第83回【TL】二人の秘め事

 春遠からじ。

 確かにその通りだったかもしれない。



 溢れる愛情、零れる吐息。彼の腕の中で眠るこの幸せが永遠に続きますようにといつでも願う。

 こうして秘密の逢瀬を重ねる日々も、いつかは終焉を迎える日が来るに違いない。

 でも、それはきちんと受け入れねばならないのだ。この関係は歪んでいる。



 身体のすべての汗腺が開く感覚がある。全身がしっとりとしてくると、なおさら高ぶった。

 抱かれている間はすべてを忘れて、彼と二人だけの世界に身を投じるのだ。いつまでも続かないことだとわかっているからこそ、余計なことは考えてはならない。

「……ねぇ、兄様」

「なんだい? 香代かよ

「どうして私たちは兄妹なのでしょう……」

 血の繋がりなんてなければ、 もっと自由に愛し合えたはずなのに。

「兄妹じゃなかったら、巡り会うことさえできなかったってことなんだろう」

 彼は答えて、裸の胸に唇を落とす。

 もしもそれが本当ならば、運命を捻じ曲げてでもあなたを捜し出したでしょうに。

 ――身体を繋いで結ばれることが叶っても、香代は寂しいだけです。

 本音を告げたら、彼はどんな顔をするだろう。すべてを愛されている自信がないから、こんな不安を抱いてしまう。



「香代、僕を信じて」

 心を見透かされたような言葉を投げかけられて、胸が痛む。

「はい、お兄様」

 笑顔を作り、彼を受け入れる。

 いつまでもこの関係は続けられない。

 かりそめの時間ときを、私は貪るようにただ過ごす。



《了》

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