情報熟練者/5
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
「……おい」
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
「おい、太陽」
ごっくん。
「お……」
「よっしゃ、気合も腹も満たされたな。試合はいつからだっけか?」
ぽんと腹を鳴らすと、平和島が笑った。
「天広君らしいね」
そして僕は気付いたのだ。決勝戦前までに解消したいことがあることに。
「なぁ、平和島。お互いさ、苗字呼びはやめないか?」
ベンチから立ち上がり、体を大きく伸ばす。
「僕はこれから平和島のことは透子って呼ぶ。日代のことは蓮って呼ぶ。だから二人もそうしてくれよ」
こんなにも二人がいて居心地が良いのに、いつまでも他人行儀は嫌だった。正詠と遥香、幼馴染といるような安心感がこの二人にはある。何でだろうと瞬間考えたが、それも当然かと思い至る。一緒に同じ目標に向かって、戦い、励まし合い、喧嘩してここまで来たんだ。それもぎゅっと濃縮したような事件もあったのだから。
「いいだろ、透子、蓮」
「うん、太陽君」
「けっ。お前は……太陽は言ったら曲げねぇ奴だからな」
そんな透子と蓮を見て、正詠と遥香は似たような笑みを浮かべていた。
「勿論俺たちのことも名前で呼べよ、蓮、透子」
「けっ。優等生がらしくねぇこと言ってんじゃねぇよ」
「もう蓮ちゃんたら……正詠君に対してだけは素直じゃないんだから」
悪態をつく蓮が、何か可愛らしく僕は彼と肩を組んだ。
「やめろ馬鹿!」
「おーおー素行不良もどきが照れてら」
「うるせー馬鹿共!」
みんな笑いながら肩を組み始めた。それは僕らの相棒も同じだった。ノクトをからかいながら、テラス、リリィ、セレナ、ロビンで肩を組む。
『さぁ間もなく校内バディタクティクス大会の決勝戦の準備が始まりますよー!』
海藤の底抜けに明るい声がディスプレイから聞こえた。その声で、僕らの顔色はすぐに緊張に染まった。
「太陽……私、少し怖いかも」
遥香の声が震えている。
「私も、少し怖いです」
その震えは透子にも伝播する。
僕も正詠も蓮も何も言わないが、怖くないわけじゃあない。あんな戦い方をする王城先輩達とこれから戦わないといけないんだ。むしろ、男としてこの恐怖を押し殺すことに〝必死〟なのだ。
ぴこん。
我ら、チーム・太陽!
ばーん! というSEがして、僕らは各々の相棒を見た。
私は天広太陽の相棒です! 仲間を誰よりも愛し、頼り、戦います!
行こうよ、
大丈夫、あなたの作戦を我々はキッチリこなす。信久や美千代を見返しましょう!
俺はあんたと同じだ。仲間を守る。前に立って、戦う。信じろ、俺を!
行きましょう、
そんな恐れを、僕らの相棒は真正面から受け止め、励ましてくれる。戦うのは自分たちだというのに、そんな自分たちは恐れを口にすらせずに。僕らを、大切に思っているというのが、ひしひしと伝わってくる。
「なぁ、僕らの相棒ってさ、控えめに言って……最高じゃね?」
そんなことを僕が口にすると、みんなが肩を揺らして笑い始める。
「行くぜ、チーム・太陽! 僕らは最後まで
「あぁ!」
「うん!」
「おう!」
「はい!」
相変わらず揃わない返事が、とても心地良かった。
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