クラスメイトごと召喚された世界がゲームの世界だった件。

ヴァイス

プロローグ

 戸惑い、怒り、悲しみ。様々な感情が籠った声が上がっている。

 そこには日本のとある高校の制服を着た少年少女が四十人ほどいた。その中の一人、容姿的な意味合いで異彩を放つ少年、諸星もろぼしカケルは思う。


(どうしてこうなった?)


 顔立ちは平凡なカケルだが、如何せん目立つのは避けられない。

 日本人では通常あり得ない色素が抜けきった真っ白な髪。瞳の色も鮮やかすぎるほどの赤色。いっそ真紅とでも言った方がいいかもしれない。肌は病弱さすら感じさせるほどの白さだった。


 先天性白皮症。別名アルビノ。

 色素欠乏によって体毛や肌が白化し、場合によっては瞳の色すら血の色になる。カケルの場合はこれである。ただ、紫外線に弱くもなければ、視覚障害すらなっていない。カケル的七不思議の一つである。


 閑話休題。


 カケルは今現在置かれている自分の状況を把握するためにも今朝からこの時までの出来事を思い出す。


~~~~~~~~~~~~~~~


 水曜日。特筆すべきことはないただの水曜日だ。

 ただし、カケルにとってはかったるくてしょうがなかった。なんせ、約四ヵ月ぶりに登校したのだから。

 別にその変わった容姿が原因でイジメられて不登校だったわけではない。とある理由により通学を中断していただけである。


 まあ、容姿に関して周りから色々と言われることはあった。具体的には「気味悪い」「幽霊みたい」「厨二病」と、他にも山ほどあり、それはもう散々な言われっぷりだった。

 ただ、小学生の頃から言われ続けたために慣れたということもあるし、何よりそんなカケルの容姿を気に掛けることなく、というとちょっと違うが、同族的な感じで仲の良い友人がいたからでもある。


「おっすカケル!」


 教室の扉を開けると、カケルに気付いたその友人が朝の挨拶をしてきた。


「ぉょ~」


 挨拶にすらなってない挨拶を返して友人たちに近づくカケル。その輪にカケルが加わると問答無用で周囲の目を引くグループだ。カケルを抜けば男子一人と女子二人。

 さっき挨拶してきたのは男子の方で、名前を彦部ひこべダイキという。眉目秀麗、文武両道という完璧人間である。ぼさぼさの金髪と深緑を彷彿とさせる碧眼。百八十センチはあるだろう高身長に程よく引き締まった体付き。気さくで優しいという性格から女子の人気が高い生粋のモテ男だ。ちなみにハーフではない。

 そんなダイキは今カケルに爽やかなイケメンスマイルを向けていた。


「ぶげらっ!?」


 カケルは何となく、ホント~に何となくダイキの顔を殴る。


「何すんだよ!?」


 リズムに合わせて武勇伝を語る人たちの片方を思い浮かべてしまうほどのオーバーリアクションでカケルを問い詰めるダイキ。


「いや、モテ男の顔面を殴る日本流の挨拶だよ。あるだろ?」

「ねぇよ!」


 カケルの中では常識なのだ。決してイケメンなダイキが気に入らないから殴ったわけではない。ないったらない。


「つぅか、カケル。四ヵ月も登校拒否とか怒られっぞ?」

「や、お前も同じ穴のムジナだからな?」


 カケルの言葉に「ちげぇねぇな」と返しながらキラッと音がしそうなほど白い歯を見せて破顔するダイキ。


「で、身体の調子はどうよ?」

「まあ、体力落とさねぇように筋トレはしてたから問題はねぇよ?」

「そうか」

「お前はどうなんだよ?」

「以下同文とだけ言っておこう」


 二人して不敵に笑い合う。なぜゆえ不敵に笑うのか。その真意は二人にしかわからない。


「アンタたちそうやって仲睦まじげに笑い合うからゲイとか言われんのよ?」

「誰だそんな不名誉なことを言いやがる奴は?」

「アタシだけど?」

「お前じゃねぇかよ」


 挨拶代わりに軽い冗談を言い放ったのは一人の女子、名を白河しらかわ夕姫ゆうひという。

 軽くウェーブのかかった漆黒の髪、それと対照的な純白の肌。街を歩けば百人中百人が必ず振り返るであろうほどの整った顔立ち。今はそれが悪戯っ子のような無邪気な笑顔になっている。百四十センチ後半と結構小柄な体格だが、スタイルはかなりよくそこらのアイドルには引けを取らないどころか押しまくって突き落とすくらいである。ただ、特異なところもある。それが瞳の色。右目はヘーゼル、左目はブルー。所謂オッドアイなのだ。そういう特殊なこともありカケルと仲良くなるのは割かし早かった。


