70.抑
「──やっぱ決定打にはならないか」
ブチ、と指のヨーヨーの糸を千切りながらに独り言ちる。
「うわわわわわ、ぐっちゃぐちゃになってたのにめっちゃ治ってる──というより元に戻ってるぅ。動画の逆再生みたい。キモーい」
「~~~~…………っ」
あたしの放った車輪達にその身をズタズタになるまで轢かれた【
追い撃ちをしたいところではあるが、またぞろあの
…………あーもーホントに鬱陶しい
もっとスカッとわかりやすい闘いにしてほしい。
「本来はヨーヨーやフリスビーは
「ど、どの道回復されちゃうんじゃ大して効果的じゃないんじゃないですかね?」
「いや、どんだけ強大な
そりゃお前が半端者だからじゃないのか、などとも言われてしまいそうだが、この件に関してはちゃんと裏付けは取ってある。
何を隠そう、あの
女王様がそう言うんならそりゃそうなんでしょうさ。
「…………で、あの
「…………んー、さっきのなら…………まあ…………二、三十回ぐらいぶちこめば」
「無理でしょ!!」
「無理だけどさ」
しゃーないだろ。
限界はあるけどその限界は途轍もなく遠いよ。そういうもんなんだよ。
──あたしが
本気で
…………勿論、言うは易く行うは難し、というヤツなのだけれど。
当然ながらどんなヤツでも弱点はガッシリ守ってるもんだし、その位置はどこだかさっぱりわからない。
まあ頭か心臓かの位置にあるのが多いが、それも比較的というだけで確信には至らないのだ。
「全身まとめて跡形もなく潰したり出来れば文句無しなんだけど、まあ机上の空論ってヤツだよねー」
「どどど、どうすんですか! つまりジリ貧の打つ手無しって事じゃないですか!」
「んー、いや、そこまで悲観したもんでもないよ。実際。勝ち目は見えないけど敗けの目も見えないし。今んトコ」
「はひ?」
確かにあの周囲に張り巡らされた
が。
向こうもあたしに対しては碌な攻撃手段が無いのだ。
見たところあの
「つーまーりー。あたしはあいつに攻撃できないけどあいつもあたしに攻撃できないってこと。少なくとも、現状ではね」
「…………仰る通り、だ。このままだとどれだけやりあっても決着はつかないだろうな」
粗方回帰を終えた【
「そだねー。泥試合は個人的には嫌いじゃないんだけど、どうする? する?」
「断固拒否させてもらう。そういうのはこれっぽっちも柄じゃないんでね」
「そっか。まあそれは見ればわかるけど…………それじゃどーすんの? 【
「わかってて訊いてるだろ…………やなこった。僕の場合、自分からあくせく闘うのがもう向いてないんだよ…………まあ弱音吐いたってどうにもならないのは百も承知だけどね」
【
「…………またぞろパシりを闘わせようっての?」
「ああ。僕の攻撃じゃ追いつけない以上、他力本願といかせて貰おう。ま、バクチの類ではあるけどね。このままグダグダ闘るくらいなら、さっさと運を天に任せて決着といこう」
「おー、いいね。そういうわかりやすいのは大好きだよ」
【
「──混ざって弾けろ。【
その言葉は、紛れもなく
死の国の穢れを象徴し、災厄を司るとされた
それが今、
「■、■■■■■■■■■■────!!!!」
屍人達は世界を劈くかのような慟哭を響かせると──ボコリ、とそのシルエットを変動させた。
「な──」
思わず絶句。
するあたしに構うことなくそれらは膨れ上がり、互いに互いを呑み込んでゆき、やがて5mはありそうな巨体へと変貌していた。
「…………これ、病気ってレベルじゃないでしょ絶対」
そうツッコまざるを得なかった。
「突然変異ってやつだ」
「便利な言葉だね! 滅茶苦茶過ぎるわ!」
「僕が病気だと思ったら病気なんだよ──じゃ、ダメか?」
「むぐぅ…………!」
「あ、それで取り敢えず納得はするんですね」
あたしは良い子だから自分の事を棚に上げたりしないというだけの話だ。
「僕の全精力、この変異体にぶち込んだ──さて、決着をつけよう」
「了解。…………
「丸投げですねぇ…………てか、いいんですかそんなアバウトな感じで。アタシが勝手してヘマする可能性とか、考えてないんです?」
「考えてなくもないよ? その時はその時。ってか、そうなったら潔く負ける」
「はあ? 自殺志願です? 別に死んでもいいってワケですか?」
「んなワケあるか。あたしは死んでも死にたくないっての。でも、あんたを使えると勝手にこの闘いに引っ張りこんだのはあたしの判断だし? それが裏目に出たらそりゃあたしのポカじゃん。あんたを信じたあたしの自業自得だよ」
「…………耳が遠くなりましたかね。えっと、アタシを信じるとか言いました?」
「え、うん。信じてるよ?」
「……………………」
「あんた、性根はクソだろうけど生き汚さは本物でしょ。勘だけどねー。だからそれだけは信じてあげる」
「………………よく堂々と言えますね、んな事。これだけは言っときますけど──アタシはあなたが嫌いです。あなたがアタシを嫌いなように」
「そだね。あたしはあんたみたいなの一番嫌いなタイプだよ。けど、好き嫌いの話はしてないから。信じるか信じないかの話だから」
体勢的に、あたしは
が、間違いなく碌な表情はしてないだろうなぁ、とは思う。
「…………嫌いなヤツを、信じられるんですか、あなたは」
「うん」
当たり前じゃね?
