第七章 乗り越えるべき試練

試練/1

 木々のさざめきが、僅かな足音を消していた。しかし、獣のような息遣いははっきりと聞こえる矛盾。


――いいか太陽。お前は出来る限り目立って逃げろ。


 小枝を踏んで、周りを探る動作は大げさに音を立てながら。泥濘ぬかるみを歩き軌跡を残し、出来うる限り敵を誘う。


――攻撃を仕掛けられたら、スキルを使え。そうすれば俺たちの勝ちだ。


 ただ幼馴染の言葉を信じて。

 僕とテラスは大げさに逃走劇を演じていた。

 ぴりぴりとした殺気が漂っているのに、〝敵〟は一切攻撃を仕掛けてこない不気味。何度も大きな隙を見せているのに、何故誰も攻撃を仕掛けない? 何故張り詰めた殺気を放っているのに、〝仕掛けてこない〟?

 慎重か? 恐怖か? それとも驕りか?

 そのどれでもない。どの殺気を放つ者も、今か今かと機会を伺っている。武器を掴み、あと僅かなきっかけで全員が一斉に襲い掛かってくるというのに。

 それなのに、彼らは一切〝仕掛けてこない”。来る、と思った瞬間でも……仕留められるその瞬間でも、絶対に仕掛けてこない。逆に緊張しすぎで吐き出しそうになる。


「テラス、耐えられるか?」


 何度目かの殺気を感じ取り、僕はテラスに話しかける。テラスは細く息を吐きながら、彼女は笑みを向けた。

 大丈夫。

 その笑みは、相手を気遣う優しい笑みだ。

 この笑顔は知っている。自分の気持ちも何もかもを包み隠して向ける笑みだ。


「テラス。頼むからその顔はやめてくれないか」


 辛くなるんだ。悲しくて、苦しくて……愛しすぎて胸が苦しくなるから。

 テラスは不思議そうに首を傾げたが、少しして無理矢理納得したのか首を縦に振った。


「良い子だ」


 がさり。

 何度目かの相手の行動。しかし、今までとは違う。


――スキル、応援。ランクAが発動しました。リーダー・トウマの攻撃力を上昇させます。

――スキル、応援。ランクBが発動しました。リーダー・トウマの攻撃力を上昇させます。

――スキル、応援。ランクCが発動しました。リーダー・トウマの攻撃力を上昇させます。

――スキル、先手必勝。ランクAが発動しました。初手をトウマから仕掛けたことで、トウマの攻撃力が上昇し、防御力が低下します。

――スキル、一騎当千。ランクCが発動しました。スキル発動者以外が攻撃をしていないため攻撃力を上昇します。


「取ったりぃぃぃぃぃ! チーム太陽!」


――攻撃を仕掛けられたら、スキルを使え。そうすれば俺たちの勝ちだ。


 正詠の作戦を遂行しなくて何が仲間か!


「テラス、招集!」


――スキル、招集。ランクEXが発動しました。ロビン、リリィ、ノクト、セレナをリーダー・テラスの近くに呼び出します。


 我らチーム太陽のメンバー全員が揃う。


「セレナ、ガートアップ!」


 平和島の援護アビリティがノクトのステータスを上昇させる。


「ノクト、守れ!」


――スキル、守護。ランクCが発動しました。自相棒の超近距離にいる味方を対象、もしくは対象に含む攻撃を代わりに受けます。


 ノクトは僕のテラスに向けられた攻撃を受け止めて、相手をぎろりと睨み付けた。


「こんなもんかよ、柔道部大将?」


 がっしりと攻撃を受け止めたノクトは、返しの刃で相手に斬り付けた。


「ノクト、バスター!」


 日代の攻撃に続き、全員で勝負を仕掛ける。


「ロビン、ブロークン!」

「リリィ、臥王拳がおうけん!」

「テラス、一刀いっとう!」

「セレナ、アクアブラスト!」


 日代の攻撃が当たったことで相手の態勢が崩れる。その隙に、前回も大活躍したアビリティを打ち込んでいった。


――トウマ、戦闘不能。よって、チーム・太陽の勝利です。


 あまりにもあっさりと、勝負はついた。


「本当に勝っちまった……」


 フルダイブから戻り、ヘルメットを外した。

 正詠を見ると緊張がまだ残る笑みを僕に向けている。


『準決勝に駒を進めたのはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 渾身の情報初心者ビギナーチーム……太陽ぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


 わぁっと歓声が沸いた。

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