竜伯、舞い降りた

灯籠

第1話 竜伯、逃げる

だいたい、自分は一族のなかでも温厚な方だと自負している。


大叔父が危篤のため退位し、空位になったからといって後継を打診されるとは思わなかった。

竜伯、と大陸の人間は呼ぶらしい。各国から特別な存在として丁重にもてなされ、式典に出席したりしなかったり。

まあ何をすると言う訳でもないのだけど、「人間と敵対しませんよー、僕ら」というアピールを途切れない程度にすればいいらしい。

寿命が違うので、ちょっとサボってると伝説になってたりする。百年に二、三回は降りるようにしているそうだが。

ああ面倒くさい。


「他に居るだろうが、他に」


竜神を祖とする竜人族だが皆が皆、変化出来るわけではない。体の一部に鱗がある程度だ。


竜伯として、人間が持っているイメージを満たすべきだろうというわけで、直系でもないのに後継者とされた。


変化出来るから。

顔が良いから。

オーラが黒いから。

なんかエロいから。


そんな理由を真面目に言われて、うっかりその気に






「俺ちょっと野暮用あるんで後で!」


黒竜に変化して空へ逃げ、そのまま仙人修行に入った。


五十年ほどたったのでそろそろいいかと戻ってみれば。


危篤だったはずの大叔父、元気。

しかも幼い子を抱いている。

何人目の子供だ。


「お前が仙人ぶっこいてる間にワシは種の保存に貢献した。それに引き換えお前はフラフラと番(つがい)も見つけずプラプラと」


まさかの小言フルコース。しかもフラフラはともかくプラプラってなんだ。柔らかそうな無用のもののようではないか。


小言から逃げるためにちょっと人間の世界に降りることにした。

こっそり降りたのに、侍女の薦める街の「巳を隠すのにちょうど良い辺鄙な屋敷」を訪ねたところ 、執事と侍女がいてもてなしてくれた。


国王の使者が感涙してるだとか各国の書状を受けとるとか、



あれ、これ仕組まれてた☆


竜伯、認定されました。


くっそめんどくせー


頬の筋肉を総動員して愛想笑い。


適当にやって次の奴にとっとと押し付けてやる。










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