情報熟練者/3

 王城先輩の試合観戦後、僕らはホトホトラビットで集まった。

 全員の顔が暗いせいか、おっちゃんは首を傾げていた。


「正詠。王城先輩っていつもあんなか?」

「いいや。あそこまでひどくはなかった。というより……」


 正詠は迷うように紅茶を口に運んだ。そしてその続きを話したのは日代だった。


「俺達に対する見せしめだろうな、ありゃあ」


 正詠は日代の言葉に何とも言えない表情を作っていた。


「リリィがあんな風にされるなんて、私絶対嫌だからね!」


 遥香はまだ目元が赤く腫れていた。


「私だって……セレナがあんなことされたら……」


 重い沈黙が訪れた。

 僕はため息をついておっちゃんが淹れてくれた紅茶を飲む。紅茶はいつもより苦く感じ、あまり美味しくはなかった。

 ふと机の上にいるテラスに視線を向けると、相棒全員で謎のポーズを取っていた。


「ぶふぉっ!」

「きったねぇなぁ」


 日代が紙ナプキンを手に取ったので、それを奪うようにして口に当てた。


「いやっ! げふっ! ちょっ、机、僕達の相棒を見ろって!」


 皆が視線を机に向けると、それぞれがリアクションを取った。

 遥香はスマホで写真を撮り、平和島は優しく見つめ、正詠はため息をつきながらも微笑み、日代は呆れるようにため息をついていた。


「お前ら、それなんだよ?」


 ぴこん。

 我ら、チーム・太陽!

 きらりん、というSEとばーん、というSEが鳴った。


「もうなんなのこの子達、超可愛い!」

「遥香ちゃん後で写真送って!」


 さすが女子。切り替えの早さが尋常じゃない。


「あのね、テラスさん。僕ら結構深刻な話をして……」


 ぴこん。

 負けません!


「え?」


 みんなの相棒は、それぞれ相棒マスターと向き合っていた。

 ぴこん。

 フェリミナもブラウンもよく耐えました。特にブラウンは、決して諦めようとしませんでした。彼は意識を失おうとも、決して……決して諦めなかった!


「テラス、お前……」


 彼は泣いていました。もう殴らないでくれと。それなのに相棒マスターが耐えてくれ、仲間が来るからと叫んだことで、フリードリヒに言ったんです。『お前なんかに、僕らの誇りは渡さない!』と。

 テラスの瞳に涙が浮かんでいた。


「なぁみんな……」

「わかってる」

「おう」

「大丈夫!」

「うん!」


 ぴこん。

 我ら、チーム・太陽!

 再びテラス達はポーズを取った。


「それじゃあ決勝戦の対策を練るぞ、いいな?」


 正詠の一言に、僕らは頷いた。




 ホトホトラビットでの作戦会議後、僕らはそれぞれ帰路についた。家に戻ると、夕食はやたらと豪華だった。


「うわ何これ。父さん臨時ボーナスでも出たの?」

「何言ってんの。昨日愛華から聞いたわよ。あんたバディタクティクスだかで準決勝勝ったんでしょ?」

「いやそうだけどさ、優勝したわけでもないのに」

「いいのよ。子供が頑張ったんだもの。応援したいのが親ってもんよ。早く着替えてきなさい」

「はーい」


 部屋に戻ってささっと着替えを済ませてまた居間に戻る。


「にぃ、来週応援に行くからね!」

「決勝戦は土曜日らしいし、私もお父さんも行くからね」

「うむ」


 愛華を始め、父と母は食事を始めていた。


「だから何でいつも僕を待たないんだよ! 僕のお祝いなんじゃないの!?」

「そうだけど?」


 母はエビフライを口に運んだ。


「ほらさっさと座りなさい」

「もうなんなのぉ……」


 椅子に座って、僕も夕食を食べ始めた。

 テラスは机に降りるときょろきょろと周りを見渡し、やがて僕をじっと見つめる。


「時折あんたの相棒変な行動取るわよね。なんなの?」

「あぁ……たぶんテラスも欲しいんだよ。こいついつものご飯は欲しがらないくせに、こういうときは欲しがるんだ」

「あらあら、あんたにそっくりじゃない。で、どれぐらいあげればいい?」

「えっと……お供えみたいなもんだしそんなに沢山は……」

「ふーん」


 母は味噌汁を一口飲むと、立ち上がって小皿を持ってきた。それは桜を模した花びらが散らされている美しい小皿だ。


「うちにこんなのあったんだ」

「客用だけどね。あんたのテラスには似合うんじゃない?」


 エビフライ、から揚げ、柴漬け、それとブロッコリー、小さいものを綺麗に取り分けた。


「ほらテラス。来週は頑張るのよ?」


 文句なしの満面の笑みを浮かべて、テラスは喜んだ。母の肩にいる妖精のような相棒は、羨ましそうにテラスを見ている。


「なぁに? あんたも欲しいの?」


 母の相棒は遠慮気味に頷いた。そして母はまた立ち上がって二つ小皿を持って、そこにテラスと同じぐらいの量を盛って、机に置いた。


「お父さんの相棒にもね」


 我が天広家の食卓は、いつの間にか七人分になっていた。机の上ではテラスと両親の相棒が楽しそうに歓談しながら食べ物を囲み、僕ら家族は来週のバディタクティクスについて話した。

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