第69回【文学】扉の向こうは
本気の遊びを楽しんでいられる時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。青空に沈む僕の気持ちは、おそらく明日へと繋がっている。
目の前に転がっているのは開かない扉の壊れた鍵。扉が開かないのは、もとからなのか、それとも鍵が壊れているせいなのか。
誰かが僕にアドバイスをくれた。
――これまでどおりにはいかないと思った方が良いよ。
――あの扉の向こうは、今までとは違う世界なんだ。だから、飾ったり、ときには偽ることも必要だよ。
僕は素直なところを長所だと言われたが、素直すぎるところは短所だと言われていた。だけれど、その加減が僕には難しい。
困っていると、またひとりやってきた。
「これをどうぞ」
渡されたのは僕の顔。僕が笑っているお面。
「大丈夫。このお面をつけていれば、扉の向こうにいってもやっていけるから」
「でも、あの扉は開かないんだよ? 鍵も壊れているし」
理由を説明すると、彼は薄く笑った。
「それは開け方が悪いんだよ。扉には押したり引いたりがあるもんでしょ? もう一度、チャレンジしてみようよ」
「う、うん……」
僕はお面をつけると扉の前に立つ。昔よりも小さく見えた。
「向こうへ……」
取っ手を握り、ゆっくり回す。前は動くことなどなかったのに、軽く回りだす。
「いってらっしゃい。時々はこっちに戻ってきてもいいからね」
僕は見送ってくれる小さな僕に背中を押された。
扉の向こう――大人の世界にようこそ。
《了》
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