alcohol-24 一番会いたくない人
「保さん、時間早いですけど飲みに行きません?」
「今からですか?」
「はい!今日とっても勉強になったので、お礼です」
巨大な交差点の、信号待ちをする人々の後ろに並んで溶け込んだ。
カレンダーはもう秋の絵なのに、まだまだ夏が我が物顔でそこにいる。前に立つ人も、横に見える人も自然と眉間にシワが寄ってしまうような、蒸し暑い夕方だった。
赤から青へと変わった信号を合図に、一斉に動き出した人々の波に、私たちも押されるように歩き出す。
スクランブル交差点の人波は、互いにぶつからないようにうまく流れる。
縫うように、避けるように歩き出したその瞬間、二人組のサラリーマンの隙間に見覚えのある顔が見えた。
回りの雑音が一気に消える。
縮まっていく距離と、思わず止まる足。
「雫さん?」
少し前に進んでいた保さんは不思議そうに振り返り、私の視線の先を探る。すぐに彼も見覚えのある顔に気付き足を止めた。
こんなにも人がいるのに、見つけてしまうなんて。
会いたくて、会いたくない。
会いたくなくて、会いたい。
いざ目に映るとこんなにも戸惑うものなのかと思った。
「……かしわ……」
けれど、思い切って名前を呼ぼうとあげた声は喉の奥に隠れて消える。
――柏木の隣を歩く、綺麗な女の人の姿が目に飛び込んできたから。
並んで歩くその人に微笑みかける柏木は、私と一緒にいるときよりも穏やかに見える。
一秒だって見たくないその光景に背中を向けた私は、信号の青が点滅する中、今来たばかりの道を慌てて引き返した。
「……雫さん!」
「……高松?!」
声を聞いた途端、震えた足。
そんな頼りない足で逃げ切れるのだろうか。
見たくなかった。
会いたくなんかなかった。
彼の新しい恋になんか、会いたくなかった。
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