トークアプリでつなぐ世界

舘伝斗

第0章 始まりの音

0-1 プロローグ

2016年

世界は情報に溢れ、お互い顔も知らない人との連絡も可能な世の中

そんな世の中を支えるインターネット

更に発展したアプリケーション

その中にはトークアプリという物がある

有名な物から規模の小さいトークアプリまで探せばごまんとある

そんな小規模のその他大勢の中にPentagonというものがあった

Pentagonはどこにでもいる大学生が作り上げたトークアプリで従来の大規模トークアプリの機能に思いつく限りの機能を追加してしまったため、製作者以外はどこのボタンにどの機能があるかわからないようになるという混沌としたものだった

そんな使いにくいアプリを利用する人はおらず、全世界でたったの5人

つまり製作者のみが使用している状態だった











チローン


よくある機械音と共に俺のスマホの画面が明るくなる。

時刻はまだ朝の9時。

今日は大学の講義も無く一日寝て過ごすつもりであったのだが俺は起きざるを得なかった。

何故なら今の機械音は俺たちが作ったPentagonの新着メッセージの通知の音でありこのPentagonを利用しているのもまた俺たち5人だけだからだ。

このスマホにも某有名トークアプリがインストールされているにも関わらず態々Pentagonを使うということは余程のことなのだろう。


俺は布団の温もりが逃げないよう片手を精一杯伸ばしベットの横の棚においてあるスマホを取る。






タクヤ

< 今すぐ全員ゼミ室に集合ー。一番遅いやつは昼飯おごりなー AM9:12



ユウスケ

< 了かーい!!! AM9:12



リョウヘイ

< これから講義・・・(−_−;) AM9:13



タクヤ

< どうせあのハゲの講義だろ?ふけちまおうぜー AM9:13



リョウヘイ

< そうだな!講義よりそっちの方が面白いことしそうだしな( ̄ー ̄) AM9:13



タクヤ

< リョウヘイの経済学終了のお知らせーwww AM9:13



リョウヘイ

< 勝手に終了するなし(`_´) AM9:13



ユウスケ

< それよりコウジとジンは???まだ寝てるの??? AM9:13



タクヤ

< やっぱ既読の表示必要だなー AM9:13



コウジ

< 俺まだ寝起きなんだけど行かなきゃダメ? AM9:14



タクヤ

< ほほぅ、では君はテューティ・マ・ヴィ初回限定版の初プレイに立ち会わなくて良いんだねー? AM9:14


コウジ

< あ、速攻行くわ! AM9:14

タクヤ

< ジンは起きたら速攻来いよー AM9:18








テューティ・マ・ヴィ

通称TMVは世界初の4Dゲームであり専用の機械をプレイヤーの正面と左右に置くと機械から映像が照射されホログラムのようなものが生じその中でプレイヤーは360度ゲームの世界を体感できるというものだ

これの初回限定版ともなると普通は入手困難なはずなのだがタクヤは何と6単位も犠牲にしてこれの予約に成功したのだ。






これは何としてでも行かなければと俺は温もりの残った布団を蹴り飛ばし過去最速で支度を済ませる。

待ってろよ!TMV

すぐに行くからな!

俺はそう宣言して自転車を力一杯漕ぐ。






チローン



タクヤ

< あ、コウジが一番遅いからみんなの昼飯よろしくー AM9:20






俺は静かに進行方向をコンビニへと変更した。








俺がゼミ室に着くとそこには既に他の4人も揃っていた。

返事がなかったジンまでも。


「おい、これ絶対出来レースだろ!」


「何を言っているんだね?出来レースなわけないだろ?偶々みんなが俺より先にゼミ室に居ただけだよ?」


「そ、れ、を、出来レースっていうんだよ!」


俺の言葉に小馬鹿にしたような態度で答える扉の正面の椅子に座るマッチョな男、狼谷かみや拓也たくや

冬でも室内ではタンクトップ一枚という馬鹿野郎。

このゼミ室、というかPentagonの制作における発案者だ。

まぁ本当はただのお調子者でPentagonも思いつきなのだが何も言うまい。


序でに、タクヤの左前に座るのは法螺田ほらだ悠介ゆうすけ

身長が低いことをコンプレックスに抱える天然君だ。

ショタっ気があるから女子受けは良いのだが何分人見知りなのが災いし浮いた話は聞かない。


その正面に座るのが絶賛講義をサボっている宝座ほうざ亮平りょうへい

こいつはなかなかのイケメンで女子受けも良くユウスケのように人見知りでもないのだがどうも好みの子が居ないらしい。

余裕か、この野郎っ!


