サシェってなんだ

あいす

第1話

(サシェってなんだ?)


妙子は悩んだ。

毎日滞りなく続く平穏な高校生活、そしてその一部分である平穏な昼休み。

今日もいつも通り無難に過ごすはずだったのに。

クラスメイトの手に有るチラシ1枚が妙子を悩ませた。


「オープン記念にサシェ無料プレゼントだって!」

「行こ、行こー!」


仲良しグループの友人達は非常に盛り上がっていた。

だが、妙子は積極的に会話に加わることが出来なかった。


(サシェってなんだ?)


妙子が疑問を声に出してみれば済むことだろう。

仲良しグループ内の、なんてことは無い会話として問えば済むことのはずだ。

だが、妙子は聞くことが出来なかった。

あまりにも自然に会話の中に登場する「サシェ」という言葉。

友人達はサシェが何だか分かっているのに妙子だけが知らないのだ。

この雰囲気の中、自分だけが知らない言葉を聞く勇気は無かった。


「妙子も行くよね!」

「も、もちろん!……サシェ欲しいもん!!」

「今度の日曜日だね、朝から並ばなきゃ!!」

「うん!御店も見てみたいし!!」


妙子は明るい調子で話を合わせた。

何だかわからんものを貰う為に日曜日の朝から並ぶ。

なんとも意味のない行動ではあるが、それでも妙子は友人達に合わせる必要があったのだ。

中学時代の妙子は地味な仲良しグループに所属していた。

教室の隅でアニメやアイドルに盛りあがり、学校行事の体育祭や文化祭では其の他大勢として極力目立たないよう配慮するような地味グループだ。

だが高校入学時、妙子に幸運が舞い降りた。

入学式で名簿順に座ったとき隣に居たのが超イケてるお洒落な子だったのだ。

その子はとてもフレンドリーで妙子と友達になってくれた。

妙子はそのまま勢いに乗り超イケてるお洒落グループに所属することが出来たのだ。

このグループに居れば、もしかすると何らかの奇跡が起きてイケメン彼氏が出来るかもしれない。

だからこそ、妙子は心の中で誓う。

絶対にサシェが分からないことを悟られてはならないと。

せっかくイケてるグループに所属出来たこの幸運を逃してはいけない。

妙子が、日曜日の朝を無駄にする決意を固めるのは当然のことなのだ。

毎週日曜日の朝に欠かさず見ているアニメと特撮番組は録画すればいいことだ。


(サシェってなんだ?)


妙子は曖昧に話を合わせながら思う。

貰ってみればサシェとやらが何モンだか判明するだろう。

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