冒険者ギルド

 冒険者ギルドに到着したカケル達。躊躇いも何もなくギルドの扉を開けて中へと入っていく。


 カケル達自身、テンプレを大いに期待していた。反面、今は昼のために人が少なくてテンプレは外すだろうなぁと考えていたのだが、いざ来てみればどうだ。


 ギルド内が冒険者でごった返していた。


 依頼完了の報告をしている者、素材を換金している者、酒場で飲んだくれている者と様々だ。カケル達としてもかなり意外だったため、しばし入り口付近で呆然としてしまったようで、


「おい、邪魔だ。どけよ」


 通行の邪魔になってしまう。


 そこにいたのは、二人の男だ。二人共がたいの良い男で、無精髭が生え、色々なところが血やら泥やらで汚れており、ボロボロの皮鎧を身に纏っていた。結構臭いが、他の冒険者も似たような者はいるため、全く気にしない。


「すまない」

「おっと、わりぃな」


 そう言ってカケルとダイキが入り口から退く。退きつつも、二人の背後に夕姫と織音を隠す形で。


「おいおい。人様の邪魔をしといてそれだけかぁ?」

「そうだぜ。詫び入れろよ」


 男二人がカケル達に絡む。テンプレ発生! カケルとダイキは相対しているために何とかにやけそうな顔を我慢しているが、夕姫と織音は静かにはしゃいでいた。


 周りにいる冒険者達はいきなり始まった喧嘩のようなカケル達の騒ぎを遠巻きに見ていた。その顔を見れば、絶対にかかわりたくないという感じだ。


 どうにもカケル達は厄介な奴らに絡まれたらしい。それを瞬時に理解したカケルはとりあえず、さっきよりちょっと丁寧に謝罪をすることにした。


「悪いな。許せ」


 全く丁寧になっていない。それどころか、喧嘩売ってる感じだ。言っておくと、カケルにそんなつもりは全くない。


「てめぇ喧嘩売ってんのか?」

「売ってるみたいだぜ? どうすっか?」


 そこで同調するような言葉しか言っていない茶髪の男が、カケル達の後ろにいる夕姫達に気付いた。その瞬間、下卑た笑みを浮かべる。


「おい、後ろにいる女。かなりの上玉じゃねぇか」

「あん? ホントだわ。おいガキ。詫びるつもりがあんならその女二人を俺らに寄越せ」

「そうだそうだ。寄越せよ」


 カケルにそんなこと言っちゃいけませんよ。ほら、ブチキレちゃった。他の三人もそれを悟って数歩後ろに下がる。呆れた顔で「あちゃ~」と小さい声で言っているダイキと織音。夕姫はただキレたカケルから離れただけだ。怖いから。


「テメェ。夕姫と織音に手を出そうとしてんのか」

「ユーヒ? オリネ? そこの女はそんな名前なのか」

「名前なんてカンケーねぇぜ。いいから女を寄越せ。そうすれば命だけなら助けてやるよ」

「そういうこった。命惜しけりゃ女を寄越せ。俺達の性奴隷にしてやっからよ」


 完全に犯罪予告だ。当然だが、カケルは二人に手を出されようとしている時に黙っている男じゃない。


「黙れよゴミ」

「あぁんっ!?」

「てめぇ誰に向かって物言ってんだ?」

「お前らに決まってんだろゴミ屑。夕姫と織音に手を出そうとしてタダで済むと思うなよ」

「やんのかこらぁっ!!」

「ぶち殺してやる!!」

「やれるもんならやってみろや!!」


 男二人が腰の得物を引き抜きカケルに向ける。そこかしこから制止の声や悲鳴が上がるが、その程度で止まる奴に沸点が低い奴はいない。要するに、周りの制止如きで今の三人は止まらない。


「「おらぁあああああああっ!!」」


 二人揃って剣を大上段に構えてカケルに斬りかかる。その間カケルは全く微動だにしない。


「地獄の責め苦に苛まれろ」


 刹那。ギルド内に響く二回の轟音と二回の鈍い音。そして、男の呻き声。


 そこに立っているのは左足をミドルキックを放った体勢のカケル。右手に持つアルタイルの銃口からは白煙が上っている。


 カケルはアルタイルを抜き撃ちし、男共の剣を半ばから吹き飛ばす。そして右足で右の男、左足で左の男の脊椎部分を全力で蹴り砕いた。その衝撃で飛んでいく男共はギルド入口脇の壁に叩き付けられ、そのまま床に崩れ落ちる。男共は余りの激痛に気絶することすらできず、悶え苦しんでいた。


 男共を酷薄な眼差しで見やり、アルタイルの銃口を二人に向ける。周りの者達は何が起こったのかわからないまでも、カケルが今からしようとしていることがわかり、「止めろ!」と全力で叫んでいる。しかし、誰一人として身を挺して止めようとする者はいなかった。


