が、執事長はサイレンさんが、総括はミューさんが就いてらっしゃいます」


・・・そういえば色々なことをルーレに聞き倒しているがこれまでに言いよどんだことはなかった。

もしかして、もしかするとルーレは・・・


「・・・もしかしてルーレって頭いい?」

「ふぇっ?!そ、そんなことは・・・」


いつものような謙遜だが今回はいつもと違いフィリアというメイドがもう一人いた。


「はい!そうですよ、ルーレさんはメイド学校を首席で卒業されてすぐに王宮勤めになったすごい方ですから!」

「天性のメイドなのかもな」

「そ、そんなこと・・・!それよりも、フィリアさんはどうしたんですか?」


赤面しながら話題を変えるルーレに、はっとしたように真面目になるフィリア。


「その、派閥分けのせいでほとんどマキナ皇太子とお話しすることができず、申し訳ないなと思いまして・・・」

「派閥分け?」

「はい。私がお仕えしているヴィレッジ様は・・・その・・・次期国王を第二王子のヘルザノア様にすべきだと常々言っておりまして・・・。今では支持者が2分されていてそこに派閥間の争いがあるのです。」


うっわーめんどくせぇ話キター。と思いつつも、ガチガチの民主主義国家で生きてきたマキナとしては支持者が多い方が国王にでもなればいいとも思う。

(でもその辺は慣習とかがややこしかったりするからな・・・。ルーレはどう考えて、)

そこまで考え、ルーレのほうを見ると、彼女は今まで見たことがない表情をしていた。

先ほどまで赤面して慌てていた女の子と同一人物だと一瞬気が付かないほどに。


「・・・・・・・・・・・・うん、私は誰が国王になっても構わないさ。それよりフィリアは大丈夫なのか?私にそんな忠告までして」

「大丈夫・・・ではないかもしれないですけど、悪い御方には見えなかったので、つい・・・。あ、すみません、集会があるのでもういかないといけなくて・・・!」


ああ、遅れるなよーと、お辞儀をして走り出すフィリアに声をかけ、またルーレのほうを見ると。


「どうしました、ご主人様?」


今日半日行動を共にした女の子がそこにいた。


「・・・ああ、今度は騎士たちに会いたくてね。作戦のことを聞いてみたいんだ。どこにいるとか見当つく?」

「えーっと、確かですね・・・。この時間は第二訓練所で訓練中だったと思います」

「そこまで覚えてるのかよ?!人は見かけによらないんだな」

「う、うう・・・ご主人様ひどいですぅ・・・」

「でも訓練中に邪魔するのはな。ルーレ、ちょっとアポ・・・行く約束だけ取り付けてきてくれない?俺はそこの中庭で日光浴でもしながら待ってるからさ」

「ふふっ、はい。了解しました」


さて、一人になったことだし太陽のもと寝そべるか、曇ってて太陽出てないけど。

そう思い転がりつつも、先ほどのルーレの眼が脳裏から離れない。

あれは・・・怒りを通り越した者の眼だった。

憤怒、失望、そして殺意。そのすべてがブレンドされた暗い光を湛えていた。

今までの人生でそんなものを見たことがないはずのマキナでさえ、直感してしまうほどに。


(一体何が琴線に触れたんだ・・・・?考えられるとしたら、狂気に落ちるほどのマキナへの盲信か・・・それともヴィレッジとかいうのに問題があるのか・・・?

だがマキナを盲信していた場合、精神が別人だと知った時点で、何らかの、手を、打つ、は・・・・・・ず・・・・・・・・・)


そこでようやく気が付いた。

明らかに睡魔とは違う何かに、意識をひっぱられ、いやそんな生易しいものではない。

精神を魂を心をすべてを鷲掴みにされ体から引きちぎられ






マキナの精神は暗い底に沈んでいった。

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