悪逆/3-3
「あの……バカッ!」
そして正詠は僕を見て、口を開いた。
「太陽! リベリオンは任せたぞ!」
「テラス! 任されたぞ!」
僕の掛け声にテラスは頷いて刀を構え直し、僕と正詠と共に、ロビンを追いかけるようにリベリオンへと向かった。
「ぶっ殺ぉぉぉぉぉぉす!!」
巨大な槍と化した触手がテラスとロビンに向けて放たれる中。
「ロビン!! 俺だってこいつをぶっ殺したい! だがな、それでお前が消えるならぶん殴るだけでいい!」
――こいつは殺す!!
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!! 調子に乗るなよぉぉぉぉ!! ロビィィィィィン!!」
リベリオンは初めてはっきりと、名前を呼んだ。
「ギャハハハハッハハハハッ!!」
あと少しでその触手がロビンに接触する刹那。
――バディクラウドより、審議結果を通達。相棒ロビンと高遠正詠の感覚共有を許可。適用開始。
こんなときに。こんなタイミングで。アナウンスは正詠とロビンの感覚共有を許可した。
「止めろテラァァァァァス!!」
あんなのマトモに喰らったら、いくらなんでもやばすぎる!
「良かったなぁロビン!? テメェの無謀のせいでクソガキ共々おさらばだぁぁぁぁぁ!!」
――バディクラウドより、相棒ロビンへ天之麻迦古弓を貸与。また、メッセージを通達する。
――守るために、傷付かなくともよい。戦うために、狂わなくともよい。救うために、失わなくともよい。我々は、それを望まない。努、忘れるな。
ロビンの手の中に、輝く弓が現れた。
「何をやってももう遅ぇ!! くたばれロビン!!」
狂暴な笑みはそのままに、リベリオンは叫ぶが。
「ルーラーよりバディクラウドへ厳命! リベリオンの全行動を限定停止! やりなさい!」
――ルーラーからの厳命を受諾。相棒リベリオンの全行動を限定停止。時間は、三秒。
ぴたりとリベリオンの動きが止まる。
「あ……?」
「ロビン!! あなたは正詠くんの相棒でしょう!? あなたの武器は拳ではありません!」
懐かしい、声だった。
「私は! 彼の笑顔をこれ以上奪われたくない! 弓を引きなさい、ロビン!!」
その声は、テラスから発せられていた。
「ロビン! 弓を引け!」
ロビンは正詠の言葉のままに弓を引く。輝く弓の弦を引ききると、自然と光の矢が番えられた。
「ふざけっ……! こんなの……こんなのずりぃだろぉがぁぁぁぁぁ!!」
「ロビン! お前を信じてくれた人達の力だ! 殺すな!!」
――左、腕だった!! お前が踊遊鬼のマスターから奪ったのは左腕だったな!!