 カケルの人差し指が引き金に掛かる。力を籠めて、引き金を引こうとしたその時。


 背中に柔らかい衝撃が掛かる。温もりのある背中に顔を向けると、夕姫が背中から抱き付いてきていた。突然訪れた幸福にプチパニックを起こすカケル。自然と構えが解け、アルタイルの銃口は下に向く。


「ありがとうカケル。アタシ達のために怒ってくれて」

「夕姫……」

「でも、これ以上はダメよ」

「けど、アイツらが……」

「わかってる。アイツらはアタシ達に手を出そうとした。あの下卑た目はホントに気持ち悪かった」

「だったら――」

「いいのよ。手を出される前にカケルは潰した。これでアイツらは怖がってアタシ達には手を出そうとしなくなると思う。それでいいじゃない」

「……」


 夕姫の説得に、納得はしきれないながらも、カケルはアルタイルを右太腿のホルスターに戻す。そこで織音とダイキも近付いてくる。


「カケルくん。ありがとうね」

「とりあえず。とっとと用済ませて行こうぜ」

「そうだな」


 そう言って四人はギルドカウンターと思しき方へ向けて歩き出す。さっきの騒ぎもあり、四人が歩いていく方は道ができていた。他の冒険者が左右にわかれていっているのだ。その真ん中で悠然と歩を進めていくカケル達。見事に一人の職員の前が空いていた。


「ようこそ冒険者ギルドへ」


 どことなくスッキリした顔をしている女性だった。頭の上にウサ耳があり、コニーリョ・ヒューマン(兎人族)だということがわかる。とても整った顔立ちで、カケルと同じ色素の抜けきった白髪と鮮血のような瞳の色が印象的だった。


「その耳で全部聞こえてたんだろ?」

「はい。ですが、何も言いません」

「その心は?」

「あの人達はCランクの冒険者なんですけど、問題行動が多いのでそろそろ誰か排除してくれないかなぁと思っていたんですよ」


 結構過激なことを言う受付嬢である。


 受付嬢曰く、あの二人は最近登録した傭兵上がりで、実力は折り紙付きだったらしい。だったら何で傭兵止めたんだよと思うが、ただ他の傭兵達よりも能力が劣ってしまっているために傭兵ギルドから追い出されたということだ。そこから冒険者ギルドに登録。


 冒険者ギルドにはスキップ登録というものがあり、実力があれば上のランクから始めることができる。入口脇で呻いている傭兵上がりの二人もそのスキップ登録でCランクからのスタートになったようだ。


 だが、傭兵ギルドでバカにされた反動か、周囲の冒険者をバカにするような発言が多かった。それでも、二人に敵わない冒険者ばかりで言い返すことはできなかったらしい。


「大変だったんだな」

「えぇ、それはもう。ですが、これでスッキリです。周りの人達の証言もあるでしょうし、あのバカ達は衛兵に連れて行かれて投獄されるでしょうね」


 ざまぁみろという顔で傭兵上がりの二人を見据える受付嬢。カケルと同じくらい酷薄な瞳だった。その視線の先では衛兵にしょっ引かれていく傭兵上がり。カケル達の事情聴取は行わないようだった。周りの証言で十分という事だろう。


「さて。そろそろ仕事に戻りましょう。コホン。ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 とんでもない切り替えの早さに苦笑するカケル達。


「あぁ。冒険者登録をしに来たんだ」

「あれ? 冒険者ではなかったんですか?」

「そうだけど?」

「すみません。てっきり冒険者かと思っていました」

「謝ることじゃないと思うけどな。で、登録できる?」

「勿論ですよ。むしろ、私の方からぜひ登録をと勧めたいところです。あ、自己紹介が遅れました。私、冒険者ギルドカンビオ支部で受付を担当しているセトと申します。以後お見知りおきを」

「ご丁寧にどうも。じゃあ登録手続きを頼むよセト」

「わかりました。えっと、後ろのお三方も登録しますか?」


 そう言ってセトが夕姫達三人に顔を向け、それを受けた三人は首肯する。


 セトが一つ頷いてカウンターの下に手を入れ、そこから四枚の紙を取り出し、カケル達の前に置いていく。


「こちらに記入をお願いします。最低限、名前さえ書いていれば構わないので」

「わかった」


 サラサラと記入し、四人揃って名前しか書いていない紙をセトに渡す。


「はい、カケルさん、夕姫さん、織音さん、ダイキさんですね。スキップ登録はなさいますか?」

「具体的にはどんな感じなんだ?」


 スキップ登録は、冒険者ギルドに登録する際、本人の実力にあったランクを与える事で、高ランクの依頼を受けてもらうための制度だ。そうでもしないと、高い実力を持った者が下位ランクの討伐依頼やら何やらを根こそぎやってしまう可能性がある。過去にそれがあり、そこからスキップ登録制度を取り入れたらしい。