さっきも言ったけど、好き嫌いの話はしてないじゃん。
「……………………何それ、キモッ」
「おいこらマジなトーンで吐き捨てやがったなテメェ」
そんな風にあたしらがギャーギャー言ってる内に。
あちらの準備も整ったようだった。
あちこちが青紫色に膨れ上がった肉の巨人は、幾つもの腕やら頭やらが生えてきていてそりゃーもーグロい。例えるならアレだ、TとかGとか、そういうの。
「■■■■──■■■■■■!!!!」
あたしを前に用意するのだから、と察してはいたが、巨人はその大きさからは想像もつかない程の速さで襲いかかってくる!
「──三速」
が、やはりあたしに追いつける程ではない──しかしそれでも充分なのだろう。
何せ体格が、即ち
まあ背後の大仏様にはまだまだ及ばないものの、5mを越える巨体が暴れれば質量的にそりゃヤバい。
そしてそれだけではなく──あたし達に向かって振るわれたその腕。それが命中の寸前に、バラけた。
まるでさながら網のような形に!
「んゲッ!」
どうやらその腕は元々一本ではなく、複数の腕が束ねられて象られたものだったようで、速さと長さに加えて広さ、広面積の攻撃を叩き込んできた。
「いやこれ、網っつーかハエたたきか!」
あたしの自慢の速度は迎撃されればそのまま仇となる。
当たらなければどうということはないなどと言うのは簡単だが、逆に言えば当たればヤバいのだ。そりゃそうだ。
ただ、当然。
あたしはハエ程大人しくない。
「死神走法──
網の目を一撃目でぶち破り──二撃目を足掛かりにして巨人の身体を駆け上がる。
「追撃のぉ──
そして巨人の頭部目掛けて渾身の一撃を叩き込む。
頭部はボチュリという湿った嫌な音を立てて爆散した。
返り血──或いは返り体液?──を浴びないよう勢いのままに突っ走ろうとしたところに、すかさず巨人のローキックが放たれた。
「頭は関係ないんですかぃ!」
傴品が悲鳴を上げるが、構ってられない。三速のスピードでそれを跳躍して避ける。
だが、攻撃直後の硬直を狙われ、そしてそれを更に回避したあたし達の身体は宙に浮かんでいた。
相手がそれを狙っていた事に気づいたのは、コンマ数秒後。
巨人が、跳んだ。
「フ、フライングボディプレスぅぅぅ!!」
頭部を失った巨体は、しかしまるで衰えを見せずにあたし達を押し潰そうとする。
着地するのはあたし達のが一瞬早い。その一瞬で逃げ切ってみせる──と思った途端、再び巨人の身体がバラけた。
さっきの腕一本どころではなく──全身が。
「マジかよっ…………!」
範囲が広すぎる、避けきれない──
ズズゥン…………
轟音。
砂埃。
それらを。
「──【
黒き満月が、貫き祓った。
落下してくる巨人の身体を食い止め、僅かながらに
「充分! ぐっじょぶ!!」
すかさずあたしは
「え──」
「後は任せな。勝つから」
「バっっっ!!!!」
この一撃を防げたならもう充分過ぎる。巨人はさっきのあたし達同様、身動きの取れない空中で隙を晒している。
「余すとこなく──死に花、咲かせろおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
三速の速度であたしは宙の巨人を網羅するかのように車輪で轢き倒す。
「死神走法──
五つの轍を刻み込まれ──病の巨人は炸裂する。
中に詰まった、
「んなコトだろうと、思ったよ!」
あたしはすかさずヨーヨーを射出。
またぞろ
「あ、ヤバ」
「スッ
まだ拡散されきってない
「これでぇ! お終いッッッ!!」
ぎゃりん、と車輪が軋む。
決着を告げる音だった。
──【
勝者、
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