71.異作動
「お…………終わった? 勝った?」
致命傷を与えられた【
【
「あーだる…………ギリ
気だるげな声色でそう呟く
ともあれ
「…………えーっとー。死んでます?」
と、【
「…………いや、まだだね」
「うぴゃあああああああああぁぁぁ! まーだ生きてたああああぁぁ! やめてやめて見逃してぇーー!!」
「…………自分から話しかけといて…………そのリアクションはどうなのさ…………」
消滅寸前の
ともあれ未だ意識は残っているらしい【
「そんな怯える事もないよ。紛う方なき致命傷さ。鮮やかなる一撃必殺──いや、一撃じゃなかったか。さっきの飛び道具での雨霰、あれで庇ってる急所…………【
仰向けになりながら、【
「え、えぇっと、えーっと…………割と元気そうですね?」
「いや、全然元気ではないね。致命傷喰らってるからね。もう存在は一分も保たないだろうね」
いともたやすく、【
泣きも喚きもせず。
ただ、あるがままに、なきものとなる。
「……………………死ぬの、こわくないんですか」
「…………はは、
「…………アタシの事はいいですって。質問に答えて下さいよ」
「んん。難しいような簡単なような質問だね。そもそも、僕ら
「だからこそ、訊いてるんです。こわいか、こわくないか。こわくないというなら──何故、こわくないんですか。一度死んだら、慣れるものなんですか。慣れれば耐えられるものなんですか」
「──まさか。慣れる耐える以前の問題だよ。そもそも僕たち
「特権…………人間だけ? そんな、事…………」
「いいや、事実さ。気がついてないならそれでも構わないとも思うけど…………曲がりなりにも死と向き合うものであるならば、覚えておくといい。生も死も、本来存在しないものでしかないんだ。正も誤も、本来存在しないようにね」
「………………生きるも死ぬも、同じって言いたいんですか」
「んー…………君にとってはそうじゃなくってさぁ…………まあいいや。お節介なお説教は野暮ってもんだ。そろそろ、時間みたいだしね」
そう言い終わるかどうかのうちに、【
「あ…………」
「そんな顔するもんじゃないよ。同情するならまだしも、君の場合はただ共感して忌避してるだけだろうに。ま、何にせよ僕はここで退場のようだが、君らにとっちゃここからが本番だ」
「あん? どういう意味?」
やや離れた位置で眺めていた
「今日という日は、ただの初日だってのを忘れちゃ駄目だぜってことさ…………僕を撃破したボーナスとして教えるけど、此度の祭宴の日程は全三日。今日を越えてもまだ三分の一だ。精々気張っていくことだね…………僕を倒しちゃった以上、もう残りの刺客は大御所か超のつく武闘派のどちらかしか残ってないんだから」
「…………ご忠告どーも」
とまれかくまれ病と穢を操る恐るべき
「…………終わったかー。取り敢えずこれで、湘南オブザデッドは打ち切りってことで──」
そこまで言って周囲を見渡す
そこには。
「■■■■■■…………」
「■■■ー■・■ー■■──」
相も変わらず、高徳院内を徘徊する屍人達の姿があったのだった。
「「…………あれ?」」
思わず二人は間の抜けた声を上げる。
無理もないだろう。
【
だというのに、【
「いや、違う…………変わった」
直観的にそう悟ったのは
目前の屍人達の行動原理──
虚ろだった筈の屍人達の目からは、これまでとはうって変わった、原始的なまでの欲求のようなものを感じる。
「いや、変わったというより…………
──次の段階へ。
【
これまで
ならば、三つ目?
「違う…………人を媒介にしたのはあくまで【
──【
差別化され、独自性を得てこその【
いずれも相反しあう筈の【
例えば
「…………無いだろ」
人が死するならば、その時はそれだけの要因が必要だ。
車輪がない場所で【
その要因を体現するものこそが、
だから、ある筈がない。
火のないところに煙がないように。
「何の理由もなく、人が死ぬことは──」
「いや、何もなかったら人は死ぬでしょ」
呆れたように
それは、
「■■■■…………」
「■■■■■■──!!」
屍人達は、唸り声を上げ、口蓋から唾液を撒き散らしながらに迫り来る。
鬼気、迫る。
熱に浮かされたような先程までの様子とは、また別の気迫を以て。
それは、まるで
渇望、している。
「何も、ないから──死んでる…………!」
咄嗟に
──こわかった、から。
その屍人達は驚異としては、先程とさして変わらない。
自身なら何の問題もなく、容易く蹴散らせると、そう理解していながら──
「──ヤバい」
「です、ね…………」
その紅潮した顔色からみるに、熱があるらしい──【
そんな事は、最早
あの【
あれは、これまでに見たどんな【
おそらくは【
人の根源──原始的欲求に働きかける【
他の要因など不要。
何もなければ、それだけで人はその
飢えて、渇いて。
「この限定された閉鎖環境での
心底からうんざりした声を出し、
「──【
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「あぁっちゃーー。ハイトやられちゃったみたーい」
「白々しい…………インドアな【
地獄の宴の、蚊帳の外。
死の牢獄と化した湘南の外側で歓談する今宵の祭りの主催者達。
両者はとある喫茶店にてのんびりと茶を楽しんでいた。
「失敬ねぇ。私ほど
「三割は充分に敗色濃厚と呼べる数字だと思うがな」
我等が女王の無茶ぶりはいつもながらとはいえ、【
「ま、これはこれでそれはそれでって感じなのよ。どちらに転がっても私達に損はなかった。
「別に上手くないぞ」
「ちぇ、辛辣だなー…………ま、こうなった以上第二の
「そうか。まあ、だとすれば同僚に称賛の言葉でも手向けておくかな…………アイツも【
「いっやー、ハイトはむしろ我執アリアリだったと思うけどね。拗らせが一周回ってシンプルな
「…………何にせよ、今のところは脚本通りと言っていいのか?」
「うん。【
「ああ、あの二人のところへ飛ばしておいた。適当に
「…………あの二人って、あの二人?」
「ああ」
「うっわっ…………エグっ…………
「現況、人間の数を他の【
「心配性なだけじゃない? 現場での対応だけじゃどうにもなんないって。それ以前に決定付けてるんだから、こっちは。ま、念には念を入れるに越したことはないのも事実だけどねー」
肩を竦める【
その企みの行き着く先は、果たして。
「取り敢えず、この初日で【
「問題ないのか? 【
「それはそうだろうけど、別にコッチだって黙っているワケがないんだし? 何のために【
「は、そりゃそうか。中の同僚達はまだまだ無茶ぶりを押し付けられるワケだな、同情するよ…………やれやれ、【
「やー、あの子は今回みたいな窮屈な舞台は向いてないでしょ。牢獄ごとカチンコチンにされちゃうわよ」
「違いない」
そう言うと【
「ともあれ、本日の祭りはこれにてお開き──明日に期待するとしましょう? 今日なんかとは比べ物にならない、ド派手で楽しい、愉快痛快極まるお祭り騒ぎになるんだから」
【
──ぐぎゅるるるる。
湘南の何処かで。
その音は、絶えず響き続けていた。
「…………お腹、すいた」
二日目に続く。
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