 夕姫もまた成績優秀。だが、それ以上にあり得ないほどの身体能力を有している。小柄なこともありかなり身軽で、幼い頃から木から木へ飛び移ってはしゃぎ回るなどじゃじゃ馬が過ぎるような面もあった。それを見たカケルが「お前サルみたいだな」と余計なことを口走りフルボッコにされるという過去もあるが、お互いそれは記憶の彼方に忘却している。


「間違っても広めんなよ?」

「それは暗に広めろという意———」

「違うから。言うなよ? 絶対言うなよ?」

「分かった、絶対だな?」

「絶対押すなよ的なノリじゃねぇからな?」

「え? 違うの?」


 そんなネタは誰にも受けることなく他愛もない日常会話と化している。


「やっぱり二人は面白いね」


 カケルと夕姫が喋っていると不意に横から声がした。言わずもがな、最後の一人だ。


 名前は天草あまくさ織音おりね。校内屈指の美少女として名が知られており、男女問わず人気の高い女子である。腰まで届くほどの綺麗で真っ直ぐな黒髪。うっとりするほど左右対称の顔立ちから常に放たれる優しい笑顔は見る者を魅了する。


 ただし、誰にでも優しくするという物語に出てくるような子ではなく、自分が気を許した相手にしか本音を言わない。彼女に気を許して貰うことは清水の舞台から飛び降りるよりもさらに難度が高く。織音を恋人にと考えている輩に関しては難易度ルナティック級なのである。ぶっちゃけムリ。


 今まで告白し玉砕してきた男は数知れず。それでも、人気が衰えないどころかむしろ上昇していっているというのは信じられないことだ。嫌っている人間もいるが。


 カケルを含めたこの四人は幼少期からの長い付き合いだ。つまり幼馴染。この四人が普段から行動を共にしている仲良し組だ。


 この四人は校内ではかなり有名だ。一人は白髪赤眼の厨二野郎(性格は厨二じゃない)。一人は校内一のモテ男。一人はアイドル顔負けのオッドアイ少女。一人は校内屈指の超美少女。

 こんなラインナップで有名にならないわけがない。そんなだから、四人で歩いているとかなり目立つ。そこに注がれる視線は多い。カケルはまあこの三人は人気だし仕方ないだろうと思っているが、実際向けられている視線の中にはカケルを見る者もいる。恋慕的意味合いでも嫌悪的意味合いでも。


 前者はともかく後者は他の三人にとって看過しかねるわけで、そういう視線をカケルに向ける輩は常時三人のプレッシャーが掛けられる。気付いてないのはカケル本人だけである。


 そんな四人が今教室の隅の方で談笑している。勿論、殆どの生徒の視線は四人に向く。

 そこで、三人の生徒がカケル達に近づいてくる。


「君たち」

「「「「?」」」」


 カケル達に声を掛けたのはこのクラスカースト最上位に君臨する三人組だった。


 一人は茶髪で容姿端麗な男、草薙くさなぎ誠一せいいち。一人は冷めた目をした男、八尺やさか冬馬とうま。最後は眠そうな半眼でカケル達を見据える美少女、八咫やた夢佳ゆめか

 三人の名前を知った時にお前らどこの三種の神器だよとカケルは思ったのは記憶に新しい。


「なんだ?」


 代表してカケルが声を掛けてきた三人に返事をする。それに答えたのは冬馬だった。


「なぜ四ヵ月も学校に来なかったんだ?」


 そう。カケル達四人は二年に進級した翌日から今日この日までの四ヵ月間学校に来ていなかった。当然の如く全員が同じ理由だ。その理由とは。


「「「「ゲームしてたから」」」」


 呆れてものも言えない。そんな理由で四ヵ月も学校を休むとかおかしいでしょ? とか思う人間はごまんといるに違いない。普通ゲームしたいだけで自主休学とかやるものじゃない。というかやっちゃいけない。それがルールなのだから。まあ、この四人に限って言えばそんなルール知ったことかという話だが。


「そんなことで四ヵ月も休んだのか? 連絡もせずに?」

「そういうことになるな」

「はぁ。諸星。お前がそうなるのは構わないが天草さんを巻き込むのは止めろ」

