73.夜鳥
「あっ、ひゃーーーーひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! ウケる! わーらーえーるーーーー! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
死神の牢獄へと堕とされた湘南の一角にて。
死怨の
その声色が、逼迫している。
余裕からくるいつもの侮りも嘲りも、感じられない。
「洒落んなんなんなんなんないってばぁー。どーすんのよ【
そう言いながらに並走するもう一人の
「どーもこーもどうにもなんないよねぇーこれは。死ぬ気で逃げるっきゃなくねー? あれらと真っ向勝負する気なんかサラサラ湧かないし、勝負したところで勝ち目なんかほぼないし、万が一勝ったとしても得るものなんてないしぃー」
「
「あっひゃ! 言ーえーてーるぅー。で、どーする? あのお二人足も速いからちっとちゃっと話してたら追い付かれるよ? お得意の絨毯爆撃でもしてくれない?」
「やっても良いけど無駄だと思うよー、多分足止めにもならないし、下手すりゃ視界が狭まる分自分達の首絞めちゃうかも。…………あーもーなんでこんな事になったんだか。後で報酬割り増ししてよね」
「えー? これは流石に不測の事態が過ぎるしさぁ。おれも大ピンチなワケだからほら、お互い様じゃね?」
「うっさい。労災でしょ。金寄越せ」
「うーーーん相変わらず守銭奴だねーーーー」
「守銭奴なのは私じゃない。ソシャゲの運営だ。もっと天井を低くしてくれればいいんだ」
そんな何の緊張感も無い軽口を叩きながらに逃げ回る二人の
それは両者共に真夏に似合わぬ純黒の衣服に身を包んだ、最古の死神達である。
「ええいっ!
その追跡者目掛けて銃撃する【
──パン。
と、間の抜けた音が響く。
追跡者の片割れ──やや青みがかった艶やかな黒髪をなびかせる女性
「児戯ね」
「うげーーーーっ。ミヤコちゃんも手こずったヤツなんですけどぉーー!」
勘弁しろと表情で語りながらに、【
厳密には街があった場所というべきか──既に【
そんな瓦礫の上でも速度を維持し、彼女らを追跡する者達──
「例の車輪娘といい、昨今の若いのは威勢と逃げ足は一丁前らしいな」
「いやねぇ、ザ・年寄りみたいなこと言っちゃって」
「年寄りだからな」
「だからって心もジジイになっちゃってどうするのよ。若々しさは精神から湧いてくるものなのよ? 知ってるかしら、『最近の若者云々~』って文言はソクラテスだかプラトンだかも言ってたそうよ? 年寄りって生き物は何千年も前から進歩してないと証明しちゃう事になっちゃうじゃない」
「んな事いくらでも証明させとけばいいだろうが。小童どもがいきがるのもまた何千年も前から変わっとらんのだろうしな」
「典型的頑固爺ねぇ、全く」
【
【
両者共に『始まりの
「無駄話は終わりだ、先にいくぞ」
「あらそう。どっち獲るの?」
「爆竹娘の方だ」
「お茶してたところをお店ごと吹っ飛ばしてきたのはあの娘だものね、了解。じゃ、あの毒々娘は私が担当。前にもおちょくられた借りがあったし」
そこで会話は打ち切られ、両者の体はまともに視認出来ない速度に達する。
標的目掛けて、一直線。
「うぎゃーーーー! キタキタキタキターーーー!」
「あー、痛いのやだなぁー…………」
泣き言を漏らしつつ、迎撃態勢に移る少女二人。
だったが。
「ぬん」
【
「たあ」
【
「はきゃっ」
「おぶぇ!」
双方共に正反対の方角へと吹き飛ばされる──見事に分断された形だった。
「…………きゃ、あが」
が。
「…………ふん。やはりな」
その巌のような表情を微かに歪めながら、【
その右腕は前腕の中程から先が、消し飛んで焼け焦げていた。
「儂の一撃にカウンターで合わせた奴なんざ何年ぶりだったか──あの車輪娘でも叶わんかった事だが。いやはや」
くつくつと笑みさえ漏らす【
最悪の強敵のそんな様子をよそに、何とか負傷を回帰させつつある【
「…………あーあ。こういうドンパチってホント柄じゃないんだけどなぁ。ねぇ大先輩おじいちゃん。ホント、爆破に巻き込んじゃったのは謝ります。ごめんなさい。私が悪かったです。でもそれは
「は。まあ確かにそうやって素直に謝るなら見逃してやらんでもない。やらんでもない、が──」
「が、とかいいですからそのままお目こぼし下さいませんでしょうかー」
「そうはいかんな。久々に骨のありそうな相手だ。たまにはしっかりと運動しておきたいという年寄りの我が儘だ。若人なら大人しく付き合え」
「えーーーー。そういうのはほら、もっと血の気の多い
「あの眼帯娘か。確かにあれはあれで一癖も二癖もある──まだまだ底は見せておらんと見た」
「そうっすねー。あの子まだ本気だしてないだけ、みたいな。そんな感じなのでほら、さっさとそっちに──」
「それらを考慮した上で、それでも──
──お前、【
「………………」
【
やがて、当の本人しか聞こえない声で何かしらをブツブツと呟いた後──自らの真髄を、解放した。
「…………【
──その名は無価値を意味するという、旧き魔神。
瞬間、赤黒い爆炎がその手の中で炸裂したかと思うと──その爆炎は【
「ほぉ──さっきの眼帯娘といい、最近の
その手に現れた死の形。
それは──
「…………爆ぜろ老害」
「断る」
そうして、互いの暴力と死をぶつけ合うべく、双方の死神は激突する──
──その、一方で。
「さて──そろそろ貴女が何を企んでいるのか、教えてもらおうかしら? 悪戯好きの【
「…………前にミヤコちゃんに言ったのが全てなんだけどなぁー。何にしてもあんたに言う義理ゃぁ無いっての」
吹き飛ばされた先で立ち直った【
元来
「あっそ。まあそう言うのならこれ以上は訊かないわ。興味はあるけどそれだけだもの。取り敢えず──貴女を徹底的に壊してあげる。原形が無くなってもその上から延々と【
「おっとなっげねーーーー。はあーああ。今回なんっでこんな災難ばっか降りかかってくるのかなぁ! やること成すこと邪魔入っちゃうんですけどぉ! 酷いよ! なんでみんなよってたかっておれをいじめに来んのさ! おれはこんなに一生懸命頑張ってるのに! 真剣に努力してるのに! 他人に意地悪して何が楽しいのっ! 心が痛んだりしないの!? この鬼! 悪魔ーっ!」
その目に涙さえ滲ませながら、【
「おれが一体何したって言うのよーーーー! 何も悪い事なんかしてないのにいいいいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!」
──【
──【
──開戦。
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