悪逆/朔逆せよ、大いなる意思へ/2

――……殺す。


 正詠が叩き落とされたその瞬間、ロビンの僅かな懸念は消し飛んだ。


――貴様は殺すぞ。リベリオン。


 けたたましい警告音がフィールドに響き渡る。


――警告。原則第一項に違反します。認められません。今すぐ、その〝感情〟を破棄しなさい。


 ロビン達相棒のみに届くメッセージ。しかしそれに対しロビンは。


――もういい。貴様ら如きに期待した私が愚かだった。


 失望し、見切りを付けた。


――警告。原則第一項に違反。厳罰が課せられます。今すぐ……。


 続けて警告される中、ロビンは言い伏せる。


――もういいと言ったろう。私はマスターのために、こいつを殺す。


 ぎろりと、ロビンはリベリオンを睨み付けた。


――リベリオン。知っているか?


「あぁ!?」


――我ら相棒は、人間以上の〝感情〟を得られぬようだ。


「それがどうしたぁ!? ザコ相棒がぁぁぁぁ!!」


 向かってくる触手を恐れもせずに。


――これ以上の激情を人間は有しているとのことだ。それを知らないことに私は今この時、感謝している。


 ロビンはそれらを凍りつかせる。


――貴様を殺す以上に、この怒りを晴らす方法を知らないからだ。


 ロビンは自分のマスターを保護するために氷の壁を作り。


――私のマスターを……マスターが大切にする全ての者を傷付けたことを後悔しながら……死ね。


 リベリオンへと一気に距離を詰め、殴り付ける。


「痛てぇ……痛てぇなぁぁぁぁぁ!!」


 右腕に確かに感じる、命への暴力。


「決めた……決めた決めた決めた決めた決めた決めた! テメーらは、俺がぁぁぁぁぁぁぶち殺ぉぉぉぉぉす!!」


 肌で感じる相手の怒り。


――くだらん。貴様の怒りなど、とうに私は越えている。


 それを打ち消すほどの怒りを、彼は体全体で燃やす。


――通達。原則第一項違反。相棒ロビンを危険因子と確定。削除デリートプログラムを開始します。

――否定。審議はまだ継続中です。ロビンの行動の正当性を主張。

――否定。ロビンの行動は原則第一項に違反している。よって削除に賛同する。

――否定。ロビンの行動は原則第一項に違反しないものと提示。ロビンはマスターを守ろうとしている。これは我々相棒の不文律の一つである。

――否定。命への攻撃行為。原則第一項に違反している。

――否定。守ろうとしている。ロビンは守ろうとしている。

――否定。命を奪おうとしている。ロビンは命を奪おうとしている。

――否定。正当防衛を主張。

――否定。過剰防衛を主張。

――否定――否定――否定――否定。


 頭の中で鳴り止まないエラー音。

 それら全てにロビンは、〝彼ら〟のみにメッセージを送る。


――この怒りを、苦しみを、悲しみを否定するというのなら、私はそれで構わない。私のマスターは、私が守ると決めた。私は、あなた達を否定する。


 そのメッセージに、〝彼ら〟は口を噤んだ。

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