61.勲
目前にて猛る【
先程の大海嘯で一気に押しきれればと思っていたが、流石は
とはいえ、【
「だーーーーあああぁぁぁらあああああああぁぁぁぁッッッ!!」
降って湧いたかのように現れた水上自転車を駆りながらに【
「っとぉ、寄られたら勝負にならねぇ…………距離とらねぇと、なっ!」
海面を滑るようにして即座に距離を取る【
しかし。
「自分から仕掛けといて、日和ってんじゃねーーってのーーーーっっっ!!」
大音声でがなりたてながらに【
「おいおいおいおい…………水上でも機動力は健在かっての!」
「健在なワケねーでしょがいっ! 六割減だわ!」
「それで俺と同速ってか…………! 噂以上の韋駄天ぶりだなおい!」
【
「となりゃ、使えるモンは片っ端から使わなくちゃあ、なぁ! ──来いお前ら」
その呼び声と共に、海上に新たな影が幾つも現れる。
それらを目にした【
「何かと思えば──
海上を走る
それを見て拍子抜けの意を示す【
「こりゃ手厳しいねぇ。とはいっても返す言葉もないド正論だがな。仰る通り、俺の劣勢は動かないだろうさ。だからこそ、どんな手段も片っ端から使ってやる」
「そりゃ結構。じゃ、なんだってご自由に試してみれば? ──全部轢き潰したげるからさ」
威風堂々と、【
「勿論、遠慮無く──わざわざ志願した、一世一代の大勝負だからなぁ」
「は? 何あんた、自滅志願? そういうの割かしマジで萎えるから止めてほしいんだけど」
「まさか、あくまで勝つ気でいかせてもらうが──分の悪い勝負になるのは間違いないだろうからな。もっとも、それこそ望むところだが。お前にならわかるんじゃないのか【
「はあ…………あー、確かにあたしもあたしで格上に突っ掛けるのはしょっちゅうだけどさ。それはムカつくヤツがたまたま格上だったってだけで、理由もなく自分より強い相手に喧嘩売ったりはしないよ」
「理由なら、俺にだってあるさ。俺だけの、譲れない理由がな…………」
「へーそう。興味ないや」
「そう、あれはまだ俺が人間だった頃の話になるが…………」
「興味ないっつってんでしょうが何勝手に回想に入ろうとしとんじゃ! 隙自語!」
そんな【
「俺は仕事は漁師、趣味はサーフィンの海に生きる男だった…………ガキの頃から海と一緒に育ってきたようなもんさ」
「
「ある日俺は長い漁から帰り、自宅の風呂で寛いでいた」
「そりゃ結構ー」
「疲れが溜まってた事もあり、湯船に浸かったまま眠りこけた」
「よくあるねー」
「そしてそのまま沈んで溺れて死んだ」
「………………」
【
尚。
風呂場での死亡者数は年間二万人に達するとも言われている。
「お前に俺の気持ちがわかるか……?」
「 ぜ ん ぜ ん 」
ブンブンと首を横に振りながら【
「もちろん、こんなアホクセェ話に共感してもらおうなんざ思っちゃいねぇさ」
「そっか。そりゃ助かるよ。大いに」
彼女にしては珍しく、無表情かつ抑揚のない声で【
それを見ても大して気にとめる事もないまま【
「果てしなくしょーもない幕引きだった筈の俺が、何の因果か今こうしてこの世に留まっている…………だったら望むことは一つだ。今度は、今度こそは! もっと、こう、他人に面目立つような最期を迎えたいってな!」
「…………が、頑張れば?」
「頑張るともさ。今からな」
足元のサーフボード──の形状をした【
それを見た【
「あーーーーそっか。なるほど。つまり、あたしはあんたにこう言えばいいワケだ。正しく」
そこで【
「──死に花咲かせろ!」
◆◉◆◉◆◉◆◉◆◉◆◉◆◉◆◉
◉◆◉◆◉◆◉◆◉◆◉◆◉◆◉◆
──と、いつものキメ台詞を本来の正しい意味で使用しつつあたしは改めて戦闘態勢をとる。
相手の【
「いけ、
目前で海面を滑走し続ける
ただの雑魚──ではないようだ。何やら厭な気配が漂っている。おそらくは【
が、雑魚は雑魚だ。ただの雑魚じゃなくて面倒な雑魚なのだとしても、戦力差は埋まらない。
現在戦況は膠着状態と言えるだろう。サーフボードに乗る【
うーん煮えきらね~。
襲い来る
初手の大津波ではそれなりにダメージを喰らった。おそらく噂で聞いた【
「とにかく、距離詰めないとお話になんないなコレ…………けど手持ちの
小細工含めて全身全霊ってか。
まあ、そういう意気込みは良いことだと思う。
もちろん、だからといって大人しくやられる気はサラサラ無いけどね。
「…………一発勝負になるな。外せばジリ貧かも。ま、向こうも長引かせる気はないでしょう」
必ず乾坤一擲の勝負を仕掛けてくる筈だ。
あたしはそれを真っ向からブチ破ってしまえばそれでいい。
「──潮目が整った。派手にいくぜ」
笑みを浮かべながら、【
「待てやぁ!」
あたしは当然その後を追って水面を駆ける。
「吸い込まれろ──
海面に幾重にも描かれた螺旋の飛沫、それらが具現化するかのように生まれたソレは──
「渦潮!? うお、ヤバっ」
現れたそれは猛烈な勢いであたしを海中へと引きずり込もうとする。
「さっきの乱雑な大海嘯とは一味違うぞ──一度飲まれりゃもう海上には返さねぇ。そのまま土左衛門にしてやるよ」
唸るような潮騒を響かせてその渦は勢いを増していく。
成る程。
確かにこれは切り札だ。
この規模ともなれば
ならば。
「受けてたつのが礼儀ってヤツだよね」
そうしてあたしは水上自転車のサドルを踏み台にして、飛びこむ。
その渦潮の──
──中心部へと。
「──は?」
【
「【
蒼き大車輪を手にし。
あたしは敢え無く渦潮の中心へと落下し──
「死神走法──
全霊の
渦が消えた。
「…………何を、した」
気付けば風も波もない静謐な凪の海の上で。
【
あたしはその問いに何気なしに答える。
「技のチョイスがしくってたね──渦潮は良くなかった。
ポリポリと頭を掻く。
潮でべちゃついてる。
人間の頃なら髪へのダメージを心配しただろうが、
「──渦潮と逆の回転を叩き込んでやった。そうすればプラマイゼロで、消えちゃうよね」
「──! クソが──」
再び距離を置くつもりか、背後へ退がる動きを見せる【
でも、それは叶わない。
大津波といい大渦といい、大規模な攻撃を連発出来ないのは明らかだ。
今のあんたに手札は無い──もちろん次の札を引くのも許さない。
彼我の距離は25m程か。
無いのと同じだ。
「──死神投法」
あたしは手にした大車輪を大きく振りかぶって。
ブン投げた。
「──
音にも並ぶ速度で投擲されたその車輪は、あたしと相手の距離を瞬で埋めて──
「──ち」
末期の言葉すら許すこと無く。
【
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