第70回【青春】雨上がりに

「アメンボあかいなあいうえお――ってあるだろ?」

「なんだよ、藪から棒に」

 こいつが急に脈絡なく話題を振ってくるのはいつものことだ。

「アメンボは赤いか?」

「あー」

 なるほど、そうきたかと思う。

 さっきまで雨が降っていたのが嘘のように晴れていて、僕は水たまりを照らす虹に気付く。最初は水たまりにアメンボがいないかなと思ったのだけど、十一月にはさすがにいないか。

「赤いと思ったことはないが、アメンボは舐めると甘いらしい」

「え!? まじか」

「まぁ、今はあんまり見かけないけどな」

「いつか食ってみたいな……」

「いや、アメンボは食いもんじゃねぇし」

 笑って空を見上げると、一番星を見つけた。手を伸ばせば届きそうなくせに、近くて遠い。

 あっという間に陽が暮れるのはこの時期だからだろうか。彼の輝く瞳に夜の色が映っている。

「――いつまでこうしていられるんかね」

「まぁ、望むならいつまでもじゃね?」

「だと良いけどな」

 僕たちは、高校卒業後の進路が違う。だから、いつまでも、とはいかない。

「帰るか」

「そうだな」

 寄り道はもうできないかもしれない――なんとなく、僕はそう思った。


《了》

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