「おいおい。勝手に俺が主導したみたいに言うなよ。誘ったのはむしろ織音だぞ?」

「何を言ってるんだ? 天草さんがそんなこと言うわけないだろう?」

「ううん。私が誘ったんだよ?」

「……」


 カケルがホレ見たことかと言わんばかりに肩を竦める。


「仮にそうだとしてもだ。それを断って天草さんを止めるくらいはすべきだろう?」

「俺も楽しそうって思ったから止める理由はなかったな」

「そんなものは学校を休む理由にならないだろう?」

「確かにならないな」

「だったら———」

「だからなんだ?」

「何?」


 尚も言い募ろうとした冬馬の言葉を遮り、その時の言葉で冬馬が眉を顰める。


「別にゲームのために学校を休もうが休むまいがお前には関係ないだろ? 学校に長い間いかないことで損するのは俺たちであってお前たちじゃない。自分たちの行動に責任を持てるならやりたいことやったっていいじゃねぇか」


 堂々とお前にゃ関係ねぇだろ宣言をするカケル。後ろの三人苦笑い。


「確かにそうだ。だがな。お前は他人に迷惑を掛けている。授業に出ないことでお前の勉強は遅れ、先生たちはお前に合わせて授業を進めていかないといけない。それがどれだけ授業の進行を遅らせるか分かっているのか?」

「別に他の人が学んでいる環境を壊すようなことはしねぇよ。授業中に分からないことあれば自分で調べるしな」

「まあ、それはそれでいいんだろう。むしろそうしろと俺は言いたかったよ」


 カケルは内心「ウザい、メンドー、どっか行けよもう」と思っていたが、さすがに本人を前にしてそんなことを言うほど分別がないわけじゃない。


「だが、お前はそれでいいかもしれないが、天草さんはそういうわけにもいかないだろう。彼女のことも考えて止めようとは思わなかったのか?」


 そこでカケルは理解する。コイツ、織音に惚れてやがると。

 カケルの辿り着いた答えは正解である。八尺冬馬は織音に好意を持っていた。高校の入学式で偶々見かけた織音に一目惚れしたのだ。そして、二年生になって同じクラスだと知って心の中で喜び、はしゃぎまくっていたのだ。だが、その翌日から全く来なくなり心が酷く荒んだ。しかも、来なくなった理由がゲームをするためというかなり下らないことだったのだから物申したくなるのも分からなくはない。


「思わなかったな。むしろ、織音が誘ってくれたんだよろしくやるね」


 まるで相手を煽るかのような言葉を放つカケル。しかも、カケルのその言葉に合わせて織音もイヤンイヤンと身をくねらせるものだから相手の勘違いは加速していく。この辺、二人は結構良い性格をしている。面白そうな奴を見つければとことん弄りつくす。それがカケル&織音クオリティ。人を弄ることに関してはこの二人の右に出る者はいない。


「お前———」


 そこでチャイムが鳴り響く、全員がいそいそと自分の席に着いていく。

 カケル達もそれぞれの席に向かう。その際、冬馬に挑発めいた不敵な笑みを見せるのも忘れないカケル。ホント良い性格をしている。

 残りの二人、誠一は肩を竦めて席に戻り、夢佳は四人に軽く手を振って微笑んで席に戻る。四人と夢佳は割と仲良いのだ。


 全員が席に着いたタイミングで、計ったように教室に入ってくる担任。朝のホームルームが始まろうとしたその時だった。


 教室の床に幾何学模様の円のようなものが走り輝く。

 教室にいる誰もが金縛りにあったかのように硬直する。そんな中、刻一刻と輝きは増していき、硬直の解けた教師が「みんな避難を!」と行った時には間に合わなかった。

 目を焼かんばかりの盛大な輝きは教室内を包み込む。


 カケルが気が付いた時には硬い床の上だった。その冷たさとザラザラ感は間違っても教室の床とは言えないものだった。

 起き上って辺りを見渡すと、未だ気絶したままのクラスメイトたち。ダイキと夕姫と織音の三人は既に起きていた。


「おう。元気かカケル?」

「今さっき気が付いたばっかの奴に掛ける言葉じゃねぇな」

「…………確かにそうだな」


 なぜそこで考え込む必要があるのか。カケルはそうツッコみたかった。


「気分とか大丈夫? カケル」

「問題ねぇよ。にしても、こりゃ一体」

「異世界召喚だよ! 異世界召喚!!」

「喜ぶな織音」