で、リョウヘイの左に座っているのが唯野ただのじん

こいつは、うん、特に特徴がない。

しいていうなら、馬鹿だ。

再試験常習者である。

でも何故か女の影が消えたことが無く別れても3日としないうちに次の子とつきあっている。

リア充氏ねっ!


最後にその正面に座る俺、八木やぎ光司こうじ

ジンと同じく特徴がないがジンと違い彼女も居ない。

だがジンと成績は真逆だ。

隙がない。と言っても体育が得意なタクヤには体育で劣るし、数学が得意なユウスケには数学で劣る、物理が得意なリョウヘイには物理で劣る。

所謂突出したものがない器用貧乏だ。

まぁそれぞれ別の科目では全部勝ってるけどね!



それはさておき、俺は空いているジンの正面に座る。

それを確認するとタクヤがゴソゴソと足元の紙袋に手を延ばした。


「待たせたな、野郎ども!これが、お待ちかね、TMVだぁー!」


ドドンとタクヤは紙袋からソフトを取り出す。


「「「「おぉぉー」」」」


俺たち4人はタクヤが取り出したソフトのパッケージに目を奪われる。


と、飛び出して見えるだと!?


そう、パッケージのイラストが飛び出して見えていた。

それも、これまでのちょっと浮いているだけのちゃっちいものではなく本当に掴めそうなほど浮いていた。


「これが3Dソフト、TMV。」


誰かがそんな言葉をつぶやく。


「さぁて、お前らの気持ちは痛いほど分かる。だが、パッケージより中身、気にならねぇか?」


「気になる!」


「よく言った!では早速本体のセッティングだ!」


「「「「おぉぉぉー!」」」」


俺たちの行動は早かった。

セッティングの世界大会があれば優勝を狙えるほどに。

そして5分後。


「よぉっし、完成だ!みんな、グラスディスプレイは持ったな!」


タクヤの声に4人は手に持つスカウターのような片耳掛けの機械を装着する。


これはこのソフトの醍醐味である世界に入った気分をより味わってもらえるようにと開発されたコントローラーだ。

これも一つ、うん万円するのだがタクヤは血反吐を吐く思いでバイトをし、これもまた5単位を犠牲にすることで人数分用意してみせたのだ。


「あ、この代金は回収するからな。」


ですよねー。




「さぁ用意はいいなお前ら。」


タクヤの問いかけに俺たちは頷いて見せる。


「刮目せよ!これぞ11単位を犠牲に手に入れた、俺の努力の結晶だ!」


ポチッ


ヒィィィィン


ピチュンッ



その瞬間、俺たち5人は世界を超えた。












「世界神様ー、世界神様ー!」


「なんじゃ騒々しい。」


「世界神様ー、申し訳ありませんー。またやっちゃいましたー。」


長い髪をポニーテールにした白い衣をまとった少女が同じく白い衣をまとった髭をこれでもかと生やす老人に向かって告げる。


「はぁ、またか。お主はいつまで経っても成長せんのう。で、今度はどんな過ちを犯したのじゃ?」


世界神は髭を撫でつつため息を吐く。


「えーっとぉ、ちょーっと居眠りしちゃってぇ、またうっかり地球から5人ほど異世界に送っちゃいましたー。」


えへっと可愛くはにかむ少女に世界神は呆れる。

何しろこの目の前の少女、召喚神はつい最近年をとった前任の召喚神から仕事を引き継いだのだがまだまだ1万歳にも満たないのでこのような失敗をちょくちょく犯す。

少し前にも地球から30人ほど別世界にうっかり・・・・召喚したところなのだ。

世界神はこの少女を後任に選んだ旧友を恨みながらも目の前の少女に何の罰を与えるか考える。


「召喚神よ、お主には便所掃除2000年の刑を与える。」


「えぇぇぇー!そんな、世界神様、2000年もトイレ掃除なんてあんまりですぅー!」


召喚神がぐちぐちと言うが決めてしまったものは仕方が無い。


「便所掃除を免除して欲しくばその5人に不幸な死が訪れんようにサポートするんじゃな。」


世界神はそういうと召喚神に四角い端末を渡す。


「世界神様、これはぁー?」


召喚神は見たことのない手のひらサイズの端末に首を傾げる。


「それは地球の"すまーとふぉん"という便利アイテムじゃ。それで今回の5人と連絡を取れるようにしたから前回の30人と合わせてしっかりサポートするんじゃぞ。」


「がんばりますぅー。」


そう言ってヘロヘローっと駆けて行く召喚神の背中を見ながら


「これは1人に何かあるごとに追加で500年の便所掃除をやらせる方が良いな。」


1人召喚神への罰則を心に決めるのだった。




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