断崖ヒーロー──③
【
第二作戦室にて。
「おつかれさまでーす」
そんな声と共に部屋に入ってきたのは、
「気の抜ける返事は止めたまえよ、
「いーじゃないっすか
そしてその隣に座っていたのは、
「あっれ?
「それだけ重要な案件と言うことでしょうね、
そう言ったのは、
「あー、
【
「
「ええ、あの子はウチの隊員の中でも特に手のかからない良い子だから。いずれは私の後を継いでもらいたいものね」
「いやいやー、
「そう? けれど既に同期の中で一抜けして隊長を務めてる子がいるものだから、結構焦ってるのよ
「お前には十年はえぇって言ってやって下さいよ
「うんうん、立派だねぇ
盛大にため息を吐きながら、
「同級生の
「はっ。生憎とその類の言葉は、一番あの正義猪が毛嫌いするもんですよ。耳にした瞬間、湯沸し器みてーに沸騰するのが目に浮かぶ…………
「だよねぇ~~…………まあ正論が嫌いなお年頃ってことで。けどほら
「悪化する事はあっても良い方向にいくことはないと思うっすけど。俺は俺で、あいつの正義の味方ごっこ認めてねぇんで」
「うーんホントに正論だねぇ手厳しいなぁ。
「…………ったく、結局
「かもねー、あははははは」
そんなどこか長閑な雰囲気を引き裂くようにして、最後の一人が入室する。
「──全員、揃っているな」
厳格な人柄を隠そうともしない重苦しい声色でそう告げたのは、壮年の男性だった。
名は、
現【
「ではこれより緊急対策会議を行う。早速だが本題に入らせて貰おう──今日ここに諸君らを収集したのは、近日中に
その言葉を聞き、瞬時に室内の意識が張り詰めた──【
「
「なるほど。それで本来管轄外である
「その通りだ
「優先順位というものがあります。妥当な判断ですね」
(…………
▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
──深夜。東京某所。
とある隠れ家バー、カウンターにて一人の男が静かに呑んでいた。
看守服にも見える大仰な黒いロングコートに身を包むその男は、しかし店内において誰にも認知されていないかのように静かに佇んでいる。
しかし、そこに一人の老人が現れ、男の隣の席へと腰を下ろす。
「──お久しぶりですな」
「…………二十二年ぶりだ。無論、時間の経過など
「そうですかな? 虚しく感じるかは個人の裁量でしょうが──無為な刻などこの世に在りはしませんとも」
「ふ、よりにもよってあんたにそれを言われれば、閉口するしかないがな…………それで、どんな要件だ?」
「えぇ…………我らが女王、【
「…………はぁ。憂鬱な話だ」
男は露骨にため息を吐き、厭そうな顔を隠そうともしない。
「とはいえ、前代の彼女が種蒔きを粗方終えていたようですので…………あとは事を興すだけということです。まずは芽吹いた種子の剪定から入るとの事ですので、声がかかったのが私と貴殿というワケですな」
「そうか…………やれやれ、面倒なことにならねばいいがな」
「あくまで始まりの始まり──熾火をつくる程度の事と聞いておりますがね」
「それで済んだら、確かに大した手間にはならんだろうさ」
カラン、と氷でグラスを鳴らしつつ、彼は──【
「それで済んだら、な」
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【
そこに、無遠慮に隣にドサリと座り込む者がやってくる。
「こーんちはー。
「…………そうだが」
好きになれない
「やー、すみませんねー不躾に。けど一目見てみたかったもんで。噂のスーパーヒーローさんを」
「喧嘩売ってんなら買うが。二束三文で」
「いやーまさかまさか。僕の喧嘩は高いですよ。そんな安値じゃ売れませんねー。とか言っちゃって言っちゃって、ただの新入りなんですけどね僕」
ケラケラと笑う糸目少年。
が、楽しそうな雰囲気は微塵もない。
「どうりで見たことねぇ顔だと思ったよ。で、何のようだ」
「やだなー、見かけたから声かけただけですよー。用件がなきゃ話しかけちゃダメですか?」
「おれは用件がなきゃ話したくねぇな、少なくともお前みたいなヤツとは」
「たっはー! 手っ厳しー! ま、実際僕も暇潰し100%で話しかけてるので返す言葉もないんですけどねー! ほら、あそこのブースで演習してる男の子いるでしょ? あの子の付き添いでして」
「…………ならお前も演習に付き合えばどうだ、隊員なら」
「え、嫌ですよ。疲れますもん」
「そうか、おれは現在進行形で疲れてるよ」
「そーですかー、ごくろーさまでーす。…………あ、終わったみたいですね、よかったよかったー」
途端にその少年はベンチから立ち上がり、速やかにその白い髪の男の子へと駆け寄っていく。
どうやら掛け値なしの暇潰しで
…………そのままスルーすべきなのは承知していたが。
しかし、不思議と
「…………お前、名前は」
「…………」
その問いに糸目の少年は足を止め、しかし振り向きはしないまま答える。
「──
そう言うと用は済んだと言わんばかりに、「おーい
「…………帰るか」
なんだか馬鹿馬鹿しくなった
が。
白髪の少年が。
その紅い瞳で、ずっと自らの背中を見据えていた事には──最後まで、気づかないままだった。
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