 いつもの淑やかさはどこへやら。未知の体験を異世界召喚と断定しはしゃぎまくる織音。言っておくと、この四人の中でオタクで厨二病は確実に織音である。織音がそっち方面にハマりだした時のハイテンションぶりは他の三人も引く程だった。今では完全に引き込まれたが。


 改めて辺りを見回すカケル。どうにも神殿のような場所に自分たちはいるようだと認識した。石造りのその空間はまるで神殿のようで、自分たちを囲む六つの石柱と空のように澄んだ青色の光で淡く輝く水が流れていた。カケル達のいる位置は丁度六つの石柱の真ん中である。

 そんな光景を見てカケルは。


「なんか見覚えねぇかここ?」

「あ、やっぱりカケルもそう思う?」

「あぁ。マジでなんかデジャヴってんだけど……」

「アタシたちもそれが気になってね。ずっと考えてたんだけど、中々思い出せなくて……」

「なんかこう、喉元までは出かかってんだよなぁ」

「そうなのよねぇ。出てこないからちょっとイラッとしてるんだけど」


 カケルと夕姫が二人揃ってうんうん唸る。織音は未だはしゃいでおり、ダイキがそれを落ち着かせようとしていた。そんな時、クラスメイト達がついに起き始める。同時に織音がいつもの淑やかさを取り戻す。清々しい猫被りっぷりだった。ダイキだけではなく唸ってたカケルや夕姫すらをも呆れさせるほどだ。当の本人は「何か?」とでも言いたげな表情をしていたが、まあ織音のコレは今に始まったことじゃないので三人とも気にしない。

 そして、一人また一人と起き始め、現状を確認して。


「ど、どこだよここは!?」

「何!? 何が起こってるの!?」

「もしかして攫われちゃった!? いやぁ! 助けて!!」


 まさに錯乱状態だった。それぞれが思い思いのことを口に出し、それを真に受けた他の生徒がさらに錯乱していくという完全な負の連鎖だった。

 ここで冒頭に話が戻る。


「皆! とにかく落ち着くんだ! 落ち着いて現状把握に努めよう!」


 クラスのまとめ役であり、圧倒的なカリスマのある草薙誠一がそう言ってクラスメイトを宥めだす。こういう仕切り役的なことをスマートにこなせる彼はクラスのリーダーに相応しいだろう。


 誠一の呼び掛けがしばらく続き、このまま騒いでいても何も変わらないと理解したクラスメイト達は段々落ち着きを取り戻していく。絶大な信頼と人気を誇る誠一だからこそできることだった。このくらいならダイキもできそうだが、ただイケメンなだけでリーダーシップやカリスマなんてものは持ち合わせていないダイキにそんなことを求めちゃいけない。極端に考えているわけではないが、自分と周囲の人間が無事ならあとは何があっても何とも思わないタイプだ。今の状況で言うならカケルと夕姫、織音の三人と自分自身さえ無事ならどうでもいいのだ。後、見た目に似合わないが脳筋なのだ。よって、仕切るとかそんなことできるわけがない。しようと思わない。


「現状把握って言っても何を把握するわけ?」


 落ち着いてきたクラスメイト達を無視して夕姫がそんなことを言う。態度からはどうでもいいとか面倒だとかの感情が透けて見える。こんな混乱状態の級友たちの前で取っていい態度ではない。

 そんな夕姫に朗らかに笑いかける誠一。乙女キラーのイケメンスマイルだが、そんなものはダイキで見慣れているため何とも思わないのが夕姫だ。この点に関しては織音も同じ。


「とにかく今俺たちが置かれている状況を確認する必要がある」

「変な光に包み込まれて神殿みたいなここにいる。はい。状況の確認終了」


 ドライすぎる夕姫の状況確認。ただ、言っていることは事実でそれ以上のことは何も分からないため、ドライな返しだろうとも誠一は言い返さない。他のクラスメイトなら食って掛かりそうなものだが、そういう素振りを見せた奴にはカケルとダイキ、そして織音の絶対零度の視線を浴びせられてしまうため何も言えなくなる。


 こんな異常時にクラス内に亀裂を入れるような行為はしないのが普通だが、この四人は自分達さえ無事ならどうでもいいという思考の持ち主なのでこういうことができる。なまじある程度クラスカーストも高く百八十もある強そうな男が二人も揃っているためその迫力だけで物事を押し通してしまう故に割と嫌われている。校内屈指の美少女である織音すらも嫌っている人間というのは基本的にこの四人全員を嫌っている人間だ。


