80.烏鷺
本来は潮風が吹いていたであろう湘南の海辺には、今はそよ風一つおこらない。
死の牢獄として鎖された今の湘南に吹くのは、命を風化させる死の風のみだった。
「…………はぁーあ」
【
その場所は大きなクレーターのようになっており、窪んだその地形の全てが崩壊し、塵と化している。
「…………何をこんなところで黄昏ているんだ、お前は」
ドス、ドス、ドス、と砂丘のようになった地形の上を音を立てて歩みながら近づくのは、最古の
巨漢なる死神、【
「…………中々派手にやったもんだな。あの毒々娘はそうそうまともには戦わんだろうとは思っていたが、この様子だと大規模に【
「………………」
そんな同期の言葉にも【
「それで、毒々娘──【
「逃げられた」
ボソリ、と【
「…………もう一回いってくれ」
「…………逃ゲラレ、タンデス」
ぎこちなく口を動かし、冥府の破壊者は無表情に繰り返す。
「お前という女は…………」
ふううううぅぅぅぅ、と大きく大きく嘆息して。
【
「役立たず」
「うるしゃいっ!!」
途端に立ち上がり、大声で【
「あんのクソガキがあそこまで姑息で卑劣な性悪だとは思わなかっただーけーよっ! 変わり身の術みたいな影分身の術みたいな事しちゃって! 死神じゃなくて忍者っていうのよあれは! 大体何よあの冗談みたいな回帰の速度と効率! 壊しても壊してもキリがないったら!」
「まあ、大前提として
ただでさえ機嫌が悪いであろうところに【
「偉っそうに言ってくれてるけれど貴方の方はどうなのかしら? 【
と、そこまで言われたところで【
音と砂塵を立てて、球状のソレはゴロリと転がり止まる。
ボール、などでは勿論なく。
【
そう呼称される少女
の、頭部だった。
その頚元は乱雑に螺切られており、無惨な断裂面を覗かせている。
「Oh…………容赦ないわね。よくそれで他人に大人気ないなんて言えたものだわ」
【
「確かに容赦はしなかった──実際、そんなことをする程暢気な戦いにはならなかったんでな。そこそこ手こずらされた。最近の中では一番骨があったかもしれん」
【
「へー、貴方を手こずらせるってなれば相当ね…………まあ、それはともかくとして。もう一人、
「…………【
「どうもりっくん──【
「なるほど。確かにそれは御愁傷様だ。どんな結果になれど、な」
「二人の性格的にも実力的にも、なあなあでお開きってワケにもいかないでしょうしね………二人とも根が真面目だから」
【
「なにより【
「ええ。一つだけは断言出来る」
始源の死神達は声を揃えて一大決戦の結末を予見する。
「「──直ぐに終わる」」
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲
ガガガガガガ、と耳をつんざく熾烈な不協和音が響き渡る。
常人では視認することさえ不可能な両者の打ち合いは、ただ音だけを空間に置き去りにして繰り広げられていく。
「ム…………」
「くっ…………!」
【
「勝負になっちゃいねぇな。お互いに」
「そのようで」
【
両者のぶつかり合いは一見激しく見えて、その実は膠着状態に陥っていた。
「こ、のっ…………【
【
「させませんとも」
「ぐっ!」
即座に【
「やっぱムリか、畜生が」
「ほほ、しかしそれもまたお互い様でしょう」
【
【
無論、5秒も10秒もかかるワケではないが──それでも数秒は要る。
その「数秒」は、この二人の
(互いに【
戦闘に突入してから未だ3分の時間も経ってはいないのだが、時を越えて火花を散らし合った両者は、まるで数時間もの死闘を繰り広げたような実感を得ていた。
そして、それは単なる錯覚とも言い難い。それぞれの【
(ただでさえ上等な回帰速度を誇っておきながら、【
──自身を対象に【
が、【
(【
若人が思案を巡らせている間、老練な
(ほほ。それなりに鍔迫り合いましたが、いやはや流石の手並み。地力の差がなければ機能しづらい【
一方、
「やるしかない、な」
目を瞑り、自身の奥底へと意識を集中させる。
「ほう──乾坤一擲、ですかな? 以外ですな。慎重な方だと伺っていたのですが」
「そうありたいと思ってたんだがな…………バカの影響を受けたのかもしれん」
そう呟く
「このままジリジリやりあっててもまともな勝負にならないのはわかった。時間と体力を削られるだけだ。まあ…………あんた相手に安全で安定した勝ちなんて期待するほうが間違ってるよな」
そして、
「【
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます