4-1
雲ひとつない快晴、むきだしの暑さだった。道路ではいくつかの家の前に水のまかれたあとがあり、それが早くも乾ききろうとしていた。
最寄り駅で桐谷と合流し、そのまま電車へ。途中で荒田が乗りこんできて、一同、遊園地のある駅まで一時間ほど。
電車で移動している間、風見は二人に、例の引っ越しの話をした。桐谷や荒田の反応を見て、そうか、昨日のおれもきっとこんな顔をしていたのだと納得した。
「未来の死体のことは、どうするの?」桐谷が訊いた。
「死体があれば、むこうでも助けるつもりよ」
「でも凪野くんがいないじゃない」
「それは……」
風見が口ごもったところで、次に荒田がこう切りだした。
「僕のところにくればいい」
「荒田くんの家に?」
「部屋をひとつ用意するよ。ちょうどスペースがある。一番の難関は母さんの説得だけど、大丈夫、なんとかしてみせるよ。どんな日常でも、非日常にできることを僕は風見さんに教わった。だったら、どんな非日常だって日常にできるはずさ」
荒田と風見の間にはおれが座っていて、その会話がもろにぶつけられているような心地だった。ふと桐谷を見ると、それでいいのか? とおれに目で語ってきていた。
「でもやっぱり迷惑がかかるわ。わたしは自分の部屋を爆破されてるし」
「それで僕の家にも被害が及ぶかもしれないって? らしくないな風見さん、もっと我を通したっていいはずだ。いつものきみなら犯人を捕まえてやるくらいは言いそうなものだけどね」
昨日、風見がだした結論そのものだった。
「だから明日、もう一度焼け焦げた部屋を見てみようと思って」
「よし僕もついていこう」
「なら私は、父に現場を見学できるように相談してみるわ」
あらためてこのメンバーのことを考える。風見に荒田、桐谷まで、基本的にはトリックスターしかここにはいない。手札にジョーカーを三枚持っている気分。場をしっちゃかめっちゃかにかき乱す。だからどんなことが起こってもおかしくない。どんなことを起こしてもおかしくない。そして、どんなことでも解決できるような気さえした。
「きみを失うのは、この町にとっては大きな損害だ。もちろん一番は、僕がさびしいというのがある」
「むしろ一番のことしか思っていないんじゃない?」
「驚いたな。死体だけじゃなくて、心まで視えるようになったのかい」
風見が小さく笑った。
電車を降りて、目的の遊園地まで少し歩く。ところどころに看板が見えて、スムーズに案内されていく。荒田と風見が前を歩くなかで、桐谷が横っ腹をひじでついてきた。
「あなた本当にいいの?」
「何が」
「凪野くんの家に住まわせてあげることは、できないの?」
「そういう桐谷のほうこそ、どうなんだよ。警部補の父親もいて安全な家だ」
「私、家では両親に甘えたり、だらけきったり、ゴロゴロすることにしてるの。あんな姿、夜子にも見せたくない。あと、このことを誰かに言ったら殺す」
「……ちなみに家ではどんなことを?」
「パジャマの下をはかなかったり、お父さんにだっこをせがんだり」
「だっこ!?」
さっきとは比にならない強さで、横っ腹をエルボーされた。呼吸ができなくて、本当に殺されるのではないかと思った。遠くにお花畑が見えた。大きな花びらだった。よく見ると、目指す遊園地の観覧車だった。天国ではなくてホッとした。
「万が一、夜子が荒田くんの家に住むようになったら、どうするのよ」
「お前はおれ以上に荒田を警戒しているよな」
「友達としては好きよ。でも、異性としての彼には違和感がある。いまは夜子に夢中みたいだけど、もしも夜子以上に自由で、世間にしばられないような存在があらわれたら、彼はそっちになびくんじゃない?」
そんな女がいるだろうか。父親に家でだっこをせがむ女子高生は、それには当てはまらないだろうか。思うだけで、口にはださないようにした。ジェットコースターに乗っているとき、彼女に安全バーを外されかねない。
遊園地の入口が見えてきた。
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