 尤も、四人がそんな強硬手段を取るのは自分たちの身を守るためであり、職権乱用的な力の振りかざし方はしていないため、嫌ってる人間は極一部だ。


「いずれにしても、現状把握はこれが限界でしょ? 誰か来る可能性もあるし、その人に事情を聴けばいいんじゃない?」

「俺もそう思う。ここで騒ぎまくっても何も変わらんし」

「だなぁ。皆落ち着いてきたし少し待とうぜ。何かあるかもしんねぇし」

「私もそう思うなぁ」


 カケル達はそう言って雑談に入る。他の人たちもそうするより他ないと思い、落ち着きを取り戻すためにも隣にいる友人たちと励まし合うなど始める。

 ただ、カケル達に関してはある一つの可能性を考えている。


「で、カケルはどう思う?」


 周囲が程よくざわついてきた辺りで夕姫がカケルにそう問う。間違ってはいけないが、この四人の中でリーダー格を上げるならダイキではなくカケルだ。理由は四人の中では一番まともだからだ。まあ、そのまともは四人の中だけの話で他にそれが通用するかと問われれば首を傾げるものだが。


「まあ、ありがちな異世界召喚の可能性は高いよなぁ。非現実的と思ってたんだが、現状はそれしか思い浮かばん。なんせ、教室の床に現れたのは魔法円っぽかったしな」

「やっぱりカケルくんもそう思うよね」


 喜色満面。そんな言葉が似あうほど今の織音は嬉しそうな笑顔である。この笑顔で大抵の男は間違いなくオトせる。

 カケル達の中では八割方、異世界召喚の線が濃厚という結論が出ている。他のクラスメイト達はそんなこと考えつかないと思うが。ぶっちゃけ、こういう異世界召喚という単語はカケル達がそういう物語を好んで小説などで読んだことがあるから出てくる単語であって、その方面の知識がない他のクラスメイトはただただわけのわからないことになったというぐらいの認識しかできないのだ。

 それはともかく、結論が出ている以上四人が気になっているのはあと一つだ。


「それ以外に考えつかないよなぁ。するってぇと残る問題はこの既視感か?」

「そうね。ホント何なのかしら? もうちょっとで何か思い出せそうなのに」

「ねぇ。何だろうねコレ」


 そこで、待ちわびた音が聞こえる。こちらに向かって走ってきている複数の足音が聞こえてきた。クラスメイトは助かったとばかりに顔を上げる。カケル達としては自分達から言い出したこととは言え、走ってくる音に無警戒に笑顔を浮かべるというのは危険な行為だと考えている。それが自分達の味方である可能性はあるが、敵である可能性もあるのだから。


 現れたのは、護衛の騎士を連れた豪奢な装いの少女だった。透き通るような金髪をロールさせ、いかにもお姫様ッと言った感じだった。カケル達はその少女と騎士にすら既視感を覚えていた。

 お姫様風の少女は肩を上下させて息を荒げているが、そんな状態でも満面の笑みだった。


「ようこそおいでくださいました勇者の皆様!」


 けってーい! カケル達は心の中でそんなことを思った。ついでに言葉も間違えてるということも心の中だけでツッコム。


「私はメルラーク王国第一王女のプリム=レット=エスカ=メルラークと申します。この度はこちらの身勝手な都合で皆様を強制的にこちらの世界へ連れてきてしまったこと申し訳なく思っております。ですが、どうか皆様の御力を御貸し頂きたいと思っております」


 到着早々随分と勝手なことを言う。そんなことを思うと同時にカケル達はようやくこれまで感じていた既視感に答えが出た。


「カケル」

「あぁ。間違いねぇ」

「「……」」


 合点がいくと共にカケル達は警戒レベルを引き上げる。

 メルラーク王国。そしてプリム=レット=エスカ=メルラーク。カケル達には聞き覚え、否、見覚えがある国名と人物名であり、カケル達にとっては最も歓迎したくないことだった。


「ここはHGOの世界だな」


 それを聞いてイヤそうな顔をする三人。メルラーク王国にプリム=レット=エスカ=メルラーク。


 四人にとっては絶対に受け入れがたい名前だった。

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