 登録の手順は、単純に高ランクから始めたい場合は申請をして、試験官か高ランク冒険者と試合をする。その結果、戦闘中の動きや攻撃の仕方等を総合的に判断してランクが与えられる。


 与えられるランクは試験相手を担当した者のランクに依存する。つまり、より高ランクの冒険者・試験官と戦い認められれば、その相手と同じランクから始められる可能性もある。ただし、Aランク以上の冒険者だと、試験の相手を務めるか否かは本人の判断で決められるため、必ずしも試験が成立するわけではない。


 冒険者ランクはF・E・D・C・B・A・S・SS・SSSとなっている。一般的にF・Eランクは初心者。D・Cランクは中級者。それ以上は上級者と言われている。現状の最高ランクはSSらしい。


 そう説明を受けて、カケル達は即座にスキップ登録を選択する。セトの勧めもあるし、何よりカケル達は低ランクの採取系依頼等を地道にこなしてちまちまランクアップするのが面倒だった。


「それで、試験官はどうすればいいんだ?」

「当ギルドで最高ランクから始めたい場合は、僭越ながら、私がお相手をさせていただきます」

「え? どゆこと?」

「現在、冒険者ギルドカンビオ支部にいる中で最も高ランクな冒険者は私なので」


 冒険者ギルドの受付嬢の中にはセトのような高ランクの冒険者もいるようだ。理由は様々だが、一番の理由は試験の効率化を図るためだ。


 試験官だって何時でも相手を担当できるかと言えば、それはできない。その時は試験官が担当できるようになるまで時間が開いてしまう。早くにでも冒険者になりたい者は待つ時間ができてしまうのを嫌う。


 ギルド側としてもその個人が優秀な人材だった場合、無駄な時間を取らせてしまうことになる。それを避けるため、一部の実力ある受付嬢には冒険者登録をしてもらい、受付嬢の判断次第で試験を即時受けさせるかどうかを決めることができるのだ。


「セトのランクは?」

「SSです」


 現状最高ランクって君の事なんですね。セト曰く、他にも数人いるとのこと。


「何でセトがそんなに強いわけ?」

「英雄ですから」

「「「「…………はい?」」」」


 突然の英雄発言に目が点になるカケル達。元の世界でこんなことを言えば、即刻「厨二病」と診断されるだろう。


「フルール皇国に伝わる英雄譚ですよ」

「すまん。全くわからん」

「知らないのですか?」

「あぁ」

「そうですか。残念です」


 本当に心の底から残念がっている声を洩らすセト。改めて何故セトがこの支部内で最高ランクであるのかを問い掛けるカケル。ダジャレじゃないよ?


「カンビオは人の出入りが激しく、冒険者もそれは同じです。ここを拠点にして活動する高ランク冒険者はかなり少ないんですよ。ここよりもフルール皇国のギルドを活動拠点にした方がいいですからね」

「なるほどね。で、ここでずっと働いているセトが最高ランクなわけか」

「そうなりますね」


 どうしますか? と問いかけるセト。カケル達としては悩み所である。何といっても全員が高ランクから始めたい。ただ、そうなると連続でセトが戦うことになるわけで、それはさすがに辛いだろうと思っている。


「あ、言っておきますと、今日の内に終わらせることは可能ですよ。特別な魔導具があるため連戦することが可能です。何より、時間制限もありますからね」


 というわけで、カケル達は今日の内にスキップ登録を済ませることにした。


 カケル達のスキップ登録&セトが試験担当ということでギルド内が騒然となり、すぐに試験会場へと足を運び始める。実を言うと、セトが自ら試験を担当すると言ったのは初めてだ。前例のないその事態に他の冒険者もかなり興味が湧いたのだろう。


 そうして、セトの案内で会場へと移動するカケル達。


 最初は織音がセトとやり合うようだ。それなりに広い訓練場で対峙する二人。ちなみに、訓練場は誰でも使用できるということだ。まあ訓練より依頼を受ける事に重きを置いている冒険者は中々使わないようだが。


「では、試験内容の説明をします。制限時間は十分。戦闘方法は自由。この空間には不死結界、及び回復結界、そして魔法阻害障壁を張る魔導具によって保護されているため、死ぬことはありません。試験が終了した後は、HP・MP・AP全てが快復します。魔法阻害障壁によって、ギャラリーにいる冒険者達には被害が行かないので、遠慮なく攻撃してきて下さい。ここまでで質問はありますか?」

「ううん。ないよ」

「わかりました。では始めましょう」

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