ロビンは叫びながら、矢を射る。それは虹色に輝く尾を引きながら、リベリオンの左腕全てを穿つ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
どさりと、リベリオンは倒れた。
「俺はぁぁぁぁぁ! お前達の神に、神になるんだぞぉぉぉぉぉ!? こんなことが、あって、たま……!!」
――バディクラウドより通達。相棒リベリオン、戦闘続行を不可能と判断。強制転送を行います。
「ふざけやがって! 必ず、必ずもう一度殺しに来てやるからな!! ロビン……テメェは! 俺が! ぶっ殺す!!」
不吉な言葉を発しつつ、リベリオンの体は徐々に光に飲まれていった。
「そんでテメェら全員、ぶち殺す! 俺を……俺を見下しやがって……!」
そしてリベリオンは消えた。
場には嫌な空気が残り、ぱらぱらというロビンの氷の鎧が砕ける音がしていた。
「テラス?」
テラスの名前を呼ぶと、テラスはゆっくりと振り向いた。その瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。
「なぁテラス、あの声は……なんだったんだ?」
――今は話せません。けれどいつか……私が、無力な私を許せる日が来たのなら、きっと話します。
その涙を乱暴に拭うと、テラスはロビンに歩み寄った。
正詠はふわりとロビンに移動すると、強くロビンを睨み付け口を開いた。
「ロビン……」
ロビンは正詠の言葉に、顔を辛そうに歪めメッセージを表示する。
――殺す、つもりでした。自分も、あいつも。それだというのに、あなたは殺すことを許さなかった。マスター……私はあなた方人間がとても恐ろしい。
ロビンは輝く弓を見つめ、呟く。
――これほどの激情を持ちながら、何故あなたは殺さない選択を取れるのですか? こんなにも……真っ黒で、汚ならしく、醜い感情を持っていながら……何故あなたは……。
「おいクソガキ」
乱暴に呼び掛けたのは蓮だ。ロビンが振り向くと、ノクトはロビン以上に辛そうな表情をしていた。
「優等生は……正詠はただ、お前に消えてほしくなかっただけだ。世界最高のAIがそれぐらいわからんでどうするってんだ。クソかよ」
ノクトは表情を変えぬままに、ロビンの肩を叩いた。
「テメェもだ、正詠。一人で何でも背負った気になってんじゃねぇぞ。俺達を勝手に見下すな。俺達は、俺達の意思でジャスティスに会うって決めたんだ。どんな状況でもな、テメェが晴野の仇を取りたいって言うなら俺はそれを拒否なんかしねぇ。それはこいつらも同じだ。それを……忘れんなよ」
蓮が半分悲しそうにそう言うと、ぱちぱちと乾いた拍手の音が響いた。
その音が、僕にとっては……いいや、もしかしたら、ここにいる僕ら全員にとっては不快だということに、その音を出した本人は気付かなかったことだろう。
「素晴らしい……」
その拍手と共に、ゆっくりとジャスティスは空から舞い降りた。
「まさかバディクラウドまで味方に付けるとは……」
そんなジャスティスに、テラスは急に斬りかかる。それを剣を抜きジャスティスは軽く防いだ。
「おや、どうしたのかな?」
「テラス!?」
――私のマスターと仲間を危険に晒したな!
無音で表示されたメッセージは、リベリオンに向けた怒りとはまた違うものだった。
「君達のためさ。これからまた地区大会もある。そこで邪魔をされたくないだろう? それに君の仲間も望んでいたじゃないか、リベリオンに会うことを」
さらりとジャスティスは言いながら、テラスの刀を弾いた。そんなジャスティスの言動や行動に、言い表せない苛立ちが沸く。
「他にもやり方はあったんじゃねぇのか、ジャスティスさんよぉ?」
テラスと同じ気持ちなのは蓮もらしく、ジャスティスを厳しく睨み付けていた。
「すまなかったとは思っている。しかし、結果として……」
「結果とか、そんなことじゃありません!」
ジャスティスの言葉を遮り、透子は声を荒げた。
「私達を……私達の相棒を、便利な道具のように思っているあなたに腹が立っているんです!」
その言葉を聞いて、僕は何故ジャスティスに苛立ちを覚えたかはっきりとわかった。
「二度と……二度とこんなことしないでください!」
「違うよ、平和島くん。私はそのようなこと思っては……」
「うるせぇ。テメェも結局はパーフィディ達と同じなんだろうが。相棒を道具のように利用して、自分達の望みを叶えたいだけだ」
「違う、私は……!」
「失せろ。テメェをちょっとでも味方だと思った俺達が馬鹿だった」
蓮の言葉でノクトはテラスの肩を引き鍔迫り合いをやめさせると、乱暴にジャスティスの肩を押した。
「……今は失礼する。しかし、私達は決して相棒を道具のように扱うつもりはないし、君達も大切に思っている。それは忘れないでほしい……」
ジャスティスはちらりとテラスを見て、姿を消した。
「俺達もログアウトしよう……今日は疲れた」
疲弊した正詠の言葉に、僕らは頷いた。
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