再見/4ー3/勇気ある仲間達

「ロビン、イチゴを狙え!」


 上海北部では、正詠と風音が戦闘を行っていた。

 相手は、火神樹が予想したように、若原結城と間藤茜の二人。相棒はメトロとイチゴ。

 そして蓮が危惧したように、正詠と風音の間には、言い表せない溝が出来ていた。


「風音先輩、相手にしたら駄目だ! 早くみんなの近くで招集を……!」

「それこそ駄目よ、高遠くん! こいつらはここで潰さないと……!」


 イリーナの槍を受け止めているのは、若原の相棒メトロ。使用している武器はイリーナと同じ槍だが、その使い方は槍術というよりは棍術のそれだった。


「どうしたんだい、風音さん? 随分動きがお粗末じゃあないか」


 石突でイリーナの腹部を突いて、メトロは蹴り飛ばす。メトロはその際、靡いたロングコートを自ら叩いて身なりを整える。


「イリーナ!?」

「間藤! 高遠くんには構わなくていいよ!」

「で、でもぉ!」

「今はして問題ない! ただ矢にだけは注意するんだ、爆発するからね!」

「わかりました!」


 そんなことを言われたロビンだったが、冷静に彼は弓を引き絞る。


「そうだ、ロビン。挑発に乗るな。冷静に、冷静にだ」


 しかし、間藤のイチゴがイリーナと重なったことで、ロビンは矢を射ることができない。


「ちっ……やっぱ上手く戦うな。とにかくここから離れないと駄目か。ロビン、イリーナを抱えて逃げるぞ。俺達じゃフォローしきれない」


 正詠の指示に頷いたロビンは、イリーナの元に駆け寄ろうとしたのだが。


「やめなさい高遠くん! そんなのあいつらの思う壺よ!?」


 走り出したロビンに対し、間藤の相棒が、を使用した。


――北海道チーム桜花絢爛。スキル、トランプゲーム。ランクAが発動しました。選択したカードにより様々な効果を得られます。


「これに決めた!」


 間藤がイチゴの前に浮かび上がった裏返っているトランプの一つを選ぶと、手品師のような容姿をしたイチゴがそれを杖で突いた。


――スキル、トランプゲーム。ダイヤのファイブが選択されました。相手全体に自属性で五連続の魔法攻撃を行います。


 アナウンスと共に、正詠達の頭上から黒い槍のようなものが五本降ってくる。

 それらをぎりぎり二人は躱したものの、爆発が起きて二人の相棒は吹き飛んだ。


「きゃあ!」

「くそっ!」


 そしてロビンとイリーナが態勢を整えるその直前に。


「行くぞ間藤! 高遠くんを潰すなら今だ!!」

「はい!」


 弓を引く間もないロビンは、何とか逃げようとしたのだが。


「間藤!」

「イチゴビーーーム!!」


 イチゴが杖の先をロビンに向けると、そこから光線が発射されロビンの右膝を射抜く。


「ロビン、速攻を使って逃げろ!」


――千葉県チーム太陽。スキル、速攻。スキルが使用できません。


「あっ……!」


 そう。これは現実に類比するゲーム。自身の機動を上昇させるスキルとは言え、それは足が使えなければ無意味だ。普段の正詠ならこのようなことにも気付いたろうが、焦りから判断を誤った。


「取った……!」


 メトロが槍を突き刺そうとしたその刹那。


――千葉県チーム太陽。スキル、疾風迅雷。ランクCが発動しました。自身の攻撃が優先されます。


 ロビンの目の前にイリーナが現れ、メトロを吹き飛ばした。


「イリーナ、もう一人!」


 ついでとでも言うように、イリーナはイチゴを蹴り飛ばした。


の後輩を、簡単に取らせると思って?」


 イリーナはロビンの前に立ちつつ、横目でちらりと彼を見る。


「晴野の後輩、か」


 メトロは自分の衣服の埃を払いながら、再び槍を構えた。


「残念で仕方ないよ。そう思わないかい、風音さん?」

「何が?」

「はっきり言って未熟だ。言葉を選ばず言えば、

「……彼はスロースターターなのよ」

「へぇ! 良いことを聞いたよ。じゃあ早めに潰せばいいってことだよね?」


――北海道チーム桜花絢爛。スキル、トランプゲーム。ランクAが発動しました。選択したカードにより様々な効果を得られます。


「高遠くん! 間藤さんをすぐに牽制して!」

「駄目です、!」

「そりゃ見付けられないさ……間藤はかくれんぼが得意だからね」


――スキル、トランプゲーム。ハートのクイーンが選択されました。一定時間ハートの女王が出現し、スキル使用者の指示によって行動します。


 そのアナウンスと共に現れたのは、太った背の低い女王だった。目は血走り、両手には鋏を持ちしきりに刃を擦り合わせている。


「やっと当たりを引いたか、間藤のやつ」


 鋏を舌でべろりと舐めるその姿に、正詠とロビンは居ても立ってもいられない悪心に襲われた。


「高遠くん、私は距離を取りながら戦うわ。だから出来る限りフォローを……」

「駄目です、逃げましょう。俺を守ってたら、風音先輩も晴野部長と同じように……!」

「高遠くん!?」

「逃げなきゃ駄目だ! 逃げて、みんなと合流して、それから……それから……!」


――スキル、柯会之盟。ランクBが発動しています。盟約設定に反した行動と判断されました。ロビンにバッドステータス、恐怖が短時間付与されます。

――千葉県チーム太陽。ロビン、バッドステータス。恐怖。一時的に防御が低下し、攻撃命中率が低下します。


「ロビ、ン?」


 あぁなるほど。と、風音は気付いてしまった。


「逃げるんだ、逃げろロビン!」


 足を震わせるロビンを見て、風音はぎゅっと唇を噛む。


「(まだトラウマのままなのね。前の試合を引きずっている訳ではなかった。彼はきっと……)」


 正詠はロビンの頬を叩きながら逃げるよう叫び続ける。


「(と二人きりになるのが、まだ怖いのね)」


 風音はイリーナを見て、にっこりと微笑んだ。それを横目で見たイリーナは、彼女と同じように微笑み頷く。


「いいわ、高遠くん。よぉく見ておきなさいな。チームトライデント一番槍の、この背中を!!」


 イリーナは地を蹴り、メトロとハートの女王に向かった。

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