悪逆/3

 異常な、光景だった。

 今までのことがまるで嘘のように思えてしまうほどに、僕らはそれをじっと眺めていた。


「なぁ、あれってどうなってんだよ……」


 近くにいる遥香に聞いてみたが、「そんなのわかんないよ……」と遥香は小さく返した。

 いつの間にか警告音は消えていて、ロビンとリベリオンは互いに〝吠えながら〟戦っていた。


「ザコ相棒如きがぁぁぁぁぁぁ!!」


 リベリオンの攻撃を受け流すこともせず真正面から受け止め、反撃の拳を叩き込む。


「あぁぁぁぁぁぁあ!! 痛ぇ痛ぇぇぇぇぇ!! また、ゴッドタイプの差し金かぁぁぁぁぁぁ!!」


 めきりと、何かが砕ける音がすると透子は目を背けながら、蓮の胸に顔を埋めた。


「おい、太陽。お前のテラスがなんかしたのか?」


 蓮の質問に、僕はテラスを見た。

 テラスは首を振り、辛そうにロビンとリベリオンを見つめていた。


「テラス……何か、知っているか?」


 僕の問いかけに、テラスははらりと涙を流して僕を見た。


――泣いて……います。


 テラスからのメッセージが表示された。


――ロビンが、泣いています。


 僕らはまたロビンを見た。

 ロビンはリベリオンとの攻防を繰り返している。


――マスター。ロビンは今、泣いています。


 ロビンからテラスへと目線をずらすと、テラスも泣いていた。


――彼は……自分の存在を懸けて、リベリオンを〝殺そう〟としていんです。


 それを聞いて、僕らが黙っていられるだろうか。


「テラス……止めるぞ」


 僕がテラスに語りかけると同時に、蓮と遥香も頷く。


「王城先輩、透子を頼む」


 蓮は透子の頭を軽く撫で、すぐにノクトに目を向ける。


「ノクト、行くぞ。優等生の相棒を助ける」


 ノクトは首を縦に振り、剣を構えた。


「リリィ、私達は正詠のところに行くよ」


 リリィは両拳を鳴らす。

 合図らしきものはなかった。テラスとノクトが同時にロビンに向かい、リリィが正詠の元に向かう。

 しかしすぐに、僕らは思い知らされる。ロビンはもう、僕らが知っている存在ではなかったということに。


――触るなぁぁぁぁぁぁ!!


 ロビンはリリィへと突進してきた。


――私のマスターに触れるな! 守れもしないくせに! 失う覚悟も、戦う覚悟もない者が! 私のマスターに触れるなぁぁぁ!!


 リリィの足元は一瞬で凍り付き、動きが止まる。そんな彼女をロビンは殴り付ける。


「リリィ!」

「あの野郎っ!」


 ノクトはすぐに踵を返し、ロビンへと大剣を振るう。だが、ロビンはそれを軽で弾き、ノクトの腹部へと拳を叩き込む。


――あなた達の助けなど、もういらない! 私は、私は一人で! マスターを助ける! リベリオンをころ、こ……あぁぁぁぁぁぁ殺ぉぉぉぉす!


「テラス、戻って二人の援護を……!」


 テラスの肩を強く叩くが、テラスは言うことを聞かずにリベリオンへと向かった。


――ロビンの怒りはリベリオンが元凶です! リベリオンを倒せば……!


「戻れ!」


 耳元で叫ぶと、テラスは足を止めた。


「そうじゃないんだ!」


――何故誰も理解しない! 何故誰もマスターを救わなかった! 何故……殺してでも! 助けようとしない!?


 頭を抱えながら、ロビンは涙を流しみんなを睨み付けた。


――何も……知らないくせに! 人間は、いつも勝手で!


 ぱきりぱきりと、彼の体の周囲が凍り付いていく。


――私の気持ちを……何も知らないくせに!!


 怒りに支配されたロビンは、〝心〟のままに怒りを叫ぶ。


――私は……俺はぁ! 守りたいだけなのに! 助けたいだけなのに! 否定するのなら、すれば良い! 俺はそれでも、この道を取る!


 狂気にも似た、一途な優しさ。もうこれしかないのなら。どうしようもないのなら。それならば……自分一人が〝壊れる〟道を取る。

 言葉にせずともその目が語る。やっぱりこいつは、正詠の相棒だ。こいつらはほんっとにいつもいつも……!


「テラス! いつもと同じだ! ロビンをぶん殴ってリベリオンを倒……」


――バディクラウドより通達。審議継続中。しかし途中経過の採決により、相棒リベリオンの〝人間〟属性の剥奪を決定する。

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