孤独な太陽

@jjjxxcostom

第1話

15:01。8月のお盆の時期だ。

ぼくは1人電車に揺られている。ボックス席の横の2人掛け。窓にもたれながら持っていた小説を読んでいるフリをしていた。話が頭に入ってこない。

田舎に帰省していた。今は東京に戻る途中だ。2年半前もこの電車のこの席に座って東京へと向かった。田んぼ道が続く中この電車だけが明らかに異質だった。春には菜の花、夏は田園風景、秋は稲穂、冬は雪景色。四季それぞれ違った景色を映し出す。生まれ育ったこの街。どの景色も自分の中の思い出として残っている。観光客はほとんど来ないこの街だが、この街ほど四季を強く感じられる場所はないんじゃないか。そう感じてしまうくらいこの街のこの景色は良い。しかし、この電車だけが異質だった。明らかにこの街に溶け込めていないように感じてしまう。

大学に入学してから自分がどれだけ成長したかわからない。しかし、1つだけ確かなことがある。

大学に入学した頃と比べて明らかに心が虚しくなった。まるで今乗っているこの電車のように。周りに溶け込めていない。景色が変わっているのに自分だけはそこに佇んでいるかのように、この言葉に表せないような今の虚しさ。

電車は、ぼくの気持ちに気づかないようにぐんぐん進んでいく。


大学3年の夏。

サークルのみんなは合宿だの、旅行だの、バイトだの。充実した毎日を送っているみたいだ。だけど、ぼくは知らない。そこにいないからだ。

いないというよりは、いたくなかったんだと思う。自分の気持ちすらもわからなくなってきている。ブルっとスマホが震える。

LINEが届いた。このLINEというアプリのおかげでものすごく人と繋がれている気がしている。LINEを送ってきたのはサークルの合宿に行っている沙希からだ。浜辺で笑っている沙希と沙希のサークルの人が写っている写真とともに

「なんで来てないのー??」

というメッセージが添えられていた。わからないフリをしようとしたが無理だった。帰省中1度も頭から離れなかった合宿である。自分だって行きたかったに決まっている。誰が好きで帰省なんてするんだ。大学生だぞ。親と会ってどうする。1日ゲームしてメシ食って、寝るだけだぞ。帰省なんて面倒くさいに決まっている。実際、めんどくささは拭えなかった。

でも、その合宿に行けない自分がいる。自分が悪いのか、悪くないのか。わからない。ひたすらにわからない。考えれば考えるほど、もがいてしまう。また、苦しさも感じてしまう。こういう気持ちを忘れたくて帰省したのに。全く忘れられてなかった。

「温泉に入ってビールを飲む。最高の休日でした!」

今の気持ちと裏腹に少しだけ明るく返信をした。でも、沙希は気づくだろう。いや、わかってくれるだろう。沙希は勘がいい。思ってもないことを強がって言ってることくらい気づかれてしまうだろう。でも、それでいい。このSOSを感じ取ってくれる人がいることが今の自分を支えているのだと思う。そうじゃなきゃ立っていられないくらい自分はいろんな人に寄りかかってしまっている。


電車はいよいよ上野についた。

見慣れた光景が車窓から見える。見慣れてしまったの方が正しいかもしれない。背伸びして入り込んだ新しい世界は、今や馴染み深いものへと変わってしまった。新鮮なことだらけの新世界は日常に変わりきらめきがなくなった。しかし、どこか浮いている自分がいることが気になってしまう。ぼくは、馴染みきれないこっちの世界に馴染んだかのような素振りで電車を降りた。小説は半分も読めなかった。内容もごっそり抜けている。


残ったのは言葉にできないあの虚しさだけだ。

東京の陽はその虚しさを照らし出すように僕を照りつけた。ぼくは虚しさを揉み消すかのように人混みに入っていった。今日はビールを飲もう。それだけ決めて家路を急いだ。

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