再見/4ー4/勇気ある仲間達

 上海嘉定区しゃんはいかていく。正詠と風音の位置から見て更に西、上海の中央からで北西に位置する場所で、王城と火神楓かがみかえでの二人はいた。


――セレナが戦闘を開始しました。


 王城の視界の隅で、メッセージが音もなく表示される。


「雅也の相手は?」


 先に口を開いたのは楓。


「平和島だ」


 王城は簡潔に答える。

 そして二人は少し見つめ合うと。


「あんたと戦えるの、楽しみにしてたよ」

「俺もだ」


――ノクトが戦闘を開始しました。


 またメッセージが表示される。


「日代だな」

「相手は樹ね。同じ役目同士、良いカードかな」


 ごきりと、フリードリヒは右の指を鳴らした。それを見た楓の相棒鏡花きょうかは、斧……いいや、ハルバードという戦斧せんぷに形状が近い武器を強く握る。そして鏡花は派手な着物の帯を僅かに緩めた。

 間もなく、二人の戦いが始まるのだ。


「けど、ちょっと予想外かな。チームトライデントとして出るかと思ったんだけど」

「俺達よりも強い後輩だった、ただそれだけだ」

「ふぅん。本当にそう思ってる?」

「あぁ。お前はそう思っていないのか?」

「去年は二年が豊作だったけど、今年は微妙でしょ。てか、あんたんとこの二年、ぶっちゃけ弱いでじゃん」

「くく……」


 楓の発言に、王城は思わず笑みを溢す。


「なにさ?」

「いや、すまんな」


――イリーナ、ロビンが戦闘を開始しました。


「若原と間藤」

「風音と高遠だな、はははっ」


 二人の相棒はぎろりと睨み合う。

 フリードリヒは両拳を叩き鳴らし、鏡花は戦斧を構え直す。


「笑ってる理由、教えてよ」

「いいとも」


 じりと、互いに足に力を込める。


「楓。お前は俺達の後輩を弱いと言ったな?」

「そうだけど?」

「それが可笑しくて、ついな」

「はっ、何それ?」


 王城は狂暴な笑みを浮かべつつ。


「チーム太陽はお前みたいなことを言った奴らを……容易く倒してきたからなぁ!!」


 先に仕掛けたのはフリードリヒ。地を蹴り勢いを付け、大きく右の拳を振り上げ打ち込む。その攻撃を余裕を持って躱した鏡花は、反撃の一撃を横に凪ぐ。しかしそれをフリードリヒも避け、また距離を開いた。


「ウォーミングアップだ、フリードリヒ!」

「鏡花、一気に行きな!!」


 互いの攻撃が繰り出される。

 けれどその様子はどこか対称的に見えた。

 フリードリヒの攻撃をしっかりと受け止め反撃する鏡花に対し、フリードリヒは鏡花の攻撃を全て躱し反撃していた。


「ビビってんの、翼!?」

「お前のスキルは面倒だからな」


 鏡花が持つスキル、狂気。これはリベリオンも有しているスキルの一つで、ランクに応じて防御を貫通してダメージを与えるものだ。


「はっ! じゃああんたの決闘を使えばいいじゃん!」

「それはできん。風音が俺を呼び寄せるまで、それは使わないでおきたいからな」

「随分弱気じゃんか、一対一じゃあ私に勝てないと思ってんの!?」

「もう俺はチームトライデントではない。チーム太陽の一員だ」


 フリードリヒの拳が、鏡花の脇腹に入る。その一撃に鏡花は顔を歪め、思わずフリードリヒから距離を取った。


「まずは一撃。お前の相棒の防御は相変わらず低いな。あと何発耐えられる?」

「舐めんな……鏡花!」


――北海道チーム桜花絢爛。スキル、深念。ランクAが発動しました。敵との一対一での戦闘時、防御以外のステータスが上昇し、防御が低下します。このスキルはあらゆるスキル、アビリティの効果を受けず、どのような条件でも無効化されません。また、ランクA以上の場合クリティカルの威力が上昇します。


「ふむ」

「さぁ、本番と行くよ!」


 地面を破壊しながらの鏡花の突進。それをしっかりと両の目で捕らえながら、フリードリヒは見極める。


「ギリギリまで粘れよ、フリードリヒ」


 戦斧が振り上げられ。


「まだだ、まだ……」


 そして振り下ろされるその刹那。


「回避!」


 最低限の動きで攻撃を回避したフリードリヒは、先程と同じ脇腹に箇所に拳を叩き込む。フリードリヒの攻撃と自身の勢いのせいで、鏡花は地面を転がっていった。


「鏡花!?」

「どうした、楓。まさか……の実力で、俺の後輩を弱いなどと言い切ったのか?」

「このっ……!」

「俺程度を倒せないくせにチーム太陽に挑むつもりか、ん?」


 立ち上がった鏡花は、殴られた脇腹を押さえながら、フリードリヒを睨み付ける。


「拳のウォーミングアップは済んだな、フリードリヒ?」


 王城がフリードリヒに語りかけると、フリードリヒはこくりと首肯する。


「よし、では次は剣のウォーミングアップだ」


 フリードリヒは背中の大剣を抜く。


「剣……?」


 楓は今まで飾りと思っていたその剣を抜いた姿を見て、眉間に皺を寄せた。


を言ってな、県大会でも使わなかったが……ここが使い時だ」


 王城の得意分野は、。そしてフリードリヒの得意分野は。校内大会以降使用はしていなかったが、それは変わっていない。


「行くぞ、楓!」


 攻めたのはフリードリヒ。振り下ろされた大剣は風を切り、それを受け止めた鏡花の腕を軋ませ地面を割った。


「こ、の!」

「どうした、弱くなったな!」

「調子に、乗んなよ!!」


 大剣を弾いた鏡花は反撃の一撃をフリードリヒに見舞う。躱し切れなかったフリードリヒはそれを大剣で受け止めたが、彼女のスキルのせいで肩口にダメージを負った。


「狂気Aは80%貫通だったな」

「鏡花! とっておきを見せてやりな!!」


 楓の言葉に頷いた鏡花は、フリードリヒから僅かに距離を取る。


――北海道チーム桜花絢爛。スキル、英雄譚えいゆうたん巴御前ともえごぜん)。ランクAが発動しました。攻撃、機動が上昇し、一時的にスキル『決死の覚悟』が付与されます。

――北海道チーム桜花絢爛。スキル、決死の覚悟。ランクAが発動しました。敵との一対一での戦闘時、攻撃、防御、機動が上昇します。このスキルはあらゆるスキル、アビリティの効果を受けず、どのような条件でも無効化されません。また、ランクA以上の場合一度のみ、戦闘不能になる攻撃にも耐えます。


「お前らしいスキルだな、楓。巴御前ときたか」

「知ってるでしょ? 私が日本史が好きだってこと!」

「知っているさ……!」


 そして二人の相棒の武器が鬩ぎ合った。

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